20年近く前に古本屋で、世界の歴史教科書という本を

買ったとき、アジア編の中に中国の教科書はあったが、

台湾の教科書はなかった。

編集者は台湾を差別しているのかと思ったが、

何と当時の台湾には台湾の歴史教科書はなく、

それが初めて登場したのは何と僅か14年前の事なのだ。


台湾の学校教育で「本国史」として教えていたのは

中国大陸の歴史だけだった。

台湾の歴史は、せいぜい大陸史を語るに際し、

必要に応じて触れるだけで、

体系的には全く教えていなかったのだ。


台湾の政治的な建前では、首都は南京であり、

台湾史は中華民国にとっては郷土史に過ぎないからだ。


しかし、初の台湾人総統・李登輝氏の登場により、

漢民族中心主義からの決別・脱却による

政治や社会の台湾的民主化が進められ、

国民の間には、「台湾意識」が高揚し、

新たな国民的アイデンティティの確立を

求める声が高まったのである。


つまり、それまでの台湾は中国と同様、

戦後は反日教育を受けていたのである。

一部の戦後生まれの台湾人は、

上の世代から「日本時代は良かった」と

教えられて来ていたので、

反日教育を受けても、多少は打ち消された。

しかし、歴史的事実が判らないため、

価値判断が混乱したままだったのだ。


14年前、初めて登場した台湾の歴史教科書は、

中韓両国のように、反日政策に基づいて

歴史の歪曲や捏造はしなかった。

それまで中国で用いられてきた「日拠時代」

(=日本占領時代)の呼び方は、

史実と異なる(日本は台湾を割譲されたのであって、

占領していたのではない)との反省から、

「占領」は「統治」に改められ、現在では

台湾メディアでも「日治時代」という語が普及している。


しかし、この歴史教科書が登場したとき、

大陸出身者は教科書に罵声を浴びせた。

「親日」「媚日」「植民地美化」さらには

「李登輝と司馬遼太郎の共著本」とまで言われた。

(媚日とはとても言えない内容なのだが…)


しかし、台湾の良識的な研究者たちは、

台湾と日本がいかに密接な歴史的関係を

有しているかを知っており、

反日教育により日本の「罪」を暴くだけで、

日本が台湾に残した「功」の面を覆い隠しては、

正しい歴史が見えてこないことを理解していた。


例えば、日本の導入した「警察政治」について

「人を畏怖させる権威で生活に関与した」という

当時のイメージには触れながらも、

そのおかげで、従来では考えられなかった

「公共秩序が維持された」と評価し、

また「植民地経済」政策についても、

日本の行ったインフラ整備を詳述しているのである。

台湾では、農業改革で語られる嘉南大圳の給水路

(全長は万里の長城をも凌ぐ)は台湾人の誇りだが、

それまでの教科書では教えられてこなかった。

これを設計・建設したのが日本人技師・八田与一で、

多くの台湾人が好感を寄せているのである。

このことは日本の人々にも知ってもらいたいと

台湾歴史教科書の日本語訳者の一人・蔡易達さんも

おっしゃっていた。

特に台湾が日本統治下にあっての「社会の変遷」で

日本の諸施策と成果を3つ大きく紹介している。

一つは「時間厳守の観念の養成」

もう一つは「遵法精神の確立」

最後の一つが「近代的衛生観念の確立」である。

実はこの3つの徳目は、支配者階級であった

大陸出身者には備わっていないものばかりである。

(今の中共を見ても判るだろう)

つまり、台湾人は日本の影響を受けることにより

良識ある近代文明人となり得ていたのである。


われわれ日本人は台湾=蒋介石のイメージが

少なからずあるが、現在の台湾人は

中国大陸的(今も中共で繰り返されている)な

個人崇拝主義からはとうの昔に脱却しているのである。


中共と台湾、どちらが本当の「大人の国」か

誰の目から見ても明らかなのである。