『この世界の(さらにいくつもの) 片隅に』

誰もが誰かを想い
ひみつを胸に 優しく寄り添う

広島県呉に嫁いだすずは、
夫・周作とその家族に囲まれて、
新たな生活を始める。

昭和19年、
日本が戦争のただ中にあった頃だ。

戦況が悪化し、生活は困難を極めるが、
すずは工夫を重ね日々の暮らしを紡いでいく。

ある日、
迷い込んだ遊郭でリンと出会う。

境遇は異なるが呉で初めて出会った
同世代の女性に心通わせていくすず。

しかしその中で、夫・周作と
リンとのつながりに気づいてしまう。

だがすずは、
それをそっと胸にしまい込む…。

昭和20年3月、
軍港のあった呉は大規模な空襲に見舞われる。
その日から空襲はたび重なり、
すずも大切なものを失ってしまう。 

そして、
昭和20年の夏がやってくる──。



2016年に公開された
『この世界の片隅に』

ずっと気になっていたものの
観る機会を失ってしまっていた作品。

3年越しで、ようやく
観ることができました!

しかも、今回の上映は
250以上の新規カットを描き加えられて、
約40分も追加映像のある、新作!

本編、168分ありました。
たっぷり2時間48分。
アニメ映画としては最長なのだとか。
でも全然長く感じなかった。。。。



さて、ストーリーは昭和8年(1933年)、
すずの幼少時から描かれます。

第二次世界大戦が開戦したのは
昭和14年(1939年)。

しかし、おそらく幼少時は
‘戦争’は海の外での出来事で、
そこまで身近なものではなく、
とはいえ生活は困難なもので、
それでも、懸命に日々を生きている。
ストーリーは、人々の日常が朗らかに
描かれていて微笑ましい。

しかし、すずが呉に嫁いだ
昭和19年(1944年)。
‘戦争’は日本本土へ…
彼女らの日常に足を踏み入れます。


この作品では、四季の移ろいが
とても印象的でした。

すずが大人の女性として成長し、
春夏秋冬…四季が変わり、
そして悪化していく戦況。
(時代考証が細かかったなぁ…)

観終わった後には、
『この激動の時代を体験した』
不思議な感覚になりました。


あと、今まで観てきた戦争物の
作品のせいなのだけれども…
もっと‘戦争の悲惨さ’をまざまざと
見せ付けられるような作品なのかと
覚悟していたのだけれども
そうではなくて。

血生臭い…そういう生々しさではなく、
‘死’というものも、直接的ではなく
示唆だったり暗喩するだけに留まったり。

一番印象に残ったのは、
すずが不発弾の爆発に巻き込まれた、
あの瞬間の表現。

すずにとって‘大切なものを消失’した…
あの表現は、凄いと思う。

すずにとってこの消失の衝撃は、
あまりにも凄惨で絵にならないし
物理的にも絵にできない…
想像も創造もできなくなった、
失った瞬間だ。

そういった、失っていく過程を
人々の生活に沿って、リアルに
描いていくのだけれども、
冒頭で書いたように、
『それでも懸命に日々を生きている』から
血生臭いこと…酷いことは沢山あるけど、
下を向いてはいられない。
誰かの死に直面したとしても、
それをずっと引き摺ってはいられない。

そうやって生きてきた‘人’を
そのまま描いたことで、
戦争という重く暗い影が
よりくっきりと形を成して、
かつ私は知らない時代の筈なのに、
まるで自分が生きている時代のように
感じて考えることができたように思う。


そして、ストーリーは
戦争だけのものではなくて。
すずが『自分の居場所を見つける』
そんな目的を持っている。


このことだけではないけれど、
冒頭からラストまで、
伏線の張り方が本当に巧妙。

二人の嫁入りの着物と洋服が、
最後には…どうなるか、とか。

周作のノートの不自然な切り目と、
リンの所在表とか。

とにかく、この世界に生きている
人々がいとおしく思える。
それぞれの片隅たちの幸せを
願わずにはいられないのだけれど、
それが戦時下だから…辛い。


何だかうまくまとまらなかったけど、
本当に観てよかった作品でした。

子どもから大人まで、
そして後世の人々にも
観てほしい。名作です。


**・.+丸山小百合+.・**