来週の外為市場では、欧州と米国の財政問題を受けた投資家のリスク許容度の変化が、ドル、円、ユーロの方向性を左右しそうだ。

 米国では財政赤字削減をめぐる民主、共和両党の協議の合意期限が23日に迫り、欧州では欧州中央銀行(ECB)の国債買い入れ規模拡大を巡るドイツとフランスの対立が、イタリアやスペイン等の国債利回りの上昇リスクを高めている。      

 予想レンジはドル/円が76.00─77.50円、ユーロ/ドルが1.3300─1.3700ドル。 

 <独仏対立> 

 欧州では、債務危機対応でのECBの役割を巡り、独仏の溝が埋まっていないため、為替市場ではリスクオフの流れが醸成されやすい環境になっている。ECBとドイツは国債買い入れ拡大に反対の立場で、フランスは賛成の立場。

 「ECBが国債買い入れ拡大に対して消極的な姿勢を保てば、イタリアやスペインの国債利回りが国債買い入れオペによって一時的に低下したとしても、長続きせず、リスクテイク志向が改善しにくい」とJPモルガン・チェース銀行のチーフFXストラテジスト棚瀬順哉氏は言う。

 また「リスクはイタリア、スペインの国債利回り上昇を受けて、株価が下落し、為替市場では、リスク回避の流れから、円とドルが買われて、豪ドル、NZドル、ノルウェー、スウェーデンクローナが売られ、クロス円が下落する方向に傾いている」と同氏は指摘する。 

 「こうした流れのもとで、ドル/円はしばらくレンジ取引を続ける可能性が高い」と同氏は予想する。

 さらに、「イタリアやスペイン国債の利回りが今後も上昇し、両国の財政資金の市中調達が困難となるリスクが現実味を帯びてきているにも関わらず、急務であるはずの欧州金融安定ファシリティー(EFSF)拡充に関して、目立った進展は見られていないこともセンチメントがリスク回避に傾きやすい理由だ」と棚瀬氏は言う。 

 EFSFにレバレッジを掛け、現時点で残る融資能力2500億ユーロ(3400億ドル)を1兆ユーロ(1兆4000億ドル)に拡大する計画は、先月の欧州連合(EU)首脳会議で合意し、イタリアとスペインを市場の攻撃から守る上で最強の武器となるはずだった。 しかし、市場では、EFSF拡大計画は白紙に戻る観測まで出ており、両国の国債利回りは既に持続不可能とされる水準に近づきつつある。ECBに資金を提供させることでEFSFを銀行化する案は、ドイツなどの反対で却下されている。 

 欧州で不確実性が高まる中、世界の金融セクターでは、デレバレッジや資本増強の動きが高まっているが、こうした動きが続けば、欧州銀が「そこそこの金額を保有してきた米国債にも手を付ける可能性も高くなるだろう」と三井住友銀行・市場営業推進部、チーフストラテジスト宇野大介氏は予想する。

 <米財政赤字削減> 

 米国では、米財政赤字削減をめぐる民主、共和両党間の協議の合意期限が23日に迫っている。今年8月の米債務上限の引き上げをめぐる協議が決着した際、米議会に設置した超党派の特別委員会が、11月23日までに1兆2000億ドルの赤字削減について具体的な中身を決めることになっていた。赤字削減の期間は10年で、民主党は増税を主張する一方、共和党は税制改革や医療保険関連などの歳出削減を求め、これまでのところ両党の歩み寄りは見られていない。 

 「難航が続いており、23日までの合意は難しいかもしれない。合意期限前後格付け会社の情報発信があれば注目したい。政治的リーダーシップの欠如などを理由に、米国を格下げする可能性がある」とみずほコーポレート銀行マーケット・エコノミスト、唐鎌大輔氏は言う。 

 債務上限問題で紛糾していた今年8月、財政赤字削減で米与野党の合意ができた直後、スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は米国債の長期信用格付けを1段階引き下げた。

 今回合意できなければ、歳出削減が自動的に発動されることになり、長期的な経済成長を阻害する恐れがあるとの指摘も出ている。CRTキャピタル・グループのシニア政府債ストラテジスト、イアン・リンジェン氏は 「協議が合意に至らず自動的な歳出削減が発動されることで、財政がさらに圧迫され、経済成長の鈍化につながると投資家は考えている」と述べた。  

 「ユーロ/ドルは欧州債務危機を受けた不安定な状況は変わらないとみているが、ドルサイドの要因で1.38ドル程度まで切り返す可能性もある」とみずほコーポレート銀の唐鎌氏は言う。

 <危機の連鎖>

 格付け機関フィッチは16日、欧州の債務危機が波及する懸念を理由に、米国の銀行の格付け見通しを「安定的」から引き下げる可能性があることを明らかにし、為替市場で話題を呼んだ。

 市場では「欧州の銀行がダメで、米銀が大丈夫ということはないだろう。サブプライムローンがらみの不良債権にしても、会計的に本体に影響ない形にしただけで、それらが消えてなくなったわけではない」(運用会社)との意見が出ていた。

 「いずれにせよ、金融株の下落が株価全体のムードを押し下げる現象は今後とも世界中で続きそうだ。株安を背景にリスク回避の動きが強まれば、ドルや円が買われやすくなるだろう」(同)という。

  フィッチは「ユーロ圏の債務危機がタイムリーかつ秩序だった形で解決しなければ、米銀の全般的な見通しは悪化するだろう。ネガティブ・ショックを受けるリスクが高まっている」と指摘した。

 リポートを共同執筆したフィッチのアナリスト、クリストファー・ウォルフェ氏は、米国の銀行は過去数年間に欧州でのトレーディング業務を拡大する一方、伝統的な融資業務を縮小していると指摘。長期化する欧州の債務問題が米銀の資本市場関連収入に悪影響を及ぼす恐れがあるとの見方を示した。 また、欧州からの波及効果により、米銀の資金調達にも影響が生じる可能性がある、としている。
正午のドル/円は、ニューヨーク市場午後5時時点とほぼ変わらずの77円前半。ドルは77円付近で足踏み状態を続けたが、ユーロはフランス国債の格下げの憶測が再浮上したことや、下落過程で損失確定のユーロ売りオーダーを巻き込んだことで、下げ足を速めた。 

 正午までの取引で、ドルは76.99―77.15円と狭いレンジ内に収まった。ユーロは朝方の高値1.3540ドルから一時1.3437ドル付近まで値を崩した。朝方の取引では、1.35ドル割れの水準でオプション関連の買いがあると見られていたが、ユーロ買いは長続きせず、1.3470―1.3480ドルの水準でストップ(損失確定売りオーダー)を次々と巻き込み下値を伸ばした。ユーロ/円は朝方の高値104.31円付近から一時103.60円まで下落した。 

 市場では、前週末に顧客向けに配信されたという米系大手銀2行によるユーロ投資戦略レポートが話題となっていた。1行はユーロを買い推奨した一方で、他の1行はユーロ売りを推奨。「いずれにせよ、ユーロ圏のどさくさに紛れて、一儲けしようというスタンスは同じ」(外銀)との声も出ており、普段の年なら年末に向けて、ファンド勢など投機筋の売買が次第に細る時期に入ったものの、今年はファンド勢の成績が振るわず、「年末までに一発逆転のチャンスを狙っているファンドが目立つ」(同)という。 

 日銀はきょう、金融政策決定会合の結果を発表する。10月27日の前回会合で資産買入等基金の規模を50兆円程度から55兆円程度に引き上げたばかりで、今回は現状の金融政策を据え置く公算が大きい。外為市場でも、現状維持との見方が大勢を占めており、市場では「見送られても、市場の反応は限定的だろう」(外銀)との声が出ていた。 

  <ユーロ売りの口実>  

 この日はユーロの全般的な弱さが目立った。「特段にニュースはないが、フランス格下げの噂がまた広がり、ユーロ売りの口実となった。日本勢は全般に動意薄」(運用会社)だという。市場はユーロ売りに傾いており、「材料はなんでもいいからユーロを売りたい」(同)との雰囲気が台頭しているという。

 仏国債については、米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズが10日、一部の顧客に対して仏国債の格付けが変更されたとのメッセージを誤って流し、その後、仏国債は最上級の格付けで依然維持されており、引き下げられていないとの異例の声明を発表している。 

  <カウンターパーティ・リスク> 

 他方、ウォールストリートジャーナル紙は15日の電子版で、ニューヨーク連銀が21のプライマリーディーラーに対し、MBSの取引に際して担保を積み増すように要請すると報じたことが、市場で話題を呼んだ。同措置はMBSの取引相手との決済リスクを軽減することが目的で、15日に実施されたプライマリーディーラーとの電話会談で連銀が明らかにしたという。

 「この記事でリスクオフムードが広がり、クロス円やユーロ、豪ドル等が売られた」(外銀)という。  

 欧州でカウンターパーティーリスクの指標となる3カ月物欧州銀行間取引金利(Euribor)と3カ月物オーバーナイト・インデックス・スワップ(Eonia)のスプレッドは88.5ベーシスポイントと9月末以来の高水準となっている。同スプレッドは9月26日に90.7bpまで拡大し2009年2月以来、2年7カ月ぶりの高水準となった。

 Euribor及びEoniaは欧州銀行協会(EBF)が発表するもので、ユーロ圏のインターバンク金利の指標となっている。 

  <米財務長官コメント> 

 ガイトナー米財務長官は15日(日本時間16日早朝)、欧州は金融危機克服に向け徐々に前進しているが、複雑な問題に直面している、との認識を示した。 ウォールストリート・ジャーナル紙が主催したコンファレンスで語った。為替市場の反応は限定的だった。

 長官は、ECBが危機解決により効果的な役割を果たす方法は「多数」ある、としたうえで、米国にとって、欧州の危機脱却を支援することが「大きな利益」になる、との見解を示した。また、中国が人民元をより急速に上昇させることが「どの地域の成長にとっても望ましい」とした。 
午後3時のドル/円は、ニューヨーク市場午後5時時点に比べ、若干ドル安の77円半ば。この日は米国市場が退役軍人の日で取引が細ることが予想され、東京時間のドルは方向感の定まらない小幅な値動きとなった。

 ユーロは、イタリアの短期国債入札を無事通過したことで、市場のセンチメント悪化には歯止めがかかったものの、欧州債務問題の根本解決には程遠く、相場は依然として神経質な地合いとなっている。

 午後3時までの取引でドルは77.49―77.68円と狭いレンジ内に収まった。ユーロは1.3578―1.3634ドルのレンジだった。ドルは77円半ばで小規模なストップ・ロスを付けて、いったん77.49円まで弱含んだが、その後は小幅に反発した。 

 市場では「今週も、小規模ながら継続的にドル買い介入が入っている」(金融機関)との指摘が複数出ているほか、「常識的に判断すれば、ドル/円が77.50円付近で自然に踏み留まっていると見るほうがおかしい。トレーダーなら誰でもわかることだろう」(外銀)との声も聞かれた。

 安住淳財務相は11日の閣議後会見で、覆面介入に関する記者の質問に対して、「答えられない」と応じたが、「前回も言った通り、言ったことは行動するつもりでいつもいる。それ以上でも以下でもない」との考えを示した。

 また同相は、「再三言っている通り、投機的な動きや過度な変動に対しては、非常に関心を持って市場を注視している」とした上で、関係部局に「投機的な動きがあるかないかなどを含めて、注視するようにと指示している」ことも明らかにした。

 市場では、「一連のAPEC会合で、声明で報道されることはともかく、報道されない裏舞台で、日本の為替介入について、どういう話が出るのか非常に興味深い」(前出の金融機関)という。

 ユーロ/円は105円半ばを中心とする小動きだったが、上値の重さが目立った。ユーロ/円をめぐっては、輸出企業の潜在的な売り圧力が強く、これが上値を抑えているとの指摘も多い。もっとも、市場では「今週に入ってもパラパラと売りが出ているようだが、年内はある程度手当てできているので、たたき売りに行く動きにはなりにくいのではないか」(国内銀行)との見方も出ていた。

 <APEC>

 ホノルルで10日開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)財務相会合の声明では、 先進国が信認と成長支援の政策をとり、財政健全化に向け明確で信頼性のある特定の施策を実行すること、大幅な経常収支黒字国は内需拡大に向けた改革と為替レートの柔軟性拡大にコミットすること、が合意された。また、市場が決定する為替レートシステムに向けより迅速に移行し、経済ファンダメンタルズ基調を反映するよう為替レートの柔軟性を高め、通貨切り下げ競争を回避することへのコミットを確認した。また、APEC財務相会合声明では、為替の過剰な変動と無秩序な動きは経済と金融の安定に悪影響を及ぼすことをあらためて表明した。

 <欧州債務危機>

 東京時間でユーロの下げは一服しているが、引き続きダウンサイドリスクが意識されている。海外短期筋は現在のユーロ水準から大幅に下がったレベルでユーロプットの買いを入れ、ユーロの一段安に備えているという。オプションの期間は6週間程度。

 みずほ証券のFXストラテジスト、鈴木健吾氏は「イタリア10年物国債利回り6%台後半は決して安心できるレベルではなく、依然として不透明感が強い」と指摘。その上で、ユーロについて「ショートをしていた人の買い戻しなどが一定量入ってくるため、フローからの反発があるかもしれないが、材料からはなかなか買えない状況にある」との見方を示した。

 ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)のユンケル議長(ルクセンブルク首相)は10日、ユーロ圏から一部の国を追い出すことは不可能だ、との認識を示した。 ユンケル議長は、ポルトガル救済策について議論するため同国を訪れた際、ポルトガルのTVIテレビに対し「ユーロ圏から一部の国を追放するという仮定の話は排除する。条約にはそういったことをできる規定はない」と語った。

 ロイターは9日、ドイツとフランスの当局者が、統合の深化やユーロ圏の縮小を視野に入れた、欧州連合(EU)の抜本的な改革について議論していると伝えていた。 一方、ドイツのメルケル首相は10日、ユーロ圏の範囲を縮小するアイデアを否定していた。 これについてユンケル議長は、ユーロ圏の現行メンバーが変更されることはないとして、「10年後もすべてのメンバーがユーロ圏に入っているだろう。メンバーが増えると確信している」と述べた。 さらに、欧州を「優れた北部」と「優れていない南部」に分けるという考えはばかげている、と述べた。

 <欧州銀のドル資金調達>

 金融機関が当面のドル資金確保先として依存度を高めている為替スワップ取引では、ユーロをドルに交換する際に支払う上乗せ金利(プレミアム)が、再び100ベーシスポイント(bp)台に拡大している。

 「仏・伊系の金融機関は、市場から必要十分な額のドルを調達できなくなっている」(金融機関)という。

 3カ月物で見た場合、ユーロLIBOR(ロンドン銀行間取引金利)とドルLIBORの金利差は現在96.47ベーシスポイント(bp)と、ユーロ金利がドル金利に比べて高くなっている。

 一方、一部の欧州銀がユーロ/ドル為替スワップ取引で、当面のドル需要をカバーした場合のフォワード・スプレッドは12.38bp(3カ月物・年率)となる。LIBORでの欧米金利差と、フォワードスプレッドが表す欧米金利差の格差は、一部の欧州系金融機関がドル調達する際の「プレミアム」と見なすことができる。

 3カ月物のプレミアムは10月末に80bp付近まで低下していたが、ソブリン債務危機がギリシャからイタリアへ広がるとの懸念から、スプレッドは再び100bp台に広がっている。