昨日、私は一度アメブロを中止して

再開したと書きましたが、

この記事は前にやってたときに書いて

消えてしまったものです。

私が学生時代、三島由紀夫先生の

研究に打ち込んでいた時の

古本屋でのショッキングな体験を書いてみたい。

先生は週に一度、

楯の会会員とそれ以外の学生も含めて

思想的な勉強会をされていた。
当然、小説家三島由紀夫の

ファンが入って来る事は許されず、

勉強会で先生の小説の話を

する事などタプーだった。

その勉強会で、ある学生が先生に

「古今東西、ジャンルを問わず、

我々学生に読む事を推奨される本は

ありますか?」と思い切って質問した。

それに対する先生の答えは

「林房雄の『青年』、これ1冊だけ読めばいい。

これを読めばいろんな事が見えてくる」

と言われたのだった。

この事を知った私は当然、

林房雄の『青年』を買いに本屋に行ったのだが、

『青年』どころか、

林房雄の本がどこにも無いのである。

今のようにインターネットで探せる時代ではなかったし、

絶版になってたら古本屋に行くしかないが、

やみくもに古本屋に行ったところで

見つかるはずもなかった。

まだ勉強を始めて間もない頃で、

林房雄がどんな本を書いている人かも知らなかったし、

古書店めぐりを始めて間もない頃であったので、

古書店にも専門がある事や、

目録販売をしている古書店がある事も知らなかった。
夏休みのある日、梅田に出る用事があったので、

かっぱ横丁の阪急古書のまちに立ち寄った。

阪急古書のまちには

先生の本が沢山並んでいる店があった。

加藤京文堂という初版本の専門店だ。

高価な初版本など買えるはずもないのに、

先生の本がいっぱい並んでいるという事で、

加藤京文堂にはよく行った。
その日も、先生の初版本の背表紙を一通り眺めて、

店を出ようとしたのだが、

林房雄の『青年』が並んでいるのを

見つけてしまったのである。

値段は6000円。

当時の私の1週間の生活費に相当する額だったが、

探しに探しまくっていた一番ほしい本が

目の前にあるのである。

財布の中を見るとまるで計ったように

6000円が入っていた(笑)

私は悩んだあげく思い切って本を書い

すっからかんになったために、

梅田から桃谷の家まで歩いて帰るはめになった。

その数日後、いつものように古本屋めぐりをし、

寺田町の石塚書店という古本屋での事。

本の背表紙に林房雄の字を見つけた私は

その本を手に取ってみた。

中央公論社の『日本の文学』という

文学全集シリーズの1冊で、

収録されている作家が、

武田麟太郎、島木健作と林房雄だった。

そして中を見てびっくり。

収められていた林房雄の作品は「青年」だったのだ。
そしてついている値段を見ると150円…。

私は「青年」という作品は

読めればよかったのである。

高額な初版本でなければならない必要は

全くなかった。

しかし、加藤京文堂でやっと見つけた時、

これしかないと思ってしまったのである。

6000円の値段に対して、

所持金が6000円だった事を、

これは運命だと思ってしまったのである。

私の人生における古書体験で、

最初のショッキングな出来事だった。