俺の身長は177cm、この時体重66kg。怖いのはそれが至って標準体重であることだ。たとえほんの1ヶ月かそこらで体重が10kg近く落ちたという事実があっても、俺には自分が痩せているという認識が全くなかったからだ。
従って体の心配は全くなかった。まさかこの程度の体重で栄養失調や低血糖、臓器不全になることはありえないと。
しかし精神は限界に達していた。食べては吐き、食べては吐き、空腹感と食べ物に対する拒絶感とのジレンマで、俺は錯乱寸前だったのだ。そして俺は、真剣に物を食べようと決意した。
1日目、唐揚げ弁当とグラタンとサラダ。締めて1500kcal。俺の通常の1回の、そして1日のカロリー摂取量よりやや少ないくらいだ。食べるには食べられる、なにせとてつもなく空腹なのだから。しかし案の定駄目だった。食べて1時間もしないうちに全て吐き戻してしまった。
2日目、鮭弁当。700kcal。成人男性の1日のカロリー摂取量の半分にも満たない量だ。食べたのは夜8時。はっきりいって全然物足りない。しかしじわじわと満腹感が及ぶにつれて、凄まじい不快感と嘔吐したいという情動が襲ってくる。俺はそれに耐え続けたが、結局食事から4時間後、夜中の12時にこれもリバース。
3日目、トマト4個。160kcal。もう必要摂取カロリーなど度外視だ。とにかく胃に物を入れ、その状態に慣れることから始めなくてはならなかった。
トマトをかじる。甘い、なんと甘い。飢えに飢えた身体の隅々にまでその雫が行き渡るようだ。そして狂おしいほどの空腹感から解放された俺は、そのままスヤスヤと安らかに眠りにつき、気が付けば朝だった。1週間ぶりに、俺は物を食べることに成功したのだ。
以来、俺はトマトと清涼飲料で命を繋いでいる。体重は1kg戻って67kg、そこから増えも減りもしないのだが、もはやそんなことはどうでもいい。これから徐々に食べられる物を増やしていき、何週間何ヶ月かかってでも、また正常に食べられる体を取り戻そうと思う次第である。
結論、向こう見ずなダイエットは冗談抜きで怖い。