こんにちは、2階のおばちゃんです。
日本はなんや急に暑くなって高温傾向やと思ったら急に涼しなったりで
ようわからん季節やね。
なんや日本の春は変わってしもたようでなんか寂しい気がするわ。
今、イギリスでどんなエキシビジョン(展覧会)やってんのかなぁ…と思て
いろいろ見てんねんけど、ミニマリズム(シンプルで無駄のない美学)とか
アブストラクト(抽象)、ストリートアートとグラフィティ(落書き)をミックスした
アーバン(要はバンクシーさんみたいな作品ね)あたりがまだトレンドになってる
感じやね。
政治、社会、人種、性別に関する問題や不平等や混乱を話題にしたものも多いなって印象やけど、それらの問題に対する「怒り」をぶちまいてるって感じよりは、
「理解」や「共感」を促進しているって感じやね。
因みに2023年のターナープライズを受賞したジェシー ダーリング(Jesse Darling)
さんの不安定で今にも崩れそうな作品、おばちゃんも好きやわ。
この人も社会的な問題を取り上げてるアーティストの1人やね。
© The Gardian / Image credit: Photograph: Angus Mill
今のアートシーンと90年代のアートシーンを比べると結構おもしろいねん。
おばちゃんの中では、90年代のアートは野性味のあるジャイアンって感じで、21世紀現在のアートはインテリっぽいスネ夫って感じやねん。
90年代はYBAsによる「ショックアート」と呼ばれた時代やったしね。
政治的とか社会的問題をコンセプト(概念みたいなもん)にしている作品というよりは待望の新曲発表を兼ねたジャイアンのリサイタルのような、とにかくショッキングなもの、不快に感じるもの、ビックリするようなものって傾向が強い感じやったわ。
そんな90年代のYBAsを世界的に確固たるものにしたと言っても過言ではない
エキシビジョンが1997年、ロイヤルアカデミー オブ アーツ(Royal Academy of Arts)で開かれてん。
普段はロイヤルアカデミー オブ アーツのことを「ロイヤルアカデミー」または「RA」とみんな呼んでるわ。
で、このエキシビジョンのタイトルが「センセーション」(SENSATION)という、
ほんまにジャイアンの新曲のような、いかにもなんか厄介なことがおこりそうな
タイトルやねんけど、その中身はおばちゃんの最初のブログ「FREEZEとYBA」でもチラッと名前だしたチャールズ サーチさんのYBAs作品のコレクションやねん。
1997年RAでの「Sensation」のポスター
さてと、先にRAとサーチさんについてザっと書いとくわな。
RAはアートギャラリーが併設されてる国立(王立でもある)のアートスクールで
1769年に開校して以来、イギリスのアート界では重鎮的な存在で権威と権力を
併せ持った芸術団体として認識されてるわ。
因みに、英王室や政府から何か援助してもらってるわけやないねんけど
「国立」になってんねん。
そんな権威と権力のあるRAで、これまたイギリスで知らない人はいないだろう
コンテンポラリーアートのコレクター(収集家)である王御所のサーチさんが
自分のコレクションであるYBAsの作品をお披露目してくれはんねんから、そら、
メディアが飛びついて大きな話題にするわけやん。
サーチさんは元ビジネスマンで弟と広告代理店「Saatchi & Saatchi」を
経営してはって80年代には世界的に有名な広告代理店となってガッツリ儲けた
はってん。それと同時にアメリカのメジャーなミニマリズムアートや
コンテンポラリーアートを次々に購入し始めて、その後、欧州のメジャーな
コンテンポラリーアートもコレクションに加えたりしてアートコレクターとしても
有名にならはんねん。
1985年にサーチギャラリー(Saatchi Gallery)をオープンしてコレクションを
展示してはってんけど、90年代からYBAsの作品に興味を持ち
買いあさりださはんねん。
おかげでYBAsの発展に大きく貢献する形になんねんけどね。
まぁ、金持ちのアートコレクターでYBAsを牛耳ってはる人って感じやわ。
「センセーション」は1997年にRAで開催された後、1998年にドイツのベルリン、1999年にニューヨークでも開催されるねん。
42人のアーティストによる総数110点の作品という結構大規模なエキシビジョン
やってんけど、実はあの頃イギリスに住んでるアートに興味のある人らにとっては、その110点におよぶ作品に強烈なインパクトを受けたわけでもなかってん。
それらの作品の多くはすでにイギリス国内で有名でメディアで話題となった作品
やったから、本物は見てないけどメディアで嫌というほど紹介されてたから
知ってるわ~って感じで、ほとんどの人は「あ~ あれね」って感じやったと
思うわ。
おばちゃんも「え~ あのチャップマン兄弟(Jake & Dinos Chapman)の気持ち悪いマネキン作品だすんか~ 見たないなぁ」って正直思ってた。
デミアン ハーストさんやトレイシー エミンさんやチャップマン兄弟は言うまでも
ないけど、マーク クイン(Marc Quinn)さんの自分の血液(約8.5リットル)から作った彫刻のような頭部の自画像である作品「Self」(セルフ – 自分自身ね)とか、
ジリアン ウェアリング(Gillian Wearing)さんの人間の内面的な人格と公的な人格
の不一致(家と外の顔 ー 要はそとづらのええ人やろか)を映し出した写真とか
ビデオも前から話題になってたから知っている人は多かったと思うわ。
そんなYBAs作品の「センセーション」は十分ジャイアン度が高いからRAは来場者たちに注意書きを掲示しはってん。
「このエキシビジョン「センセーション」は、人によっては不快に感じる作品も
展示されています。お子様をお連れの場合は、保護者の方の責任において
ご鑑賞ください。18歳未満の方のご入場をお断りしている部屋もあります。」
まぁ、どう考えてもチャップマン兄弟の裸の子供のマネキン軍団は見せられへん
やろうね。
う~ん、一応どんな作品か書いとくけど、鼻はペニスで口は肛門の形に置き換えた
子供のマネキン軍団やわ。
まぁ、ほかに死体作品(もちろんマネキン)も出したはったから興味ある人は勝手に
ググってな。
簡単に想像できると思うけど、こういうショックアートの展示については
ものすごい論争が巻き起こってん。
おばちゃんが知る範囲では、一番の論争劇やったわ。
こんなに世間を騒然とさせ各メディアが狂ったように毎日取り上げてた
エキシビジョンはなかったと思う。
特に凄かったのは、マーカス ハーベイ(Marcus Harvey)さんの作品
「Myra」(マイラ)やわ。
因みに1999年にニューヨークのブルックリン美術館でやった「センセーション」で物議を醸したクリス オフィリ(Chris Ofili)さんの「Holy Virgin Mary」
(聖母マリア)は、イギリスではそんなに論争とならへんかってん。
オフィリさんの作品に関しては前のブログ「ターナープライズ」を読んでな。
ほんで、「Holy Virgin Mary」やけどニューヨークではえらいことになって、
当時のニューヨーク市長やったジュリアーニさんが展示に反対しはって
ブルックリン美術館に対して訴訟を起こさはってん。
神聖なもの(聖母マリア)と浴的なもの(排泄物)がミックスされたペインティングが
あのおっちゃんには我慢ならへんかってんやろね。
ブルックリン美術館の方も館長のリーマンさんがジュリアーニさんを憲法修正第1条違反で連邦訴訟を起こさはって泥沼化に発展するか?って感じやってんけど、
最終的にブルックリン美術館が勝訴してめでたしめでたしで終わってん。
憲法修正第1条はザっというたら、宗教、言論、出版の自由を保障する法律やで。
話それたけど、ハーベイさんの「Myra」(マイラ)ね。
これ、Myraっていう名前の女性のポートレートやねん。
このマイラさん、イギリスで知らない人はいないと断言できるくらい
有名な人やねん。そう、殺人鬼で。
1960年代に起こった連続殺人事件で、ムーアズ マーダーズ(Moors murders
荒野での殺人)事件と呼ばれてるわ。
マイラ ヒンドリー(Myra Hindley)さんはイアン ブレイディ(Ian Brady) さんと
共謀し10~17歳の少年少女5名を殺害して(そのうち4名は性的暴行)、その殺害や
拷問の様子を写真やオープンリールテープ(カセットテープが出る前、1950~60年代あたりに流行った録音用テープ)に収めて遺体をマンチェスターの北側
サドルワース ムーア(Saddleworth Moor)に埋めてたという事件やねん。
一応、被害者5名になってるけど、わかってるのが5名ってだけでそれ以上いる
可能性もあり未だに全容解明にいたってへんねん。
二人とも終身刑になってマイラさんは2002年獄中で、相棒のブレイディさんは
精神異常と判断され2017年に病院で亡くなってはるわ。
イギリスに住んでいる誰もが知っていて見飽きたであろうマイラさんの写真を
子供の手形で覆いつくして完成させた肖像画が「センセーション」に展示されるって言うんやから、「センセーション」が開かれる前からすでに話題となっててん。
被害者の家族含め一般市民、評論家、メディア、そしてマイラさん自身も参戦し、
毎日のように展示すべきかしないべきか論争が繰り広げられててん。
From en.wikipedia.org
RA側としては、今回の展示の中で最も重要な作品やし非常に大きなカタルシスを
もたらす絵やからこれは見るべきや、これは真剣で冷静な芸術作品なんやと
主張しはってんけど、これが火に油を注ぐようなことになり怒りを買うことに
なってしもてん。
カタルシスは、悲惨な話や経験で心の中に溜まっていた恐怖や悲しみのような感情をあるきっかけでドバっと一気に吐き出して、あ~スッキリしたわって感じで
気持ちが浄化されることっていう意味やで。人間の心理って複雑やね。
被害者の家族は世間に「センセーション」を見に行かないよう求めたり、
展示期間中ずっとRAのエントランスの前でピケを張ったりしてはってん。
獄中のマイラさん自身も「この事件の犠牲者の家族だけでなく、
子どもが犠牲者となったあらゆる事件の家族が必然的に経験するであろう感情的な
痛みやトラウマを無視しているので展示すべきでない」と手紙を書いて
作品の撤去を求めはってんけど、RA側は拒否しはってん。
このマイラさんの手紙の内容をメディアで取り上げてはってんけど、
当事件の加害者やのになんか他人事みたいなコメントやなってめっちゃ違和感を
感じたわ。いや~人間の心理って複雑やね。
まぁ、とにかくサーチさんもRAもアート作品として展示すべきって主張は
曲げなかってん。おかげでRAの窓ガラスが割られたり、「センセーション」初日でインクや卵が作品の「Myra」に投げつけられて2週間の修復が必要となったりで
大変やってんけど、2週間後の「Myra」の再展示には作品の前に保護用の
透明スクリーンが置かれ複数の警備員が作品を守るという形でバッチリ保護されて
展示が続行されてん。
この「センセーション」の入場料、それまでのRAの入場料の中では一番高い
7ポンドやってんけど、3か月ちょっとのエキシビジョンの期間中、30万人もの人が高い入場料を払って「センセーション」を見に来はって成功裏に終わってん。
サーチさんもRAも商売繁盛でホクホク状態となってたやろな。
Ipsos MORI (イギリスの市場調査会社)によると、「センセーション」を見に来た
人の33%が「想像していたよりもずっと楽しめた」と答え、91%が「たとえ作品が衝撃的であったり不快感を与えるものであっても、RAはアートを展示すべきだ」と考えていることが明らかになってん。来場者の半数近くの48パーセントが
35歳以下の若い人らで、11パーセントが学校からの見学で見に来たという結果やってん。この「学校からの見学」っていうのはアートスクールや大学が多かったと
思うけどね。間違っても義務教育であるプライマリーやセカンダリーでは
無いやろうね。(Sixth Form(日本の高校に相当するかな)は知らんけど)
この結果を踏まえてRAの広報担当者がコメントだしてはんねんけど
心の中で「ありがとう、オーレ!」を歌ってる感じがするわ。
「今回のエキシビジョンで展示した作品がセンセーションを巻き起こし
人々に衝撃を与えたことは確かです。私たちは(RAは)人々に衝撃を与えることを
恐れていません。展示作品のアーティストらは国際的に高く評価されており
彼らの作品を展示するべきだというのが世間一般の意見でした。
大成功の結果となりました。」
ちょっと疑問に思うねん。
ずば抜けたすばらしいアート作品がRAで展示されているから教養を深めるためにも見に行こうと思った人はどれくらいいたんやろ?
人間って露骨なもの、珍しいもの、怖いものを見たいという心理があるもんね。
メディアが煽れば煽るほど、けしからんって言えば言うほど反対に好奇心が
湧き出てくるやん。
高い評価のある作品ってよりも、こんなに世間を騒がしてるんやし
ちょっと話のタネに見ておこうかってなるわ。
おばちゃんもその一人でした。
昔、日本で見世物小屋ってあったな・・・って思いながらしみじみと
「センセーション」を思い出したわ。
次回へつづく