まず、Ⅰ部7章から行きましょう。
根岸博士の指摘は以下のようなものです。
(1) 埋蔵量増加に対して需要増加の方が伸びが大きく、この差が次第に大きくなる傾向にある。また、油田の生産量を置換するだけの埋蔵量新規発見が達成できていない傾向がある。
(2) 大型油田の発見は既に峠を越えている。また、最近発見された大型油田(カザフスタンのカシャガン油田など)は、従前の大型油田と比較して、埋蔵量の大きさに対する生産量が小さい傾向がある。
(3) 産油国で生産量が減退しつつある。すでに18の産油国はピークアウトしている。
(4) 巨大油田で生産減退が起こりつつある。サウジアラビアのガワール油田は1965年から水を注入して圧力を維持しており、減退が近いと言われている。クウェートのブルガン油田はすでに減退が始まっている。メキシコのカンタレル油田も減退が始まっているとされている。
(筆者註:この3つが世界上位3傑の油田で、3つ合わせた最盛期の生産量はざっと全世界の1割超です。この3つが減退したら影響は甚大です)
次に、Ⅰ部8章に移ります。
(1) 未探鉱・未開発地域はまだ残っている。 - 西アフリカ、ブラジル、メキシコ湾(深海)、カスピ海、テンギス(カザフスタン)、アゼルバイジャン、カナダ東部、アルジェリア、イラン(沖合い)、イラク、リビア
ただし、同じ箇所でこういう指摘もしています。
(1.2) 実績を見ると、埋蔵量の成長は既存油田の減退を補えていない。
生産増加への希望として、さらに以下を挙げています。
(2) 技術的進歩 - 新探鉱理論、地震探査、掘削技術、検層技術、IT技術革新、深海油田の開発技術、2次・3次回収技術(EOR)
(3) 石油価格上昇による効果 - 高コスト油田の開発、非在来型石油の開発
この章の結論としては、以下のように述べています。
・未探鉱油田の開発、未開発油田の開発、技術的進歩は、ピーク到来を遅らせるか、或いは生産量の高原状態(プラトー=plateau)を延ばす効果はある。
・非在来型石油開発も同様で、plateauの延長或いは「ピークアウト後のハードランディングを防いでソフトランディングへと持ち込む」効果はある。
つまり、ピークアウトはいずれ避けられない、と暗に述べています。興味深いことに、博士はその箇所でASPOの予測を引用しています。
この書に書いてあるASPOの予測は「非在来型石油を含めて2010年ピーク」です。
なお、根岸博士は「減耗」という表現は使わず、「減退」という表現を使っています。英語の"depletion"です。