「宇宙は広い。とてつもなく、途方もなく広い」。
そんなことくらい、小学生でも常識的に知っていよう。俺もまた、子供時代から心得ていた。しかし俺がそれを改めて、しかも驚愕的に認識したのは大人になってから、ほんのつい最近である。
ここで本題に入る前に。宇宙論における天文学的な大きさ、例えば太陽と他の恒星までの距離や、銀河や銀河団の大きさ、それらを示すには「km」ではとてもとても追いつかない。
そこでしばしば用いられる長さの単位が「光年」だ。
1光年とは、この宇宙で最速、1秒間に地球7周半分の30万kmを走破する光が1年間かけて進む距離である。
1光年≒9兆4600億km≒10^13km (^は累乗を表す)
さて、宇宙の大きさについて論じる際、それが「全宇宙」なのか「観測可能な宇宙」なのかを分けて考える必要がある。
「観測可能な宇宙」とは理論上我々の地球に光が届き得る範囲の宇宙であり、「全宇宙」のほんの一部である。
光の速さはたとえどんなに速くても有限である。また宇宙誕生から現在まで137億年、これが光が進む時間のタイムリミットだ。従って「全宇宙」の中で地球に光が到達し得る領域はごくごく限られてしまうのだ。
そして一般に天体物理学者が宇宙の大きさと言った時、それは「観測可能な宇宙」の大きさを指す。その大きさは、
半径465億光年
これだけでも数字嫌いな人にとっては即倒モノの天文学的数字であるが、ではそれを内包する「全宇宙」は一体どれほど大きいのか。これには諸説あるが、米物理学者のL.サスキンドは次の解を与えている。
10^10^10^122 (10の10乗の10乗の122乗)
あまりにも馬鹿げた巨大数だが、これには数字しか与えられていない。果たして単位は「km」だろうか。それとも「光年」なのだろうか。
結論から言うと、単位は「光年」だろうが「km」だろうが、あるいは「マイル」だろうが「天文単位」だろうが何でもいい。
しかしこれには釈然としない人も多いだろう。何せ「km」と「光年」とではおよそ10兆倍もの開きがある。そのどちらでもいいとは、一体どういう了見なのだろうか。それを今から示す。
まず10兆倍、これを10の累乗の形で示すと、
10000000000000=10^13≒10^10^1.2
よって「全宇宙」の大きさに10兆倍をかけても、
10^10^10^122×10^10^1.2
=10^10^(10^122+1.2)
=10^10^(10000000000000000000000000000000000000000
0000000000000000000000000000000000000000
000000000000000000000000000000000000000000+1.2)
10の122乗に対し、わずか1.2がプラスされる程度にしか変わらないのだ。それが如何にどうでもいい差異かは言うまでもない。
つまり「全宇宙」のとてつもない大きさに対しては、単位が「km」か「光年」かなど誤差にさえならないほど微々たる問題なのである。
では10の10乗の10乗の122乗、これをまともに十進法表記するには0がいくつ必要か、間違ってもそんなことを考えてはならない。
半径465億光年、「観測可能な宇宙」にある全ての原子の数は10の80乗個といわれている。仮に10の80乗個数字を並べたとして、それで表せる最大の数は、
10^10^80-1≒10^10^10^1.9
よって「全宇宙」の大きさを普通に十進法表記しようと思ったら、我々が住まう「観測可能な宇宙」を構成する全ての原子の数だけ数字を並べても、もう全っ然足りないのだ。