「あの方ですね」
長谷川様の視線がすでに一点に向かっている。
今夜の祥子様は・・・梅雨明けの空のようなブルーのブラウスに紺のタイトスカート。
第2釦まで開けた胸元の肌が夏だというのに・・・白い。
肩先まであの白さだという記憶がふいに蘇る。
今夜は祥子様にはアウスレーゼはグラスでサービスするようにチーフには言ってあった。その分価格も少しサービスするようにと指示してある。ボトルが置いてあればそれが祥子様の目印になってしまうからだ。
私はまだ長谷川様の問いに答えてはいなかった。
「どうしておわかりになりましたか?」
「そうですね、雰囲気かな。それでは答えになっていないか・・・ふふふ。」
冷たい白ワインを一口流し込む。
「グラスを持つ手つきがね、彼女だけ一流なんですよ。アウスレーゼをオーダーするに相応しい。」
「なるほど・・・」

言われてみればそうかもしれない。
祥子様は白ワインを召し上がるとき、必ずグラスのステムを長い指を揃えてつまむ様にして持たれている。ワインの入っているふくらみの部分に指を添えて不用意に温度を高めたりはしない。