東日本大震災以降、自衛隊を評価する声が増え、
「国防軍にすべき」という意見が多くを占め、
国民の自衛隊に対する認識は
かなりましになったように思えるが、
幹部自衛官を養成する「防衛大学校」対する
認識は相変わらず低いままだ。

今週の土曜日には防衛大学校第58期生の
卒業式が予定されているが、
テレビニュースでは卒業式恒例の帽子投げが映され、
総理大臣の挨拶内容と今年の任官拒否は何名
という報道をするだろう。

「防衛大学校」というと、
「給料をもらえる大学」という人が多い。
しかし、そういったところに
「防衛大学校」に対する認識の低さが現れている。

「防衛大学校」は一般の文部科学省管轄の
総合大学(ユニバーシティー)でも
単科大学(カレッジ)でもない。
防衛省に属する大学校(アカデミー)であり、
その身分は「特別国家公務員」である。

よく「防衛大学」という人がいるが、
正しくは「防衛大学校」である。

実は3年前の東日本大震災直後の、
防衛大学校の卒業式から戻ってきて
ブログを読んでいると
菅総理が防衛大学校卒業式に出席したことを
批判する記事をいくつも目にした。

防衛大学校卒業式に菅直人が
総理大臣として来たことには、
私自身も忸怩たる思いがあったが、
出席したことを批判する論調は結局は
自衛隊軽視、防衛大学校軽視以外の
何物でもなかった。

菅総理の防衛大学校出席を批判する視点は
「こんな非常時に首相官邸を留守にすべきでない」
「福島に陣頭指揮に行け」
「卒業式を自粛している大学があるのに、
防衛大学校なんかの卒業式にのこのこと…」
といったものだった。

卒業式を自粛している大学があるのにというが、
防衛大学校と一般大学とを同列に論じるのは、
防衛大学校に対する認識が
そもそも間違っているからだ。
日本の防衛大学校にあたる
世界各国の士官学校の場合、
国家元首が出席して演説をする。
アメリカの陸軍士官学校の卒業式では
オバマ大統領が出席して演説している。
イギリスの場合はエリザベス女王ご夫妻、
チャールズ皇太子のご臨席を仰ぐ。
エリザベス女王が体調を崩されたときは
ご名代としてアン王女がご臨席された。
日本で、これがもし戦前だったら
天皇陛下のご臨席を仰ぐことになるのであろうが、
自衛隊の最高指揮官は現在は総理大臣である。
自衛隊は本当なら名誉ある国家の軍隊であり、
防衛大学校はその幹部を送り出す特別組織なのだ。
防衛大学校「なんか」の卒業式に「のこのこ」と
という言葉が出るのは、平和ボケした日本人が
自衛隊や防衛大学校を見下している証拠だ。

また、防衛大学校の卒業式は単なる卒業式ではない。
卒業式の第二部は、
防衛大学校を卒業し、陸海空の自衛隊に
任官する学生たちが曹長に任命される「任命式」であり、
任官する初級幹部自衛官全員での「宣誓式」もあり、
総理大臣は最高指揮官として
この儀式に臨まねばならない。

卒業式直後は東日本大震災で、
自衛隊による救助活動、
福島第一原発では命がけの放水活動が
続けられていて、
日本を守る最後の砦は自衛隊しかないと、
国民の多くが実感しているときだったはずなのに、
「防衛大学校」については
その程度の理解のされ方だったのだ。

自民党の元衆議院議員の一人は、
総理はこの時期に官邸を離れるべきではない、
防衛大学校の卒業式の訓示は防衛大臣で事足りる
とブログに書いていた。
こんな認識を持ってるようなやつなら、
自民党だろうと民主党と大差はない。

大震災以降、
「自衛隊」への偏見は確かに少なくなった。
しかし、「防衛大学校」への偏見は
今もほとんど変わっていない。
「任官拒否した学生は金を返せ」などという論調は
まさしくその最たるものだ。

自衛隊というのは
国家国民の平和と安全を守るために、
日夜訓練に励むのが仕事で、
それに対して税金で給料が支払われる。
「防衛大学校」を「給料をもらえる大学」
と思っている人は、
普通の「大学」の授業だけを受けて
給料ももらえるとでも思っているのだろうか?
陸上自衛隊にも普通科連隊や
高射特科連隊があるように、
防衛大学校も自衛隊の中の
「防衛大学校学生隊」であり、
4つの大隊にそれぞれ4つの中隊、
さらに小隊がある組織だ。
自衛官としての訓練があり、
5分刻みの厳しい生活スケジュールの中で
大学レベルの授業も受けているのだ。
その訓練に対する給与は
当然支払われるべきものである。

ひどいのは、そういった厳しい訓練生活の中で
大学レベルの学問を修めていたにも関わらず、
平成のはじめまでは、大学の学位すら
防衛大学校生は与えられなかった。

「自衛隊」を「国防軍」にするというが、
私は「名誉ある国軍」にすることしか考えていない。
「名誉ある国軍」にしなければ、
その幹部を養成する「防衛大学校」への偏見も
なくならないだろう。

私が「憲法改正」と「自衛隊を国軍に」という
二大目標を掲げて運動しているのは、
その時の思いが何にも増して強かったからだ。