そして、その日がやってきた。

退院の話をする日。

朝早くから家の掃除をしたりして
慌ただしく一日がスタートした。

相当そわそわしていたんだと思う。
まだ退院する日ではないのだが、なんとなく落ち着かないから、早く目を覚ましてしまったからだ。

病院まではクルマで20分程度の場所だが、たしかだいぶ早く病院に向かったと思う。早く行って、タイミング良くまままちゃんが起きていれば、授乳することもできるし、とにかく愛おしい我が子の顔を見たい気持ちで。

まままちゃんがいるNICUにあがったが、その時間はちょうど授乳時間だったため、男性の入室が制限されていた。私はNICUの外、病棟の入り口にある面会スペースで待つこととなった。ママだけがまままちゃんに会うことができた。

授乳時間が終わったと看護師さんに教えられ、いそいそとNICUに入る。まままちゃんの顔はこころなしかすっきりして見えた。手足もよく動き、元気そうな様子にホッとして、ママに抱かれるまままちゃんを見ていた。

しばらくすると、担当の先生がNICUに入ってきた。夜の間の様子や体調などの簡単な話をしたあと、「それでは、お話のほうに入りましょう」ということで、看護師さんに連れられNICUの外にある面談室に通された。


通された部屋は、大人4人が収まる程度のちいさな部屋だった。


数分後、看護師さんが先生と、もう一人の見知らぬスタッフの方を伴い、部屋に入ってきた。



ママと二人、顔を見合わせた。

なにかよくないことが起こるのではないか。

突然にして過ぎる不安。



先生が話を始めた。

「まままちゃんの様子はだいぶ落ち着いてきたので、そろそろ退院できるとおもいます。」


(…ああ、やっぱり退院できるんだ。)


「でも、入院中のまままちゃんを見ていて、気になることがあります。」

(…え????)

「すこし体が柔らかいことや、身体的な特徴を見ていて…あくまで可能性として考えていますが」

(…)

先生が、手元に用意した紙に、何かを書き始める。


カタカナの『ダ』
     『ウ』
     『ン』




「まままちゃんはダウン症の疑いがあります。」






その3文字が、白い紙に一文字ずつ書き記される度、自分の体を鋭い衝撃が襲った。

鈍いナイフの刃が、グググっと自分の胸に差し込まれてくるような感覚。グリグリと自分の心臓がえぐられているような感覚。

もうやめてくれ、もうやめてくれ。

心が悲鳴を上げていた。


長い沈黙が訪れる。

何度も、いま聞いた話が幻のものではないかと、手の甲に爪を立てた。

頭の中はもはやからっぽだった。

どのくらい俯いていたのかはわからないが、ふと横に座るママを見た。
うなだれ、顔色は青ざめ、小さく震える背中。
ママを見て、少しだけ冷静になれた。
少なくとも、二人揃って取り乱してはならない、こんな時こそママの支えにならなければと思ったからだ。


「…少しだけ、二人にしてください。」