一周忌から数日後の12月14日水曜日、だったと記憶している。

仕事中、母から電話がかかってきた。

席を外し、コッソリ電話に出てみると母がこう言った。

「今パパの会社の人から連絡があってね、パパ今日出社していなくて、連絡もつかない

らしいの。無断欠勤するような人ではないし、胸騒ぎがするからって、その人今からパパの家へ向かってくれるっていうの。ごめんね、あなた帰って来れる?」。

 

父とは弟の一周忌で会ったばっかりだった。

今度は父???

血の気が引く思いがした。

 

 

 

母と私が父の家へ到着すると、家はブルーシートで覆われ、救急車も消防車もパトカーも

とまっていて、もうそこはドラマさながらの光景だった。

その光景を少々遠巻きに見ていた。

今からあの中に入っていくのかと思うと、なんだか倒れそうな気分だった。

意を決し、母と2人現場へ向かった。

ざわざわしている中、母に連絡をくださった父の会社の人に挨拶した。

私たちより到着が早かった彼は、状況をザッと説明してくれた。

父はもうすでに息を引き取っている、と。

電気がついたままの部屋にパジャマ姿で倒れていて、すでに体の硬直も始まっていること

から、おそらく前日の就寝前に心臓発作か何かで…ということのようだった。

そこへ比較的若めの警察官が「ご家族の方ですか?」とやって来た。

「はい、家族の者です」。

「ちょっと色々聞かせてもらっていいですか?」と若警察官が続けた。

そして、家族ならそんなに難しくはないことを聞かれたんだと思う。

でも私は自分でも驚くぐらい父のことがわからず、困惑した。

「娘ではありますが父とは連絡さえ取らない間柄でしたので、父のことはよくわかりません」

と正直に伝えた。

たまたま弟のことがあったからこの1年は父と会う機会があっただけで、父のことは

何をどう聞かれても母も私もわからない。

今回、父の会社から母へすんなり連絡が入ったことも、私には少し不思議だった。

それぐらい父とは冷めきっていた。

25年間の別居は、お互いを他人より遠い存在へと変化させていた。

「父とは長らく別居していて…」

「別居はいつ頃からですか?理由はわかります?」

このあたりからか。

若警察官は押しのけられ、この捜査の班長っぽい、体も態度も大きそうな警察官が私の

目の前に現れた。

「娘さん?」

「はい」

「ちょっと色々聞かせてね」

「父のことはあまりわかりませんが」

さっきの若とは全然違う、ヤな感じの男だった。

「家庭内の事情で父とは長く別居状態でした」

「事情ってどんな事情???」

「え???」

「お父さんとお母さん、離婚は?」

「していません」

「なんで離婚しなかったの?」

「私たち子供が結婚するまでは、と思っていたんだと思いますが」

洗練されてない、気遣いなどとは程遠いところにいそうな、ただ威張っているだけのように

思える中年男のズケズケとした態度に、だんだんと腹が立ってきた。

「最後にお父さんに会ったのはいつ?」

「つい先日です」

「なんで会ったの?」

「私の弟の、父にとっては息子の一周忌だったからです」

「そう…」

ほんのちょっとだけ、威張り男の態度が変わった。

私への質問が終わるか終わらないか、その警察官は母へと移った。

私にしていた質問とほぼ同じ。

「デリカシーのない男。何様のつもり???」と、そんな思いを抱かせる腹の出た中年男。

「離婚しなかったのはなぜ?」

「子供が結婚する時には、カタチだけでも…と思っていたからです。でも数年前に私は主人に離婚届を渡してあります。主人は役所に出していなかったようですが」。

 

今思うと、事件・自殺も視野に入れてのことだったのだと思う。

ただ、まるで母と私が悪いことをしたかのようなこの警察官の態度に嫌悪感を抱いた。

この男の態度が腹だだしくて、なかなか気持ちが父まで辿り着かなかった。

でも、後から加わったこの男と同じぐらいの階級っぽい警察官や、若めの警察官たちは

みなさんちゃんと配慮を持って接してくれて、救われた思いだった。

 

そんなこんなの後、現場検証とかで私たちは車の中で長時間待機した。

かなりの時間が流れた後、パラパラと警察官たちが外へ出てきた。

私たちも自宅前へ行くと、2階から父が運ばれて来た。

そして、しばらくすると警察官から「様々な視点や状況から、お父さんはおそらく心臓系の発作で亡くなったんだと思います」と説明を受けた。

夜9時頃に管轄の警察署へ来るよう言われ、一足先に警察官と父は警察署へ向かった。

 

おそろしくヘヴィーな一日も、「あともう少し」というところまできていた。