世の中に「天才」と呼べる人間はそうそういない。
例えば仕事や勉強が俺よりも遥かに出来る人なら嫌というほど見てきたが、それは俺に毛が生えた程度の才能と血の滲むような努力、そして積み重ねた経験から得た力であり、それを天才とはいわない。「もし俺の周りに天才がいるとしたら、それはアイツくらいだなぁ」。
俺とA氏は中高を同じくし、今なお付き合う親友だ。そして俺とA氏は共に勉強が出来た。中学では学年1位2位を競い合い、そして共に県内随一の進学校である県立U高校に進んだ。
俺は国語、数学が得意だった反面、暗記科目がベラボーに弱かった。そして暗記科目のスペシャリストだったのが他ならぬA氏である。A氏はU高の校内順位は決して高くはなかったが、地歴公民、特に政経に関してはなんと全国1位を獲っていた。
ある時、あまりにも暗記科目が苦手だった俺は、A氏にアドバイスを求めた。「なあ、お前は一体どうやって暗記してるの。何かコツとかあるのか」。
返ってきた言葉に俺は絶句した。なんとA氏は教科書や参考書を文章としてではなく、ページを絵として視覚的に暗記していたのだ。「いわゆる共感覚ってヤツか、そんなの常人が逆立ちしたって真似できる訳がねえ」。
結局A氏は早稲田政経、俺は日大経済、6年間に渡る切磋琢磨はA氏に軍配が挙がった。しかし俺は自らの受験失敗を嘆くより、A氏の境遇に対して憤った。
「こんな凄いヤツを早稲田何千人に埋もれさせていいのか。こと暗記力に関しては、東大生も一橋大生も到底叶わない。なんで日本には特定分野の突出した才能を評価するシステムがないんだ」。