小学生の頃、友達と一緒にバスで隣町へ遊びに行ったことがあった。

近所で遊んでいたときに急遽決まり、今のようにスマホなんてない時代。

母に内緒でバスに乗った。

 

住んでいた地域より少し都会に降り立ったわたしは浮足立っていた。

母に内緒で出歩くなんて初めてだった。

 

だけど当時ほとんどおこづかいをもらえていなかったわたし。

友達たちがハーゲンダッツを買っておいしそうに食べているのを

ただうらやましく見ているしかできなかった。

 

帰りのバス代を考えて、手元に残る残金は100円ほどだっただろうか。

 

自分の中ではせっかくの大冒険。

初めて母に逆らうような行動をしている自分。

後ろめたい気持ちと、相対する好奇心と高揚感。

 

何か記念品を自分に残したかった。

戦利品のような、自分を誇らしく思える何か。

 

見つけたのはサンリオショップに売っていた憧れのいちご新聞。

付録にサンリオキャラクターのシールシートが付いていた。

 

憧れのもの。全額出せば買えるもの。

即決だった。

 

どんなにねだっても買ってもらえなかったものが

少しの勇気で、今、自分の手に入ろうとしている。

 

小さなオマケのマスコットシールが貼られ、ピンクの手提げ袋に入れられた

”わたしの”いちご新聞。

 

これまでにこんなにワクワクしたことはあっただろうか。

これは今日のいろんなことが詰まった宝物だ。

ずっとずっと大事に大事にしようと思った。

 

・・・・

 

 

その帰路。

 

…家に一歩一歩近づくにつれ、募る焦燥と恐怖。

 

わたしは高揚感に気を取られて、失念していたんだ。

 

 

怒られる。怒られる。。怒られる。。!!!

 

 

こんな目立つもの、すぐ見つかるに決まってる。。

勝手におこづかいを使ったことがバレたらどうしよう。。!

勝手にバスに乗ったことがバレたらどうしよう。。。!!

 

どうやって家に持ち込めばいい?!

どこに隠せばいい?!

見つかったらなんて言い訳したら見逃してもらえる?!

 

いや、逆にここは堂々と持って帰って、近所の、駄菓子屋に、売っていた、と言えば。。

それくらいなら見逃してくれるんじゃないか。。

 

・・・・

 

 

その後の記憶は断片的だ。

 

帰り着いたときの母の機嫌はどうだったんだろうか。

 

わたしは上手く嘘がつけなかったんだろうか。

 

気が付いた時にはもう、身体が痛くて、わたしは号泣しながら母に土下座して謝っていて、

 

わたしの宝物はビリビリに破かれ、ごみ箱に捨てられていた。

 

 

 

 

 

その日、わたしは、いちご新聞と一緒に、いろいろ捨てたんだ。