黒革の……
自分を変えたかった。
暗闇の底を這うような苦しみの中で
もう二度と、目覚めたくないと思った時に
手を差し出してくれた…
その手を取れば、もう後戻りできないって、感じてた。
だけど、孤独と苦しみから逃れられるのなら…どうなってもいい、って思ってしまったから…
雨に濡れたのは、涙を隠すため…
だけど、それは……自分の身を心配したからじゃないの。
昨日までの自分を、まだ、捨てられなかったから…
首に重く逆十字の証が嵌る――
寂しいだけの自由なら、要らないのです。
寄り掛かる温もりなど、幻想に過ぎないのです。
両手をいっぱい広げても、この手には何も掴めないから…
束の間でもいいのです。
「繭子が欲しい」と言ってくれたから…
それだけで、充分なのです。
恐れる事は何も無い。
失うモノは何も無いから……
ありがとうの花束
小さな温もりが、大きな存在だった 部屋には、もう何も無い。
心を慰める音も、聞こえない…
転校早々、迷子になって、見つけた優しさ。
いつでも望めば「お帰り」と言ってくれた。
大好きだったの…その言葉。
大好きだったの…あの音色。
大好きだったの…アノヒトが……
何も求めないと、希望は持たないと誓っていたのに…
優しくされると、求めてしまう。
希望があるんじゃないかと、勘違いしてしまう。
そんな自分の心に嫌気がさしたの…
汚れてしまった心ならいらない…
でも、違うの。
最初から、綺麗な心なんて持っていない。
唯一、わたしにできた事は…アノヒトが大好きだと言ってくれた笑顔を向ける事。
でも、それができなくなってしまったから…
そんなわたしが、アノヒトの傍に居ても、荷物になるだけだもの…
大好きだから、無理をさせたくないの。
大好きだから、幸せになって欲しいの。
大好きだから……ごめんなさい。
逃げだしてしまって、ごめんなさい…
だけど…
最初で最後の恋だったの……
幸せな気持ちをいっぱい、いっぱい与えてくれて、ありがとう……
ほんとうに、ほんとうに……ありがとう――
優しい時間
どうしてもひとりでいたくなかったの。
だって、雷の夜がとても怖かったから…
やっと上がった雨、
水溜りを飛び越えてお散歩した。
おそるおそる伸ばした指に触れた温もりが
とても優しくて、暖かだった。
本当は、とか
明日は、とか
そんなこと、どうでもいいの
暖かいと感じた一瞬だけでいい。
雲が風に流れて
恥かしがり屋の月が、遠慮がちに光を放つ
あんなに見たいと思って、見れなかった生まれ立ての月
一緒に見上げる人が居るって、嬉しいね。
お部屋へ戻ると、突然”ひとり”だと強く感じてしまって
毛繕いをする仔猫を抱き上げて、夢の中へ逃げ込む。
微かに射す光が、届かない暗い底へ落ちる前に、逃げなくちゃ…
夢の中で繭子を抱きしめてくれたアノヒトは誰だったのかなぁ……
ひとり
ひとりが寂しいとは限らない
誰かといる方が寂しい時もある
好きな相手と居る方が寂しいなんて
そんな寂しい事はない――
隠れ家で会った先輩は
静かにそう言った。
その言葉は、胸を締め付け るようで
辛くなったの。
もしも、気持ちが紛れるのなら
一緒に、月を見上げるよ。
何も話さなくてもいいの
ただ、笑顔で傍に居るよ――
衝動
短いメールが届く。
携帯を落しそうになるくらい、胸の奥を鷲掴みにされたようで、身体が震えたの。
衝動のまま、駆け出していた。
美しい月が見守る夜の道を……
捕らえてくれるなら
枷をくれるなら
何もいらない
嘘も誤魔化しも愛も恋も…何もいらない
何も考えられなくなるほどの熱を…
それだけでいいの。
何を望んでも、わたしの手には何も掴めないから……