ネオンの淡い光が揺れるバーのカウンター。グラスを傾ける音と静かなジャズが流れる中、ひときわ目を引く男がカウンターの隣に座った。
スラリとした長身、シャープな輪郭、整えられた髪。まるで雑誌から飛び出してきたような彼は、さらりとバーテンダーにウイスキーを注文すると、自然な動作で隣の男に視線を向けた。
「一人?」
声をかけられたのは、美しい顔立ちのサラリーマンだった。漆黒のスーツに身を包み、細身ながら端正な顔つき。その瞳はどこか遠くを見ているようで、繊細な印象を与えた。
「ああ、仕事帰りで少し飲みたくなって」
静かに微笑む彼に、モデルの男は興味を引かれた。都会の喧騒の中で、こんなに上品で儚げな雰囲気を持つ男は珍しい。手元のグラスをくるくると回しながら、少し楽しげに口を開く。
「俺も似たようなもんだ。息抜きにはちょうどいい場所だよな」
二人の会話は、自然に続いた。
モデルの男は仕事柄、多くの人と会話をする機会があるが、ここまで心地よく話せる相手は珍しいと思った。サラリーマンの男は適度な距離感を保ちながらも、笑みを浮かべるタイミングが絶妙で、その仕草一つひとつが美しく見えた。
グラスが空になる頃には、互いに名前を名乗り、少しばかりの素性を語り合っていた。
「……君、綺麗だね」
ふと、モデルの男が呟く。その視線は真剣で、隠そうともしない興味が滲んでいた。
「……よく言われるよ」
サラリーマンの男は照れ隠しのように微笑みながらも、その瞳がどこか揺れているのを隣の男は見逃さなかった。
「今夜、もう少し付き合わない?」
その誘いに、一瞬の間。
しかし、次の瞬間には微かな笑みとともに、サラリーマンの男が頷いていた。
その夜、二人は体を重ねた。
まるで夢のような時間の中で、交わされる熱と吐息。
最初は一度きりの関係のつもりだった。
……だが、翌朝になっても相手のことが頭から離れないのは、どちらも同じだった。
目を覚ました時、隣にはまだモデルの男がいた。
「……おはよう」
低く甘い声が耳元で囁かれ、サラリーマンの男は無意識に目を細めた。
「……まだいたんだ?」
「君が可愛かったからね。帰る気にならなかった」
モデルの男は余裕のある笑みを浮かべながら、さらりと髪をかき上げた。その仕草すらも絵になる。
「それとも、迷惑だった?」
「……そんなことないけど」
サラリーマンの男はふと視線を逸らしながら呟く。昨夜の出来事が鮮明に思い出され、微かに頬が熱を帯びる。
この関係がどこへ向かうのか、まだわからない。
けれど、少なくとも今は、互いにもう一度会いたいと思っている。
「じゃあ、また会おうか」
「……そうだね」
そうして、二人の物語は静かに始まりを迎えた。
数日後、サラリーマンの男は仕事帰りにスマホの通知を見た。
『今夜、会えないか?』
送信者はあのモデルの男だった。
思わず指が震えそうになる。ほんの一夜の関係だったはずなのに、こんなにも簡単にまた会う約束を交わすことになるとは。
しばらく逡巡した後、『いいよ』と短く返す。
数時間後、指定されたホテルのバーで、また二人は再会した。
「久しぶり」
「……そんなに久しぶりでもないだろ」
微笑むモデルの男の手には、いつものウイスキー。
「こうしてまた会うってことは、君も俺のことが気になってたってことかな?」
冗談めかした口調に、サラリーマンの男は言葉を詰まらせた。
否定できない。
そんな自分に驚きながらも、彼は静かにグラスを傾けた。
