(5) イランとベネズエラから石油を輸入して国内で精製しようと計画している。CRB Commodity Yearbook 2005 & 2006 によると、ベネズエラは1997年の産出量が日量331万5000バレルで、この年にピークアウトしている。2005年は日量257万バレル。将来のベネズエラからの輸入の実現可能性を考慮すると、この石油精製プロジェクトの将来は楽観できない。
(6) 天然ガス田も、既存のカリマンタン島東部・スマトラ島北部(アチェ州のこと)の生産が不調。つまり「ピークガス」が近いことが予想される。1995年~2004年の間の天然ガス生産は増減を繰り返しており、「既存ガス田の生産不調」という報道内容に矛盾していない。
ということは、新規ガス田開発に成功しない限り、生産量の減少が待っていると推定できる。
このことは日本にとって重大である。インドネシアはカタール、マレーシアを上回る、日本向けLNG輸出国として最大の国である。
手元の日本の天然ガス輸入量に関する統計はあまり無いが、以下程度なら分かる。(#106の統計は、月あたりの生産量で、以下の年あたり輸出量とは直接比較できないことに注意)
(世界国勢図会2005/06および2006/07より)
日本の天然ガス輸入量
2002年: 299万9000テラジュール/年
2003年: 318万4000テラジュール/年
参考: 韓国の天然ガス輸入量
2002年: 97万テラジュール/年
2003年: 105万8000テラジュール/年
インドネシアの天然ガス輸出量
2002年: 153万テラジュール/年
2003年: 155万7000テラジュール/年
マレーシアの天然ガス輸出量
2002年: 79万1000テラジュール/年
2003年: 85万2000テラジュール/年
カタールの天然ガス輸出量
2002年: 69万テラジュール/年
2003年: 74万テラジュール/年
#102の8月29日付日経産業新聞記事には「マレーシア、カタールにインドネシアがLNG輸出量で抜かれるのは時間の問題」と書かれている。2004年以降の統計が手に入っていないので断定はできないが、この報道が本当なら、インドネシアの天然ガス生産が2005年あるいは2006年に急減し、輸出余力が130万テラジュール/年以下(?)の水準にまで落ち込んでいる可能性がある、ということを意味している。(そう考えないと、マレーシア・カタールがインドネシアを追い抜ける、と考えることができない)
ということは、「ピークガス」到来ということである。天然ガス田の場合、ピークアウト後の生産量の減少は油田のそれより急激であるのが普通であるが、まさにそれが起こりつつあると推定できる。
また、上述の統計から、インドネシアが日本の天然ガス需要のおそらく3割程度(?)を満たしていることが推定でき、LNG貿易においては日本がこれまで世界最大の買い手だったことを考えると、カタールやマレーシアなどの代替輸入先に比してインドネシアがLNG輸出者として大きな存在であることがわかる。
ということは、#102で書いたようにオマーンやカタールから代替輸入すると言っても、インドネシア自身の産出量減少次第では代替輸入で減少をそう簡単には埋められなくなることを意味している。(世界国勢図会の天然ガスのページには「オマーン」という国名が登場しないので、少なくとも2003年までは「主な生産国」として記す価値が無い程度の生産量しか無かったことは間違いない) この推定は報道内容と符号する。
天然ガスは、日本では火力発電と都市ガスとして多く使われていると思われる(そこまで統計には書いていないが)。
日本のエネルギー供給における、エネルギー源ごとの構成割合は2003年時点で以下のようになっている。石油が半分を占めているが、これは自動車・船舶・航空機用の消費が多い。石炭は産業用と火力発電用とに利用されていると思われる。そうすると、都市生活に限定してみると天然ガスの存在は大きいものであろうと推定できる。
石炭 ・・・ 20.8%
石油 ・・・ 49.7%
天然ガス ・・・ 13.7%
原子力 ・・・ 12.1%
水力 ・・・ 1.6%
地熱等 ・・・ 0.8%
その他 ・・・ 1.3%
以上を総合すると、数年後 - 2010年頃(?) - に日本国内で天然ガス不足が顕在化し、都市生活に影響する可能性がある、と予想する。ただし、サハリン1&2の状況が好転すればこの限りではない。
非常にまずいことに、この時期はLNG長期契約更改時期にあたっている。いわゆる「LNG端境期」と言える。(9月26日の日経産業新聞19ページを参照)。高騰する可能性がある。
頼みの綱はサハリン1と2だが、ご存知のように状況は悪化しつつある。(筆者註: 樺太の天然ガスプロジェクトについては、別途論じようと思います。また、読売新聞が9月29日に「インドネシアが2010~11年以降のLNG対日輸出を半減させたい、と通告してきた」と報じています。)
天然ガスを代替するにあたっては、発電については相対的に問題が少ないと考える。石油火力・石炭火力などの稼働率を上げて当座をしのぐことが可能なため。一方、都市ガスは代替が困難だろうと予想する。(筆者註: 電磁調理器とエコキュートが売れるだろうと思います)