文化財は文化財 | blog.正雅堂

文化財は文化財

つい先日、鳩山総務相の鶴の一声で保存へと動き出した、解体寸前の東京中央郵便局局舎。

blog.正雅堂

日本郵政による、「かんぽの宿」叩き売りの波を止めた彼の功績は国民の共感を得たものであったが、今回の鶴の一声もその調子に乗ったような行為にも見えてとれ、些かの不安を覚えたのだが、何はともあれ、都心から消えてゆくレトロな建物が一つ救われたことに安堵したのは私の本音でもある。


だが、それを批判するかのような記事を見つけた。

詳細は文末の転記を参照されたい。


不平不満・・・いや罵詈雑言をを並べたような記事。ペンを通して大衆に情報を伝えなくてはならないジャーナリストが・・・と、強い嫌悪感を抱く。


日本郵政から何か見返りをもらったのではないかと思うほどの反論ぶり。

しかしよく読んでいけば、その中身は空も等しい。戦前の役人が設計したという、ただそれだけの理由で、薄暗いだの、ヘドロだのと罵りまくっている。大勢に批判的な記事を書くのがこの著者のお家芸らしいが、このあまりの罵詈雑言さには幼稚さを覚えた。それほどこの建物は醜いのだろうか?


まず、役人が作ったからセンスの悪いとするのはあまりにも短絡的だ。

役人といっても、書類を右から左へする事務官が片手間に図面を引いたのではない。高い技術力を以って入省した技官であり、民間なら普通に建築家といわれた人たちなのである。

東京中央郵便局を設計した吉田鉄郎も確かに逓信省の役人ではあったが、東京帝大でモダニズム建築を学び、技官として逓信省営繕課に属した一流の建築家であった。ちなみに同じ学科を卒業した後輩には、世界的に知られる丹下 健三がいる。丹下の代表作である東京カテドラルや代々木の国立競技場をみれば、その名声は明らかだ。吉田も公務員という立場的拘束がなければ、丹下と並ぶ名声を得たかもしれない。


 著者がリップサービスと酷評したブルーノ・タウトは、ドイツにおけるモダニズム建築の大家であり、モダニズムを学んだ吉田の作品を褒めたのはそれなりの理由がある。その作品を指差して、建築学を知らぬ一介の記者がヘドロと称するはあまりにも無知というものだ。


blog.正雅堂


丸の内口正面にあった丸ビルや新丸ビルと共に、むしろ調和の取れた雰囲気を醸し出していたように思う。両丸ビルに面影を残すような再開発がなされたことを考えれば、東京中央の局舎がそれに倣った再開発が行われても不思議ではない。東京大空襲の焼け野原を経て、戦後60年を迎えた今なお生き残る建物は、たとえ地下鉄の出入り口一つにしても、貴重な文化財なのである。


blog.正雅堂

センスが悪いからと、壊すことばかり考えていては、次世代に文化財を残すことはできない。


また、役人がデザインした作品はほかにもある。建造物ではないが、わが国で発行されている紙幣や切手のデザインの多くも技芸官と呼ばれた国家公務員の作品であった。日本の切手は、スイスやフランスの凸版印刷と並び、世界有数の美しい印刷物として名が通っている。

この役人嫌いなジャーナリストは、この作品を指差してなんと批判するだろうか。


ただ批判ばかり書けばよいというものでもない。

「彼を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉があるように、相手を批判する場合は、その相手についてよく研究し、そこに自らの力量を照らさねば、足は掬われてしまう。

今回の記事はまさにその好例とも取れる。


私自身、「友人の友人はアルカイダ」とか、不祥事した地デジキャラクターを批判しつつ翌日には訂正するなど、軽々しい発言が目立つこの大臣にあまり好感を抱いてはいないが、文化財を守ろうという意図を持って行動したこの行為については悪いとは思わない。トップダウンとか、政府の介入という言葉を考えると、100%正しいものではないのかもしれないけれど。


大学の先生も勤めるジャーナリストともあろう方がこんな文章を・・・・と思うと、なんだか哀しいものを感じさせられる。




鳩山邦夫・東京を汚した男/高山正之(ジャーナリスト)

Voice4月24日(金) 12時34分配信 / 国内 - 政治


 東京駅には八重洲口と丸の内口がある。一昔前の八重洲口側は国労ビルがあったり噴水でホームレスが水浴びしたりで、場末然とした印象が強かった。

 対して丸の内側は構内に行幸される天皇陛下の御休み処があり、酒落たステーションホテルがあり、正面には大内山の緑を背景に大理石の壁が美しい丸ビルが建ち、落ち着いた色調の煉瓦造りの三菱村が連なっていた。

 見るものすべてゆかしさがあった丸の内口の景色で、ただ1カ所、汚れがあった。皇居に向かって左手にうっそりと建つ白い壁に黒い窓枠の東京中央郵便局がそれだ。  周囲の色彩に馴染まない、調和もないたたずまいのせいか。

 廃工場という印象が強いのは、かつて全逓の赤旗と毒々しいタテカンがこの建物にまとわりつき、だらしない紺色の制服がうろついていたせいかもしれない。

 それがやっと取り壊されると聞いた。ヘドロまみれの田子の浦がきれいになった、桜エビも戻ってきたという話に似た清涼感を覚えたものだが、そしたら鳩山邦夫が出てきて、こんな貴重な建物を壊すなんてと吠えた。

 この人はまともとみっともないものの区別がつかないのか。

 それに文化財的な価値というが、設計者は昭和初期の逓信省の役人だ。何度か文化財やら権威づけを頼んだらしいが、その都度断られている。ただ1人、ドイツの建築家ブルーノ・タウトが褒めた。

 彼は桂離宮などを見て回って日本の美に感激した。審美眼はちゃんとあるらしいが、その彼がなぜ東京中央郵便局を褒めたか。じつは設計した役人が桂離宮を案内していた。

 思うに東京駅まで帰ってきて、あの不調和なビルを見せられて、そうか、これが君の作品か。いいじゃないかといった。こういうのは普通リップサービスという。

 鳩山のおかげで醜いビルが残ってしまった。彼はカンポでいい仕事をしたが、それ以上に東京を汚した者として名を残すだろう。