丸橋のパスはややズレた。
それでも健勇はスムーズにターンし、ペナルティーエリアに進入する。
アウトサイドでボールタッチし、シュートモーションに入るとDFはたまらずスライディングをするが、健勇は右足を振り抜かずにステップを踏んだだけだった。スライディングしたDFを嘲笑うかのようでいて、美しささえ感じてしまった。
直後、GKの頭上を抜く鋭いシュートがネットに突き刺さる。
待ちわびたゴールにサポーターは熱狂の渦。
この瞬間、日本で、もしかしたら世界で、1番盛り上がっているのは長居スタジアムではないか。
ピッチでは健勇がベンチに、サポーターに咆哮している。
FWでありながら第6節までノーゴール。
期待され野次られ続けた男のゴール。
痺れた。
柿谷曜一朗とは違う種類の痺れ。
感情を表に出す男の一発は、他のプレイヤーよりも痺れてしまう。
数分後にまたしてもビッグチャンス。
丸橋のクロスに合わせたヘッドはGKの正面。
悔しがりながらポストを殴る男をサッカーの神様はもう一度チャンスを与えた。
抜け出したソウザのクロス。
健勇が合わせると、吸い込まれるようにゴールに流れ込む。
健勇は立ち上がるとゴール裏に走ると、
何度もセレッソのエムブレムにキスをした。
大阪ダービーで示す、セレッソ愛。
おれがゴールを決めて勝つ!
その気持ちが爆発した咆哮に鳥肌が立った。
試合は終盤に追いつかれ、いつものセレッソを露呈してしまう。
この試合は健勇をヒーローにさせてあげたかっただけに悔しくて仕方がない。
試合後のインタビューで健勇は言った。
「自分が3点4点取れなかったことのほうが悔しい」
次は健勇のゴールで勝たせてくれ!