途中から記憶はなかった。
気がつくと、真っ暗な砂浜に腰掛けていて周りにはさっき買ったリキュール瓶が散乱していた。しかし、全部中は空っぽで飲みきっていた。買ったリキュール3本、合計したアルコール度数は30度ほどに当たった。
背筋がゾッとした。酒に飲まれるっていうのはこれなのかと。
水平線の先にうっすらと明るさが見え、夜明けを私に告げた。
「起きたかな。娘さん。」聞き覚えのある老紳士の声が響いた。
「あ…!」さっき、いや正しく言えば昨日のお昼間、私に檸檬をくれたあの老紳士だった。
「夜も深まったから店を畳んで浜の様子を見に来たら女の子が倒れてるんで驚いたよ。
しかもそれが君だったなんて驚きだ。
しかし運命は怪奇だねぇ。またこんなところで会えるなんて。」老紳士は昇る朝日をまっすぐに見つめながら、何があったか話してごらんと優しく肩に手を当ててくれた。
「どうやったら大人になれるのでしょう…」
朝日が少しずつ高くなる。
「大人って歳をとればなれるものじゃないんですか…」
待って。まだ昇らないで。
咎めてもそんなの知らないかおして太陽は昇る。
「急がなくていい。」老紳士は口を開いた。
優しい面持ちで、優しく話してくれた。
「大人になる事は友達を作ることと一緒だ。
友達は作ろうと思って作れない。大人もそう。将来の夢のようになろうと思ってなれるものじゃないんだ。だから、急がなくていい。ゆっくり大人になればいい。まだ君が18になってから一日しか経ってない。まだまだこれから長いぞ。まだまだ終わりはしない。学び続けなさい。スタートラインで転んでいては早さも距離も関係なくなってしまうだろう?ハンディキャップはチャンス。ピンチをチャンスにして頑張ればいいじゃないか。負けちゃいられんよ娘さん。前を向きなさい。
胸を張って。君の未来は君が決めるものだよ。」
老紳士の口から出る言葉一つ一つが形を変え、背中を押す。前に。少しずつでも前に進む。
すっかり日が昇ると、気分は晴れていた。
「ありがとうございました。」
老紳士はニッコリと笑った。
「また来ますね。」私がそういうと老紳士は「もう来るような事にしないでおくれ」苦笑いをした。
ランニングする人やスーツの人が歩く中、
私も一歩を踏み出した。
まるで洗剤で丸洗いされたような清々しい朝を迎え、なんだか少し大人に近づいた気がした。