こんにちは、弁護士の松浦絢子です。
一昔前は、子孫がお墓を相続して先祖の祭祀を続けることが普通でした。しかし、近年では子どもが田舎を離れて都会に移り住んでいたりして、田舎にあるお墓を管理することが難しい家庭が増えています。そのようなときに墓じまいが検討されることになります。
もっとも、お墓や寺院との関係は先祖代々の長い関係であることも多いため、地域の慣習やしがらみが障害となって、墓じまいがスムーズに進まないことがあります。
そこで、墓じまいでトラブルが起きないように、どのような手続で墓じまいをすすめればよいのか、また万が一寺院などとトラブルになった場合に備えてよくあるトラブル事例と対処方法について解説します。
墓じまいとは
「墓じまい」とは、従来のお墓から埋葬されている遺骨等を取り出して墓石を撤去することで、墓地を返還する手続をいいます。
通常は、墓じまいの後に、子孫がお参りや管理をしやすい他のお寺や墓地に埋葬し直す「改葬」を行うことになります。
墓じまいが検討される背景としては、冒頭でも触れたように田舎から都市への人口流出があります。東京や大阪などの大都市に進学や就職のために若い人が流出すると、そのまま都市で仕事を続けたり結婚生活を送ることになり、田舎には戻らないことが多いです。
そうすると、田舎にある先祖代々の墓地を管理することが難しくなるため、親の高齢化や相続をきっかけとして、墓地を返還する墓じまいが検討されることになるのです。
また、ライフスタイルや価値観の変化とともに、「先祖代々のお墓を守る」という考えの人が減少しつつあることも一因といえるかもしれません。
このほか、隠れた要因として檀家が寺院に支払うお布施や寄付、墓地の維持管理費などの負担が経済的に厳しい人が増えていることも背景にあります。特に、少子高齢化によって、子ども一人あたりの負担額が増えているケースも多いでしょう。
墓じまいの手続き
1 墓地の管理者から埋葬証明書をもらう
墓じまい後に改葬するためには、役所に改葬許可申請書を提出する必要があります。この改葬許可申請をする際に、現在の墓地の管理者が作成した埋葬証明書を一緒に提出する必要があります。
したがって、墓じまいの手続きをすすめるためにはまず、墓地管理者にその旨を伝えることが必要です。墓地には、寺院墓地と霊園墓地の2種類があるところ、寺院墓地の場合にはお寺に話をする必要があります。
墓じまいで寺院とトラブルにならないようにするためには、この墓地管理者への話を丁寧に行う必要があります。寺院と檀家は基本的には長年の関係性があります。
このため、これまでの関係性に配慮し、墓じまいを検討するに至った事情などを十分に説明して理解を求めるようにするとスムーズに運ぶことが多いでしょう。
なお、埋葬証明書をもらった後は、元の墓地がある地域の役所に改葬許可申請書を提出します。必要となる書類は、市町村によって異なることがあるため、事前に確認しておきましょう。
2 遺骨の取り出し・移送
墓じまいをする際には、お墓に埋葬されている遺骨を取り出し、新しい墓地に移送する作業が必要となります。遺骨の取り出しや移送は、通常は専門の業者などに依頼をします。
宗教的な価値観に基づくものではありますが、一般的には閉眼供養と開眼供養を僧侶の立ち会いのもとで行うことになります。
3 墓石などの解体・撤去
最後に、従来のお墓を墓地管理者に返還するための作業を行います。遺骨を取り出した後に残る墓石やお墓の敷地内の工作物などをすべて撤去します。寺院墓地であっても霊園墓地であっても、提携している石材業者が行うシステムになっていることが多いといえます。
また、石材店などに撤去費用を支払うことになりますが、法外な金額を請求されるトラブルもあるため、念のため相場を調べておくと良いでしょう。
墓じまいのよくあるトラブル事例
寺院から法外な離檀料を請求されるトラブル
墓じまいを検討する人が一番心配するのが、墓地を管理している寺院から多額の離檀料やお布施などを請求されるのではないかということでしょう。
離檀料については、基本的にはお布施と考えられています。このため、特に契約書などがない限りは、離檀料を支払う法的な義務はないことが多いです。したがって、離檀料に関しては、最悪トラブルになっても法的には勝てるということを心に留めておかれるとよいでしょう。
とはいえ、檀家との付き合いは、たいてい先祖代々からの極めて旧いお付き合いです。このため、最初から離檀料は支払わない、などと言うと感情的に対立する可能性があるので基本的には円満な解決を目指したほうがよい場合が多いです。
寺院が遺骨や埋葬証明書を引き渡してくれないトラブル
上の離檀料に関するトラブルとセットになって起きがちなのが、墓地管理者である寺院や霊園が遺骨の取り出しをさせてくれないとか、改葬に必要となる埋葬証明書を出してくれないというトラブルです。
遺骨や埋葬証明書を引き渡す代わりとして、法外な金銭の支払いを請求されることもあります。ただし、上の離檀料と同様に、契約書に明確な記載のない金銭である場合には支払うべき法的義務がありません。
また、寺院が作成すべき埋葬証明書をもらえない場合には、故人の死亡を証明する除籍簿など市町村が必要と認める他の書類で代替できます。
他の親族から反対されるトラブル
お墓に関しては、他の親族から反対されることが結構あります。このため、墓じまいを考えている場合には、まず他の親族に相談しておいた方が安心です。
他の親族に反対された場合に墓じまいができるか否かは、誰が「祭祀承継者」であるかによって変わります。祭祀承継者は、遺言によって指定することができますが、遺言に指定がない場合には裁判所に調停を申し立てることで決めることができます。
裁判所は、さまざまな家庭の事情や地域の慣習などをもとにして、祭祀承継者を指定します。例えば、先祖代々の家を子どもの一人が引き継ぎ、老親の介護などを行っている場合には、その子が祭祀承継者となる可能性が高いといえます。
現状としては、このような役割を担っているのは特に地方では長男であることが多いですが、次男以下や女だからダメということではありません。あくまでも、実質的に判断されます。
墓じまいを考える人が祭祀承継者でなく、本来の祭祀承継者からの同意を得られていない場合には、寺院としては応じられないため、墓じまいをすることは難しいでしょう。
お墓の撤去をする石材店の費用が高いというトラブル
お墓の撤去をする際に、寺院や霊園の提携している石材店が撤去をすることが通常です。ただし、石材店の費用が相場より明らかに高額というケースでは他の石材店の見積もり等をもとにして減額交渉をすべき場合はあります。
お墓の撤去費用は、おおむね40〜50万円程度となることが多いようです。
おわりに
檀家になっているなど寺院と長いお付き合いのある場合の墓じまいは、基本的に円満解決を目指したほうがよいでしょう。とはいえ、寺院側と交渉をする場合には、法的には何が正しいのかを知っておくことは重要です。
寺院が墓じまいを承諾しなければ断念せざるを得ないと考えがちですが、実際には法的手続きを踏めば処理できます。