【妄想劇場】 10番

相手の攻撃を凌ぎきり、
まさに今こそ絶好のカウンターチャンス！

パスを受け、彼は走る！
一人交わし、二人交わし、それでも尚彼は走る！

相手DFは彼に引き付けられる！
まさに彼の狙い通り！絶好のスペースがDFラインに空く！

しかし、
そこに走り込んでいた味方は誰もいなかった――



彼は若くして日本代表に抜擢された。
いきなり10番を背負わされたのも、期待の現われだった。

しかし彼はあまりにもずば抜けていた。
彼のイメージに合わせられる選手など、誰一人いなかった。

チームが敗戦を重ねる度に、
批判の矛先は10番である彼に向けられた。

容赦ないバッシング、
やがてそれは、彼の不要論にまで発展した。



そして彼は、10番のユニフォームを脱いだ。
その若すぎる引退に、日本中が騒然となった。

自ら引退を表明したのは、
決して満たされ得なかった彼のプライドだったのかも知れない。

次の誰か、その次の誰かが10番のユニフォームに袖を通す度に、
人々は彼の偉大さを思い知ることになるだろう。

彼は決して間違っていなかった。
間違っていたのは生まれた国か、生まれた時代か――