俺は学習塾・明光義塾のテレビCM、「YDK(やれば出来る子)」というキャッチコピーが大嫌いだ。なぜなら俺は、「YDK(やったのに出来なかった子)」だったからである。
小中時代、俺は真剣に東大を目指していた。そして口だけではなく猛勉強をし、中学では学年1、2を争う成績を収めていた。しかし進学高に進み、数多の秀才たちを前に、俺は自らが到底東大に受かるタマではないことを痛感した。以来俺は、理系分野のトップ・東工大を志した。
けれど現役で受験失敗。その後語りつくせぬ紆余曲折を経て2浪、結局俺が受かったのは第10志望ですらない日大だけだった。俺は地の底の底の、地球のどん底まで落胆した。
そして日大にて俺は旧友A氏と再会した。A氏は1浪、俺と同じ中学出身で当時の校内テストでは学年10位にも入らない、中学時代の俺にしてみればまさに歯牙にもかけなかった存在だった。
しかし俺はすぐに違和感に気づく。「A氏は何かが違う」。
まず将棋。俺はA氏に全く歯が立たない。10局指して1勝か2勝といったところだ。そして麻雀。俺は大学に入ってから覚えたのだが、A氏は地元で無双であった。「確かに俺とA氏とでは雀歴に大きな差がある。しかしそれだけでこんなにも勝てないものだろうか。現に他のヤツラも雀歴が長いが、俺は彼らには勝てているではないか」。
そして極めつけがオンライン囲碁である。俺もA氏も全くの初心者として対戦したのだが、A氏はすぐにコツを覚え、一方の俺はルールさえ理解出来ず、結果はプロはもちろんアマチュアでも聞いたことがない、A氏の155目半勝ち。
俺は認めざるを得なかった。「俺は勉強したから勉強が出来るだけ。地頭は俺よりA氏の方が遥かに良いんだろうな。なんだ、日大にもキレるヤツはこんな身近にいるじゃん」。
さて俺の大学1年時、つまりA氏の大学2年時、すでにA氏は簿記2級を取得していた。A氏は予備校に通って半年がかりで取ったらしいのだが、常々こううそぶいていた。「簿記2級なんて3ヶ月もあれば独学で取れる」。
だから俺は、簿記2級をきっちり独学3ヶ月で取ってやった。「たとえA氏の方が地頭が優れていたとしても、勉強というカテゴリーにおいて俺が地元で負ける訳にはいかんのじゃ」。