『あなたに』 | いろいろ*ぼちぼち

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気づき、ひらめき、たまーに色彩…コドモ心のおもちゃ箱♪

東京っていうのは、公立よりも私立の方が“優秀”って見なされやすいんだけど、
そんな中、私は鉄板といわれた、私立の志望校にまさかの不合格をし、
たった1校受けた滑り止めの公立高校に入学したのだけど・・・。

そこは“私が私”であるための、たくさんのきっかけを授けてくれた場所でした。
最高の場所でした。

そんな高校だから、先輩たちも個性的?いやいや、素敵な人が多い。

大好きな詩人の谷川俊太郎さんもそのお一人で、高校の卒業式には、
谷川さんが私たち後輩の為に作って下さった詩が、今でも読み継がれています。

今日、新たな門出を迎えることが決まった、
大切なお友達のお嬢さんのために・・・タイトルは一般向けのものでなく、オリジナルのままで・・・贈ります。

おめでとう!

・・・最後の2行が、最近やっと分かりはじめた私です。



「あなたに」 谷川俊太郎


あなたに
燃えさかる火のイメージを贈る
火は太陽に生まれ
原始の暗闇を照らし
火は長い冬を暖め
祭の夏に燃え
火はあらゆる国々で城を焼き
聖者と泥棒を火あぶりにし
火は平和へのたいまつとなり
戦いへののろしとなり
火は罪をきよめ
罪そのものとなり
火は恐怖であり
希望であり
火は燃えさかり
火は輝く
─あなたに
そのような火のイメージを贈る


あなたに
流れやまぬ水のイメージを贈る
水は葉末の一粒の露に生まれ
きらりと太陽をとらえ
水は死にかけた けものののどをうるおし
魚の卵を抱き
水はせせらぎの歌を歌い
たゆまずに岩をけずり
水は子どもの笹舟を浮かべ
次の瞬間その子を溺れさせ
水は水車をまわしタービンをまわし
あらゆる汚れたものを呑み空を映し
水はみなぎりあふれ
水は岸を破り家々を押し流し
水はのろいであり
めぐみであり
水は流れ
水は深く地に滲みとおる
─あなたに
そのような水のイメージを贈る

あなたに
生きつづける人間のイメージを贈る
人間は宇宙の虚無のただなかに生まれ
限りない謎にとりまかれ
人間は岩に自らの姿を刻み
遠い地平に憧れ
人間は互いに傷つけあい殺しあい
泣きながら美しいものを求め
人間はどんな小さなことにも驚き
すぐに退屈し
人間はつつましい絵を画き
雷のように歌い叫び
人間は一瞬であり
永遠であり
人間は生き
人間は心の奥底で愛しつづける
──あなたに
そのような人間のイメージを贈る

あなたに
火と水と人間の
矛盾にみちた未来のイメージを贈る
あなたに答えは贈らない
あなたに ひとつの問いかけを贈る