――水は、火を消す力を持つ。
少しでもまともな生き方をしていれば、たとえ幼稚園児であろうと分かる事だ。
だから人形バトルにおいても、「水属性」は「火属性」に強い。

――火は、氷を溶かす力を持つ。
ある程度まともに考える事が出来れば、たとえ科学がどれだけ苦手な人間でもわかる事だ。
が、人形バトルにおいて、「氷属性」という概念は存在しない。水と氷は同義と見られているようだ。
だから、どう見ても「氷属性」であるチルノに対して、「火属性」は無力である。





 



…うーん。
以前小鈴から借りてそのままにしていた○ケットモン○ターの攻略本を今になって読んでいるのだが…思っていたよりも役に立ってくれないというか。

そもそもこの本を借りた理由というのが、俺自身が属性の関係をあまり理解しておらず、少しでも参考になりそうな資料だったから…というものだったのだが。
ポケ○ンでいう「あく」タイプって人形でいう何属性なんだ…「くさ」「むし」って人形だと何に当たるんだ…
となっているお蔭で、結局あんまり参考になっていない。
いかに俺がポケモ○をやっていなかったか、という話でもあるのだが。

しかも、人形バトルにおいて「毒属性」の技は「水属性」の人形に効果が大きい筈なのだが、ことポ○モン世界において、どくタイプはみずタイプに対して等倍のダメージしか与えられないようだ。
そういう差異が意外にも多く、結局あまり参考にはならなかった。
つーか、見た感じどくタイプの技がくさタイプ以外殆ど等倍ダメージってやばくね?

そんなこんなで、属性相性に関しては結局よく分からないままだった。
わざわざ貸してくれた小鈴には申し訳ないが、今度この本は返しておこう…



サボリ中…もとい休憩中の天狗に感謝と別れの言葉を告げ、俺は山小屋を後にした。
さっきから出会う天狗ってチキン(烏だけに?)だったりサボリ魔だったりとロクな奴がいない気がするが…



ところで、実家のどこかに放置したままのポケ○ン金は何処に行ったんだろうな。
データ消えちゃったかな。
もし外の世界に帰る事になったら、改めて探してみるか…帰るかどうかは知らんが。




* * *



前回の反省を生かし、ゆっくりとマイペースに山道を登る事数十分。


 

白狼天狗の犬走椛を発見。

…彼女の事だから、他の天狗と違ってタダでは通してくれないだろう。
分かってはいるが、一応話を聞いてみる。

 

だろうね。

「今」とか言っているけど、どうせいつまで経っても入山禁止なんだろ?
何で敢えてそんな言い方してるんだ?

「…分かってて入山したんですか?」

あ、いやその…HAHAHA

「…はぁ…ともかく、ここを通すわけにはいかないの。
 どうしてもっていうなら、力づくで何とかしてもらう事になるけれど」


相変わらずどうしても、っていう理由じゃないからな。
この先通してくれないってんなら、別のルートから行くってのもあるけど…

 

…って事で、俺はこっちのルートから迂回?してくぜ!!

「あ、今そっちは…」

椛の静止を聞かず、俺はすぐ脇の階段を駆け上った。



* * *














 

 

 























* * *





「負けてしまったのなら、通すしかない。
 …仕方なく、ね。」


 


結局、椛を力づくで何とかし、先へ進ませてもらう事になった。
仕事でここを守ってたわけだろうし、少し申し訳ない気もするが…





 


先へ進むと、何度目か分からない洞窟の入り口を発見。
山って本来こんなに洞窟多いもんなのかな。実家の近所にある山には洞窟なんてほぼほぼ見受けられなかったが…あっちはそういう風に道が整備されているだけだったのだろうか。



まあいいや。洞窟に入ろう。




 

 
 
――なん……だと……?


洞窟だと思って入ったが――どうやら、ただの短いトンネルだったらしい。
なんだそりゃ。自然なんてそんなもんか。

まあ、自然なら仕方ない。自然なら…


 
 
人☆工☆物

よく見ると、橋の向こう側には多くの建造物があり、賑わいがあるように見えた。
どこだ、ここ?


 
  
 
橋を渡ろうとしたとき、何処かで聞き覚えのある声が聞こえた。

この声は、文か…この前通りのパターンなら、後ろから来る筈だ…ッ!
勢いよく後ろを振り返ろうとした、その瞬間だった。


 
 
前からかーい☆

前方から走ってくる文は、何やら随分と慌てているように見えた。

「…タイミングが悪いですね、ミューさん。
 本当なら歓迎したいところですが、今それどころではないんですよ。」


歓迎?
その言葉の意味を一瞬理解できなかったが…しかし現在の状況と文の言葉から考えると、遠くに見える賑わっている場所は"天狗の里"なのだろう。

適当に歩いていただけなんだけど、意外と辿り着いちゃったな。
ところで、それどころではない、っていうのは…もしかして、アレかな?

「というのも、少し前から里内での盗難騒ぎが続いていましてですね。
 みんなピリピリしていて、話しかけただけで疑われたり、人形対戦を吹っかけられたりするんですよ。」


盗難騒ぎ…って、絶対アレじゃん。やっぱりアイツ等じゃん。
既に手遅れ気味か…これは面倒な事になったな。

「犯人捜しも進まず、私も取材に必要な筆をとられてしまいました。
 …まさか、とは思いますがミューさんは関係してませんよね?」


待て。俺がそんな事出来るような男に見えるのか?
"今の所"は俺は全くの無関係だ。これからどうなるかは知らんがな。

「そうですか…疑うのは失礼だとわかっているんですが、何分私も筆が無いと取材できませんからね…
 でも確かに、最初の反応を見た限り、犯人は貴方ではなさそうですね。盗みを働けるほど利口な方にも見えませんし」


サラッと酷い事言うなお前は。
まあいい。今回の件は人形解放戦線…というか、三妖精が原因だ。

「三妖精…ああ、イタズラ好きな妖精たちの事ですね。彼女たちが原因でしたか…」

訳あって河童のアジトに行った時に盗み聞きしたんだが、どうやら三妖精は河童達から光学迷彩を盗み出し、今度はそれを使って天狗の里にある『珍しいもの』を盗もうとしてるらしい。
犯人が見つからないのは、奴らが目視不能状態にあるからだろうな。

「なるほど、どうりで…」

文は少し考えた後、懐から一冊の本を取り出し、俺の前に掲げた。

 

あ、それって…!
あの表紙の感じ…間違いない、例の妖魔本だ!

俺の反応を見て文はにやりと笑い、話を続けた。

「おや、ミューさんも欲しいんですか?
 では…貴方の力で、三妖精を何とかしてもらえませんかね?
 彼女たちを懲らしめてくれれば、この妖魔本はミューさんに差し上げてもいいですよ。どうです?」


…河童たちもそうだったが、どうしていちいち人間である俺に投げるんだよ。
俺はカミサマじゃねぇんだ。自分の種族が困ってるからって他の種族にまで迷惑掛けるんじゃねぇ。

やるけどさ。

「交渉成立、ですね。
 いやぁ、ミューさんは話の分かる方で助かりますね!
 それでは三妖精の事、頼みました!私も色々と忙しいですからね。」


…頼りにされるってのは、何とも複雑な気分だな。
面倒臭いような、でもやらなきゃいけないような…
変に正義感持つとこういう時に面倒臭いのかもしれない。

今まで頼りにされたことなんて殆ど無かったから、断り方を知らない…とも言う。


去っていく文を見送りつつ、俺は天狗の里へと足を踏み入れた。




* * *





天狗の里とは言うが、基本的には人間の里と何ら変わりはない。
せいぜい、住民が人間ではなく天狗である…という至極当たり前の違い位だ。
普段であれば、あちらと同じく気兼ねなくのんびりと過ごすことが出来る、いい場所なのだろう。

…普段であれば。

「…なんだ、犯人じゃないのかい?
 そりゃあ申し訳ない事をしたね」


 



倒れた人形を回収しながら、烏天狗は言う。
分かってくれたんならそれでいいと言い残し、俺はその場を後にした。



文が言っていた通り、確かに里全体を包む空気が非常にピリピリとしているのを感じた。
目があった途端に、犯人と疑われてバトルを仕掛けられる…という件が先程から何回も発生している。
迷惑な話だ。

しかし被害者の証言をまとめると、取材帖やら日記帖やら、とにかく書物等が狙って盗まれているようだ。
という所を考えると…確かに三妖精の狙いは、文の持っていた例の妖魔本であるというのは間違いないだろう。

あんなのを盗んでどうするつもりなのかは知らないが…まあ、どうするつもりでもないのだろう。
こういうことする奴は大抵目的なんてないものだ。せいぜい”他人の悔しがる顔が見たかった”とかその辺だ。

他人の不幸を喜ぶなんて…俺には到底理解できないな。




こうなったらさっさと見つけて、痛い目見せてやるのがいいのだろうが…中々奴らを見つける事が出来ない。

井戸の中とか、壷の中とか、樽の中とか…様々な場所を捜索してみたが、それらしい姿はない。
相手は目視不能の状態だろうから、もしかしたら今まで見てきた中にもしかしたら居るのかもしれないが…
しかし冷静に考えれば、妖精とはいえ3匹も隠れられそうなスペースはいずれにしても無かった筈だ。

とすれば…三匹が丁度隠れられそうな場所を探すのが良いのだろうが…?



 
 
うーん。
三匹隠れられる…いや、流石にこんな小さな植木なんかに隠れるとは思えないな。
いくら迷彩が効いているとはいえ、奴らもそこまで馬鹿では…


 
 
まあ、そうだよな。
こんな所に誰かが居る訳が無いよな。















……。














 
 

…そうかそうか、誰もいないよな。
 
ふむ。

































――こんな所に隠れようと思うなんて、相当なアホで無能なバカでどうしようもないマヌケだけだよな!

大声で植木に向かってそう吐き捨てると……


「だ、誰がアホでバカでマヌケでドジよ!!」

 

突如、目の前に三匹の妖精が現れた。

「ちょ、ちょっとサニー!
 姿見えちゃってるわよ!」


「えっ…そ、そういうルナも丸見えになってる…けど…
 もしかして…迷彩なんちゃらの効果切れちゃってた?」


ドジとまでは言ってないが…しかし、ドジである事に間違いは無かったかもしれない。

「壊れちゃったのかしら…せっかくイタズラが楽しくなってきたのに。」

整備の仕方までは教わらなかったみたいだな…それが貴様らの敗因だ。
さて、そろそろ盗んだものを返してもらおうか?

「えぇ?イヤよ!
 折角私たちが一生懸命集めたのに!」


馬鹿言え。お前らが集めたその本だって誰かが一生懸命作った物なんだ。
お前ら如きにただのイタズラで無に還されてたまるもんかよ。

まあ、お前らが本を返そうと返さなかろうと、痛い目は見てもらわないといけないな。
お前らのせいで俺が疑われてるんだ…この恨みを晴らさずにおくべきか!
三匹まとめて掛かってきやがれ!

そう言いながら、背後で待機していたよしかを三妖精の前に繰り出した。
それに応じるように、三妖精もそれぞれ人形の欠片を取り出し、よしかに向けて投げつけた。

この幻想郷に来て、初めて自分から仕掛ける人形バトルが始まった。


* * *




結果は、よしか一体で三妖精の放つ六体の人形を片付ける形になった。
一対六の勝負に打ち勝ったよしかは褒められるべきだと俺は思う。俺は褒める。

「負けちゃったじゃない…どうするの?」

「こういう時にする行動は決まってるわ。」

「逃げるが勝ち、ってね!」

各々そう言うと、思っていたよりも素早く三妖精はその場を逃げ出した。
ギリギリで反応が遅れ、捕まえるのに失敗してしまったのだ。


くそ、俺としたことが…どうすっかな。
奴等は次に何処に行くのか…今の所目処が無い。


うーん。
















 

…とりあえずどうしようもないので、逃げられてしまったことを文に報告する事に。


「ほう!無事に追い出すことが出来たんですか!」

いやまぁ…逃げられちまったんだけどな。
盗まれた物もどこに行ったんだか…

「大丈夫です!手掛かり何かが転がってる可能性もありますし、
 ぜひその場所を教えてください!」


はあ。





* * *




 

とりあえずこの場所に奴らは隠れてたんだが…
生憎捕まえ損ねちまってな。本当に申し訳なk

「おぉ!ちゃんとありますね!」

えっ




文が植木の裏に手を伸ばすと、奥から様々な書物が何冊も現れた。

…そこに置きっ放しで逃げたのかよ。
盲点だったわ…


大量の本を抱えながら俺に向き直り、笑みを見せる文。

「これで私も無事に取材を再開できそうです。」


 




 


やっと妖魔本を貰うことが出来た。
これを早く小鈴の所に持って行ってやりたいところだが…










…あれ?














 






肆?…って…四って意味だよな?
確か、小鈴の所に持って行ったのは二巻まで…
















”…そうだ!この館の主の所に辿り着けたら、あげてもいいわよ!
あの吸血鬼に会ってもまだ生きてたら、また来るといいわ!”
















…あっ。












「それではミューさん、ありがとうございました。
 またどこかでお会いしましょう!

 …さて、原因となった河童達にも少しお灸を据えましょうか…」



 

呟きながら去っていく文を、独りでに呆然としながら見送った。




…ここまで来たんだし、山降りるのは登り切ってからでいいか。
楽しみは後に取っておくほうがより楽しめるしな。

自分に言い聞かせるように小さく呟き、俺は天狗の里を後にした。















あたらしい実況シリーズ、始まりました。
よかったら見てってくださいなヽ(・ω・)ノ                                                   

                                         





































































という訳で。

みんなエイプリルフールネタ色々やってんなーって思って俺もなんかやろうと思ったけど思いの外ネタが無く
やっとの事で思いついたのが過去の実況動画引っ張り出して新しく撮りましたとかいうクソみたいなネタでした

ところで過去の自分の実況動画見返すって結構な拷問なんだぜ(゚ж゚)
勝手にやっておいて何を言うかって感じですが(゚ж゚)




正直、今でも実況動画撮りたいなーって思う事は時々あるのですが
やりたいゲーム∧(かつ)やれる環境のゲーム というのが殆ど無いんですよね

というのも、うちにはグラボやら何やらってのは特にないのでテレビゲーム系は実況出来ず
やれるゲームっていうのはPCゲーくらい(+あまり高いPCスペックを必要としない)なんですが
あんまりいいネタがないんです(゚ж゚)つまらないゲームしかないって意味じゃないからね

あとはやっぱり家族とかが居る中での実況ってのは割と(色々な意味で)厳しいものもあるし、
実は今使っている、学校で支給されたノートPCにはマイク端子が無く、ノートPC本体(のどこか)についているマイクで録音するしかないので基本音質が悪いんですよね。


これらの悪条件が重なって結局実況とか撮れません゚ж゚撮りたい











あと人形演舞ですが

  
 

ちゃんと続きは書いてます(゚m゚)


言っておくが人形演舞飽きたとかそういうんじゃないんだからな!
アークス業が忙しくてあんまり出来てないだけだからな!!





色々頑張りますヽ()ノ





突然ですがPCが逝ったみたいです。                                                  


今使っている学校で支給されたノートPCは、今のとこ動いている(動作が怪しくなったこともあったが)のですが、その前に使ってたノートPCがぶっ壊れてしまったようで。

昨日の時点で、バッテリーが正しく充電されないという不具合があったため、バッテリーが寿命を迎えただけだと思っていたのですが
今日起動したところ、windowsを正しく起動できなかった、という通知が来たという旨を使用していた兄から聞きました。

なんとかかんとか復旧して、重要そうなデータ(ツクールのデータとかやってたゲームのデータとかいかがわしい画像とか)のサルベージは出来たのですが、この分だとあのPCはまたすぐ動かなくなる可能性が高いと思ってます。



あのノートPCは俺が中3の時に来たから…今から4~5年前?くらいに購入したものでした。
そう考えると長かったのやら短かったのやら。短い方かな?
割と愛用していた物ではあったので、やっぱり壊れるとなると中々来るものがありますね゚ж゚











ちなみに
そのノートPCを買った時に「ツクールXP動かなくなったwwwwワロwwwwww」とかぬかしてましたが
今度こそはちゃんとVXAceの移行が完了しました。ツクール出来るよやったね☆ そこ元からやってないとか言わない








とりあえずそんなはなしですヽ(・ω・)ノ
普通にサボってますが人形演舞はまあまあ進んでるのでもうちょっとまってねヽ(・ω・)ゝ
 

妖怪の山へと向かう道中、中有の道へと続いているらしい道を発見した。
ところで書きながら調べたんだが、中有って「ちゅうう」って読むのな。ずっと「なかう」と迷っていたのだが…それじゃあ飲食店になってしまうか。


確実にただの寄り道になってしまうが、興味本位で通ってみる事に。
死者が通る道を生者が通ったって死にゃしねぇよHAHAHA

たぶんな。




* * *






リンゴ飴を舐めながら歩く妖精とすれ違うあたり、中有の道は割とフリーなのかもしれない。
まあ川渡るまではそんなものか。ところであの妖精達、どうやって飴を…?金持ってたのかな…



 


しばらくすると屋台がちらほらと見えてきた。
ここが中有の道だろうか。ここの屋台って何売ってんだろ。


 

 

グダグダだこの辺。




なんとか購入できたリンゴ飴を舐めつつ屋台を練り歩いていると、一つの看板と門を発見。

 

…三途の川、ねぇ。
生物は近寄るな、との事だが…うーん。






折角(?)ここまで来たんだし…ちらっと様子を見るだけ見てみよう。
怒られたらさっさと引き返すとして。























* * *













 

そんなこんなで三途の川に到着。

とにかく静かだった。
水の流れる音も、風で葉が揺れる音もせず。
ただただ、俺の足音と、子供の幽霊が石を積み上げていく音が、辺りに響くばかり。


彼らがここにいるのは、病気で亡くなったのか、事故で亡くなったのか、はたまた妖怪に襲われて亡くなったのか…
原因は千差万別だが、彼らはこれからこの川を渡り、"向こう側"へ行ってしまう…というのは同じなのだろう。


 

川には霧が立ち込めており、"向こう側"の様子はここからでは分からない。

…妙な気分だ。
どこかの宗教の上で生まれた、御伽噺の世界だとされていた、"向こう側"の世界を、こうして遠巻きにではあるが眺めている。


俺も、小さいころからよく教えられたな。
死んだ人は、生きてる頃にいい事をしたら天国に。悪い事をしたら地獄に行くって。

ある時に"そんな世界は無い"と否定されたことがあり、ならば死んだ人の意識はどうなるのか、と…一度深く考えてみた事もあった。
光に満ちた世界に連れて行かれる訳でなければ、辛く苦しい闇の世界に落される訳でもなければ…

そこにあるのは――


 

――喜びも悲しみも無い、"無"の――









…ああ、くそ。またやってしまった。
またこのパターンか。


頭の中の考えを振り払うようにブンブンと頭を振り、振り返った。
そこには、相変わらずきょとんとした表情のよしかがいる。

――何度もこんな下らない話を、よりによってキョンシーのお前にするなんてな。
わざわざ付き合ってもらって悪いな。

すぐ感傷に浸りたがる自分の癖に苦笑いしながら、俺は三途の川を後にした。



























…ところで、番頭の奴どこ行った。















* * *



いい加減本題に戻ろう。
妖怪の山へと歩みを進めた。


 

すると、早速天狗を一体発見。
運命に操られるまま、文に勧められるまま来てしまったが…他の天狗達は俺みたいな人間の事をどう思うのだろうか。


 

…止めはしないんだな。

遺言は、今は書かないでおこう。それじゃあまるで死ぬこと前提だ。
誰にも断らず勝手に死ぬなんて、俺だったら絶対に許せないしな。



 

こうなったらとことんゴーだ。
[いつまでたっても入山禁止]の立札もこの際無視し、山道を駆け上った。





* * *









時折、自分の事をとてつもない馬鹿だと思う事がある。
今がその時だった。


 

山道を駆け上がっている途中でバテてしまったのだ。
登山は焦らず急がずが基本だというのに…



息を切らしながらゆっくり歩いていると、遠くの方から何者かが歩いて来ているのが見えた。
あれは…


 


げえっ、霊夢!


「…あら、あんた…
 ………」


俺の顔を見つめながら、難しい表情をする霊夢。

…さてはお前、俺の名前忘れたな?
俺はミューだ。


「ああそうそう。ミュー、だわ。
 …何、そんなに息切らしちゃって?」


…己の限界に挑んでただけだ。問題ない。
人形に任せてばっかじゃ身体がなまるし、たまには山登りくらいしないとな。

「ふーん…それで、今度はここらへんをうろついてたのね。
 …あのね、一応忠告してあげるけど、本来ここは人の立ち入る場所じゃないの。
 天狗もざわついてるみたいだし、危険度は余計に増してるんじゃないかしら。
 ましてやあんたみたいな一般人が妖怪の山に入ろうだなんて…」


…色々言ってくれてるが、忠告というより心配してくれてる様にも聞こえる。
この前もそうだったけど、本当は俺の事が心配なのか?

「はぁ?そんな訳ないじゃない」
さいですか


 

どうしても…って言う程、この山を登る理由もないんだけどな。
まあこうなっては仕方が無い。俺は人形バトルの用意をした。



* * *




戦いは一進一退だった。
ナズーリンがあやに撃破され、リリーがゴリ押しであやを撃破し、
リリーがすいかに撃破され、ドレミーがすいかを眠らせたまま撃破し、
ドレミーがれいむに撃破され…最後はよしかでなんとかれいむを撃破。

かなり自信のあるレベルだったのだが、ここまで苦戦するとは…修行不足というより、俺の采配ミスだな。もう少し属性についてちゃんと調べないと…


「…意地でも行く、って事ね。
ま、一応忠告はしたし、後は勝手にどうぞ。」


ああ、心配してくれてありがとよ。

俺の言葉を無視し、霊夢はその場を立ち去ろうとした…
と、急に霊夢が足を止めた。

「…ああ、そうだ。私には必要ないから、あんたにコレあげるわ。」

そう言って、俺に小包みを一つ手渡してくる。
これは…


 

消耗品かーい☆
まあ、有り難いんだけどさ。

「この先、洞窟が続くことになるから…何も用意してないと、後々泣く事になるわよ。
 もしそうなったって、誰も…」


そこまで言ったところで、霊夢は急にバツが悪そうな顔で口を閉じた。
…少し前に俺が言ったことを気にしているのだろうか。


「…ま、せいぜい頑張る事ね。」

 

吐き捨てるように言い放ち、いつもより速足で霊夢は去って行った。


――あのスピードじゃ、そのうちバテるな。


俺の独り言は誰に届く事も無く、流れる川の音で掻き消されていった。

 
 

レミリアに指示され…もとい運命を告げられ、玄武の沢へと到着。

しかし、玄武の沢って何があったんだっけか。
でーっかい亀が居るとかなんとか噂にちらっと聞いた気がするが、随分前の情報なんで何かしら差異があると思われる。



それとはあまり関係無いが、沢を流れる水はとても澄んでいて綺麗だ。
外の世界にある俺の実家は所謂盆地であり、若干都会寄りな割に自然の豊かさには自信があった。しかし幻想郷のこういう景色を見てしまうと…やはり、少し見劣りしてしまう。
あっちも悪くないんだけどな。



 


考えながら歩いていると、目の前を何かが通り過ぎた。
あまりにも早かった為、それが何なのかを確認する事は出来なかった。

そういえば、メンヘラ度チェックだかの問いで似たようなのがあったな。
夜に山道を歩いていたら、目の前を何かが通り過ぎた。それは一体何か…ってやつ。
ちなみに俺の答えは「葉っぱ」だった。メンヘラとかではなかったらしい。



「あやややや、これはこれは!」

不意に、背後から少女の声が聞こえた。

 

振り返ると、そこにいたのは天狗の射命丸文だった。
いつの間に後ろに…っていうか、さっき通り過ぎていったのお前か。

 

「いやぁ、こんなところで会うとは奇遇ですねぇ。」

…そういえば周りの話を聞いた感じだと、里で俺のことが妙に有名になってるのってこいつらに原因があるらしいな。
いや別に、それに対して怒ってるとかそういう訳じゃないんだけど…あんま有名になるのなんて慣れてなかったからな…

「もしかして妖怪の山に行かれるのですか?
 いやぁ、流石というか…貴方はやはり他の人間とは違うのですねぇ。」


俺の運命は、どうやらそうあるらしいからな。

妖怪の山って普通、人間は入っちゃいけないみたいな話を聞くが…文は俺を止めに来たのだろうか。
しかし運命に従うんなら俺は山を登らなければいけなくなる。現状、それ以外に行って何かありそうな所はないしな。
つーわけで、もし文が俺を止めるなら、強行突破も視野に…


「妖怪の山はいいですよ~!
 麓に河童のアジト、中腹に天狗の里、山頂には守矢の神社と…観光にはもってこいです!
 噂には、仙人の住まう庵があるとかなんとか…!」


むしろウェルカムかーい☆
天狗の間ですら"噂"止まりな辺り、その仙人隠れるの相当うまいぞ…

「あやや、引き留めてしまいましたね。
 ミューさんも異変解決に忙しい事ですし、私はそろそろお暇させていただきましょうか。
 天狗の里へ無事に辿り着けましたら、是非ともじっくり取材させてくださいね!」


こちらに考える暇も与えない文のマシンガントーク。
天狗の里に来ることを推奨されている気がするが、それこそまさに人間が行ってはいけない場所なのでは…

そう考えた時には、既に文の姿は無かった。
本当に里に行っていいのだろうか…まあ、大丈夫かな。他の天狗に追い返されたらその時はその時だ。








* * *

 

沢を進んでいくと、洞窟を発見。
陸路だと他に通れそうな道も無かった為、入ってみる事に。
水路で行って悪戯河童とかに遭遇しても困るしな。



 

普通洞窟といえばジメジメと湿度の高いイメージが大きいが、こと玄武の沢の洞窟は割と風通しも良く快適だった。
そういえば命蓮時墓地の洞窟の時は考えもしなかったが、外の世界に居た頃は洞窟探検する機会なんてまるでなかったんだよな。
そういう規制とか、結構厳しいからなー。変に入って変な人に怒られてもイヤだし。

何か今日は外の世界の事を振り返りながら進んでるな。そういうテンションのようだ。


 

道中で河童や何故かいる幽霊達に人形バトルを挑まれながら進んでいくと、一匹?の河童を発見。
遠巻きに見ても何やら慌てているのが簡単に見て取れ、やがてこちらの視線に気が付くとやはり慌てたように俺の元へ駆け寄ってきた。

「大変だ、大変だ!
 私たちのアジトが、人形解放戦線に乗っ取られちゃった!」


……はぁ。は?はぁ?

人形解放戦線?…って、あのルーミア達がやってたアレ…だよな?
あいつらが河童のアジトを?

あんな妖怪達と妖精達が数匹集まった所で、河童の本拠地を襲撃して勝てるとは到底思えないが…


「好き放題に暴れて困ってるから、助けてくれそうなヤツを探してるんだけど…キミ、助けてくれたりする?」

河童達が勝てないような集団を、俺一人で相手しろと。
中々面白い事を言うじゃないかお前は。何で俺が…


「大丈夫!アジトへの行き方は少し特殊だけど、声を掛けてくれたらいつでも連れてくからさ!」


そういう事を言ってるんじゃないんだ。行き方がどうのとかじゃなくて。
っていうか、さっきの文もそうだったがお前らは人間を自分のアジトにホイホイ招き入れて大丈夫なのか。そういうもんなのか。


 

不意に先程と違う媚びるようなトーンで、上目使いでそう訊いてきた。

こいつ…!上目使いをマスターしてやがる…!

…えーいくそ、分かったよ!
やるだけやってやる!駄目だったとしても文句言うなよ!







* * *



 


人形の異変とその他諸々を追いかけまわす件をこうやって書き留めている訳だが、この文章を誰が読んでいるのだろうか。
それは分からないが、ともかくここ河童のアジトへの行き方は絶対にメモを取らないように、と言われた。
別に人間が入る分には構わないらしいが、大勢が押し掛けると困るので口外しないように頭の中で覚えるだけにしてくれ…とのことで。
都合のいい話だ。別になんだっていいんだけどさ。


河童に見送られつつ、アジトへと足を踏み入れた。














 

少しだけ見晴らしの良い所に意味ありげに望遠鏡が落ちていた為、とりあえずこれで周囲を見渡してみる。





――たしかに"河童のアジト"という割には、妙に妖精どもが多い気がする。
小屋が多く見受けられるが、その殆どが妖精によって占拠されてしまっているようだ。
もしかして、あの妖精どもが人形解放戦線の一員なのだろうか。

ルーミア達があの妖精達を引き連れて、何かをしようとしている?
それとも、ルーミア達も妖精どもと同じく解放戦線の下っ端で、それらを上で操っている何者かがいるのだろうか…

と、そういえば。
以前人里で解放戦線を撃退した際、ルーミアがこんな事を言っていたな。

"…そうだ!ひとまず報告だ!
 今日のところは、これくらいにしておいてやる!おぼえてろー!"


ここであの"報告"という言葉の意味を改めて考えてみると、やはりルーミア達に上から指示している者が居る、という考えの方が何かと辻妻が合う。

うーん…まあ、考えるより行動だ。
人里の時のことを考えると、このアジトにも解放戦線の小隊長ポジの奴が一体は来ている筈だ。そいつを潰して話を聴け…たらいいな。



* * *

道中の妖精達に力の差を見せつけつつ先まで進んでいくと、光の三妖精――サニー、ルナ、スターの三匹が、一軒の小屋の前で話し合っているのが見えた。

どうやらこちらには気付いていないようだったので奇襲を掛けようかとも思ったが、もしかしたらあいつらが小隊長ポジである可能性もある。
少し離れた所から話を盗み聞きする事にした。


「ふっふっふっ…
どう、二人とも!」

 

 

 


遠くから聞いていただけなので断片的にしか会話は聞こえてこなかったが、話の内容を箇条書きでまとめると

・妖精たちは河童の光学迷彩を盗んだ
・天狗の里には珍しいものがある…らしい
・せっかく光学迷彩あるんだからその珍しいものも盗みに行く

その辺りまで会話を聞いたところで、妖精たちは去ってしまった。
サニーの様子がどこかおかしかったようが、何かあったのだろうか…まあいいか。

しかし河童も不用心だな。妖精如きに自分たちの技術を物理的に盗まれるなんて。
あんな奴らの手にそんなモノを渡してしまったら、一体何をしでかすか分かったもんじゃない。
姿を確認できない妖精なんて厄介極まりないぜ。



 

そんな不用心な河童さんにはお説教だ。
俺は唯一占拠されていない小屋へと足を踏み入れた。



* * *

「…また、来たな?」

入って第一声、いかにもイラついているといった調子で声を掛けられた。

「よくも光学迷彩を盗んでいってくれたね!」

 

*おおっと*
これは話の流れが読めたぞ。

どうせこれアレだろ。
にとりは俺が光学迷彩盗んでいったと勘違いしてんだろ。
そんで取り戻そうと俺に喧嘩吹っかけてくんだろ。

背後で待機しているナズーリンに手で合図し、あらかじめ臨戦態勢を取ってもらう。

 

「河童の技術、舐めて貰っちゃ困るよ!
 さあ、盗んだものは返してもらおうか!!」


どうせそうなるって事は分かってた!
行け、ナズーリン!!

にとりが人形の欠片を投げると同時に、ナズーリンが前方に躍り出た。



* * *


展開を先読みしての強襲作戦は見事に成功。
先制攻撃に成功し、戦況はこちらが優位に。

…が、先制出来たはいいものの、ナズーリン自体の戦闘力の低さにより意外と苦戦を強いられることに。
なんとかナズーリンだけでにとりの人形三体を撃破する事に成功はしたが。






…で、だ。にとりよ。
最初に言っておくが、俺はあの解放戦線のメンバーではない。

「…え、解放戦線じゃない…って?」

俺は光学迷彩とやらを盗んではいないし、仮に盗みに入るんなら何回にも分けず一回で全部盗んでる。第一光学迷彩持ってるならさっさと使ってるわ。
以上だ、何か質問は。

「よく見ると、キミ人間様じゃないかい。
 なんだ、じゃあ間違えたのはこっちなのか…それは済まない事をしたね。」


申し訳なさそうに俯くにとり。

まあ誤解が解けたならそれでいいし、それに俺も俺で強襲作戦なんていうこずるい手を使ってしまったし。お互いチャラにしようじゃないか。

「…えっと、それじゃあキミは何でここに?」

ああ、それは…










* * *








「…ミューの話だと、光学迷彩を盗んでったのは三妖精か。
 で、おまけに天狗の里にイタズラしにいった、と。」


にとりに小屋の奥に案内され、奇妙な味のする飲料を飲みつつ会議を始める事になった。
このドリンクなんだろうな…変に緑色で、炭酸飲料っぽかったから最初はメロンソーダか何かだと思っていたのだが…全く想像と異なる味をしている。

奇妙なドリンクの事はひとまず置いといて、光学迷彩、並びに三妖精の話へ。


遠くから盗聴した話だし、若干の差異はあるかもしれないけど要するにそういう事だ。


「ふむ…」

少し考えながら、にとりは緑色の奇妙な飲料を啜った。
そしてコップを机の上に置くと同時に、深刻そうな表情で俺に言った。

「…キミにこんな事をお願いするのはどうかと思うが…盗まれた光学迷彩を取り返してきてはくれないかい?
 河童の技術を使って天狗にイタズラとなると、立場的にも私達だって困るんだ。」


ふむ…
まあ、そう…だな。

どちらにせよアイツらは早いとこ何とかしなきゃヤバいかなーって思ってたところだし、
もし種族間で問題が起きたお蔭で、人形とか関係無しで大規模な抗争が起きて…とかってなったら、俺だって困る。飛び火してきそうだしな。

つーわけで、分かった。
アイツらは俺が何とかしておこう。

「本当かい!?
 いやあ、助かるよ…そうだ!」


にとりは椅子から立ち上がると、小屋の奥に駆けていき、何かを取り出すと俺の元へと戻ってきた。

「そんなミューには、いいモノあげるよ!」


 

…なんだ、この…何これは?

「今は空気が抜いてあるから分かんないと思うけど、これはゴムボートさ。
 これさえあれば、大抵の水場は移動できるようになるよ。飛べない人間が山を登る為の必需品さ!」


へぇ。
たしかに沢は水場が多く、何があるか分からないし泳いで渡る事も出来なかった為、行動可能な範囲はかなり限られていた。
しかし、水場が自由に移動できるようになる、と考えれば…非常にありがたい代物だ。


「さ!これで準備は万端だね!
 キミには期待してるよ!」


ああ、そいじゃあ行ってくるとするかな。

そう言い、小屋を出ようとした…が、その前に訊いておくべきことがあったな。

ところでにとりさんよ。

「ひゅい?なんだい?」

さっき飲ませてもらったドリンク…結局あれはなんなんだい?

「ああ、あれかい。
 アレは外の世界からレシピが回ってきた…"ペ○シキューカンバー"さ!」



(´゚ω゚):;*.:;






* * *







河童に送ってもらい、玄武の沢へと帰還。



早速、河童特製(主ににとりがやったらしい)のポンプを使い、ゴムボートを膨らませて水に浮かばせてみる。
するとボートはあっという間に膨らみ、俺一人くらいなら余裕で収まるサイズになった。

さっそく乗ってみるとボートは思いの外安定感があり、こういったボートの操作は数年前にカヤックに乗った以来の俺でも簡単に制御ができそうだった。

そういえば、自転車の時もそうだったが…よしか?

岸にいるよしかに視線を送ると、ぴょんと跳ねたと思うと俺の目の前に着地し、そのまま寄りかかってきた。
ああ、やっぱそういう事か。




 

よしか、ライドオン!


…すっげー操作しづらい。
しかし、よしかは楽しそうだし…まあいいか。



 

 

妖精メイドに道を尋ね、図書館の扉へと辿り着いた。
特に怪しまれずにここまで来てしまったが、果たして紅魔館的にはこれでいいのだろうか。




・ 

 

さて、噂には訊いていたが…図書館中々に広い。
今までに外の世界で見てきたのは、学校の図書室と大した規模のない市営図書館くらいだったが、そんなものとは比べ物にならない。
俺自身が元々活字本を読むタイプではなく、また読みだしても非常にスローペースな為一冊一冊を読み解いていくのに非常に時間が掛かる。それを考えると、もしこの図書館の本をすべて読むとなったら…下手したら数百年単位では足りないかもしれない。


流石に言い過ぎかな。


 

あちこち歩き回っていると、本の整理中らしい小悪魔を発見した。
パチュリーがどこにいるか聞いておきたかったが、作業中の様なのでそっとしておこう。
作業を邪魔される苦しさは俺もよく分かってる。



と、横を通り過ぎようとしたが…

 

「さては私の読書の邪魔をする気ね。
 そうはさせないわよ!」


整理中じゃなくて読書中かい。
そんなつもりはないと宥めようとしたが、お構いなしに人形の欠片を投げつけてきた。






* * *


咄嗟に出したひじりの人形で応戦し、ときこ、だいようせい、こあくまの人形をそれぞれ撃破した。
ひじり自体、突っ込んでいって相手をぶん殴るという別の意味で危ない戦いをしていたのだが、最後の一撃で吹き飛ばされたこあくま人形が本棚に叩き付けられ、その衝撃で何冊かの本が本棚から崩れ落ちた。

その内一冊が小悪魔の頭上へと真っ直ぐ落ちてゆき、彼女はそれに対応しきれず頭で本を受け止める事となった。



 

悪いな、だが俺は邪魔をするつもりはなかったとあれほど。
まあひじりを出した俺にも責任は少なからずあるだろう。仕方が無いので崩れた本を俺も集める事にした。
ひじりは後でお説教な。

と、本を集めていると…その中に、件の妖魔本が一冊紛れ込んでいるのに気付いた。
試しに本を開いてみたが、読めそうで読めない字の感じ的に間違いないだろう。

「ん?落ちた本に興味があるの?」

ああ。ちょっと訳があって、このシリーズの本を集めてるんだ。
この図書館は本のレンタルとかはしてないのか?小鈴を連れてくる訳にもいかないし。

「…この妖魔本が欲しいのね。…んー…」

そう考え始めたところを見ると、別にレンタルサービスとかはやっていないようだ。
この分だと、貸してもらえても何か条件付きとかになりそうな…

「…そうだ!この館の主の所に辿り着けたら、あげてもいいわよ!
あの吸血鬼に会ってもまだ生きてたら、また来るといいわ!」


ほら来たー。
だがしかし言ったな?レミリアに会って帰ってくれば貸してくれるんだな?
悪魔は嘘を吐かないって聞いたぜ?どっかで。

そういう事ならさっさと行って帰ってきてやろう。



* * *


早速レミリアの所に向かおうとしたが、早くも当初の目的を忘れる所だった事に気付いた。
そうだ、俺はレミリア以前にパチュリーに会いに来たんだ。
妖魔本の事はそれからでもいいだろう。



 

図書館を歩き回っていると、件のパチュリーを発見。
読書中のようで申し訳ないが、少し話を聞いてもらおう。

「…あら、珍しいお客さんね。」

 
 

いいや、関係大アリだ。
話せば長くなるんだがかくがくしかじか。

「…人形が魔力で動いている?
 だから私が怪しいとでも踏んだのかしら?」


用はそういう話だ。
結局その辺どうなんだ?

「残念だけど、私の術式とは違う物よ。
 もし関係があったとしても、貴方に教える義理も無いわ。」


ああそうかい…
もし関係があって教えてくれないなら、無理矢理にでも聞いてるけどな。

「…さて、もういいでしょう?
 ここに忍び込んだからには、排除しなくてはね。」

椅子から立たずに人形の欠片を取り出し、俺に向け放り投げてくるパチュリー。

動かずに俺を倒せると思うなよ!と、負けじと人形で応戦する。
先程の反省を生かし、ひじりは待機させナズーリンで対応する事に。



* * *

本を読むばかりで人形の修行を怠っていたのか、ナズーリンがほぼ無傷のまま戦闘は終了した。

「…意味の無い時間程無意味なコトはないわね。」

そうだな、だが喧嘩売ってきたのはそっちだぜ?
俺は穏便に済ませられるんならそうしたかったんだが。

「…さて、レミィに呼ばれているのでしょう?早く行ってあげたら?」

ああ、そういえばそうだった。
…あれ、何で知ってるんだ?さっきレミリアは明らかに図書館と別方向に向かっていったはずなんだが…


「何故知ってるって…」

  
 
 

さいですか…









* * *





 



 

新しくパーティに加わったドレミー人形のレベリングも兼ねて、紅魔館の中を駆け抜けてゆく。
道中でメイド妖精たちに喧嘩を売られたりお掃除されそうになったりしたが、なんやかんやで切り抜け、止まる事無く走り続ける。


 

ところで、公式設定だか二次設定だかは分からないが、ちらっと話を聞いたことがあるな。
咲夜の時間を操る能力ってのは、空間も操る事が出来る。
彼女の力のお蔭で、紅魔館は外観よりも中は遥かに広い…みたいな話を。


あれってどういう事なんだろうな。
時間と空間というのは同じようなモノなのだろうか?俺には全くの別物に見えるのだが…

「間」繋がり?無理矢理過ぎるかこれだと。

あと考えられるモノとしては…たとえば、A地点からB地点までの距離をxとし、何かしらの物質がA地点からB地点までに到達するまでの時間をyとする。このyの値をいじる事で相対的にxが変動し…
駄目だ、俺自身何言ってんのかさっぱりわかんねぇ。
つーかそれじゃあ小町の能力と同じじゃね?




 

何でそんな話を突然しだしたかって事についてだけど













さっきから同じ道を何度も通ってる。
完 全 に 迷 子 状 態 。









* * *




















人形や妖精たちに足止めを食らい続け、体感では1時間くらい彷徨っていたのではないだろうか。


 

やっと先程までとは明らかに違う道が現れた。
この扉は何の部屋だろう?

興味本位で入ってみる。






 

扉を開くと、すぐ目の前にまた新しい扉が。
今度は何の部屋だ?







 

扉を開くと、すぐ目の前にまた新しい扉が。
今度は何の部屋だ?







 

扉を開くと、すぐ目の前にまた新しい扉が。
今度は何の部屋だ?








 

流石の俺でも無限ループしてる事に位気付いてる。



* * *




気を取り直し別のルートを歩いていくと、これまた不思議な空間に出た。



 



さっきから不思議な空間ばっかりだ。
今度は三つの扉と、大量の植木鉢が置いてある。
よく観察すると、植木鉢は全てに樹が植えられている訳ではなく、不均等に植えられている。パッと見ただけでは法則は不明だ。



よく分からんし、とりあえず真っ直ぐ進んでみよう。
真ん中の扉を開いてみる。




 

…さっきも見たぞこのパターン。
全く同じ空間に出たぞ。


これでどうせ、もう一回同じ扉に入るとこの空間に出るんだろ?
パターン入りましたよこれ。

仕方ないな、一回くらい罠にはまってやるかwwwwwwww





















 





















WHY!!
JAPANESE!!
PEOPLE!!!!





* * *











 

もう一度先程の空間に戻ってみる。

例えば、植木鉢の数が少ない順に通ってみる!
真ん中、左、右!












 

ですよねーwwwwwwwww



逆パターンも同じだったんで省略。












 



法則はパッと見だと分からないが、間違いなくこの植木鉢がヒントになっているだろう。
この植木鉢をどう見るか…。




そういえば、迷いの竹林も筍の数がヒントになってたんだよな。
竹林の場合、筍の数が必ず3の倍数になってて、その数と時計の12時間表記を重ね合わせて云々…




じゃあ紅魔館の場合は…植えてある樹の数?
左から順に、5本、4本、9本…
流石に時計は関係ないようだ。4と5は右下の方だしな。
他に数字関連であるものとすれば…パソコンのテンキーとかあるな。

789
456
123   ←こういうやつ。格ゲーのコマンドとかでよく使われる奴だ。

…駄目だ。これも関係ない。4は左だし、5に至っては真ん中…





まるで意味が分からんぞ!!





じゃあ後は何だよ…並び替えてみるとか?

549、594、495,45……あれ、495?

そういえば、フランのスペカに「495年の波紋」とかってのがあったよな。




じゃあ何だ…真ん中、右、左?




























 

まじかよ…
そんなヒントあるかよ……




さて、再び三択だ。
しかも、見たところ今回は一切のヒント無し。

こうなっては、真っ直ぐ進むしかあるまい。











 

あっ


















 

・・・尚、真ん中のルートには誓約の糸が置いてあるだけでハズレ。
ついでに右側のルートには一切何もなくハズレのようだ。




* * *


 

めげずに進んでいくと、小さな部屋に出た。
小さいとはいえ、意味ありげにベッドが一つだけ置いてあり、暖炉や箪笥が設置されている所を見る限り、ただの物置とかそういう訳ではなさそうだ。





部屋を出てぶらぶらすると、妖精たちの休憩所をいくつか見つけた。
彼女たちに話を聞き、レミリアがいる部屋の情報を得る。

…しかし、妖精たちはそれでいいのだろうか。
まあ、途中で面白い話をいくつか聞けたから、もう気にしないでおこう。




 
はてさて、そんなこんなでやってきましたレミリアお嬢様のお部屋。
ここに来るまでかなりの時間を食った…



さあ、早速入ってみy
 
おお?

何処からともなく、不思議な声が響く。
こりゃ一体。


 

 

辺りを見渡してみたが、人影はない。
妖精メイドの声かとも思ったが、この辺りには一匹もいない。

こりゃ一体。











まあいいや、部屋に入ってみ――

 

!?


 

!?!?!?

思わず、よしか共々後ずさりして距離を取った。
いつの間にそこに…いや、咲夜の能力か!



 

ここ幻想郷に来て、初めてまともに命の危機を感じた。
妖怪に脅されるのではなく、人間にナイフを向けられる事で命の危機を感じるなんて…これじゃ幻想郷じゃなくても、外の世界と何にも変わらん。
もっと幻想郷らしい方法で――なんて考えてる場合じゃないな。

分かった、分かったから!そのナイフをしまえ!
つーか、お前は何にも話を聞いてないのか!?

「…何を言っているのか分からないけれど。
 今すぐここを去らないのなら…私が、完膚なきまでに叩きのめしてあげる。」


そう言うと、ナイフの代わりに人形の欠片を俺に向けてきた。
良かった、少しは話を聞いてくれた様だ。俺も人形の欠片を用意し、人形バトルの準備をした。






* * *




ひじり一体が軽傷を負ったが、咲夜に勝利。

「…私の負けね。
 まさか、ここまで強いなんて思いもしなかったわ。」


俺みたいな奴を足止めする為に内部を迷路状にしたのだろうが、やはり裏目に出たな。
お蔭で人形は育つわ、よく分からんワインは大量に手に入るわ…今こうやって思い返すと、意外といいことづくめだったのかもしれない。

それはそうと、だ。
俺はレミリア…お嬢様に呼ばれてここまで来たんだが、お前本当に何も聞いてないのか?

「え、お嬢様が…え?」





 

咲夜は露骨にどんよりとした表情になり、かと思った次の瞬間には俺の目の前から消えていた。
…あいつも大変そうだな。





* * *

さて、どうせレミリアの事だから、会ったら人形バトルを挑まれることだろう。
最早いつものことでいい加減慣れてきたし、別に嫌じゃない。

ってところで、ここらで一旦俺の手持ちを軽く紹介しておこう。





  
 
・Dよしか(毒・冥)
なんかめっちゃ打たれ強い子。HPが軽くぶっ飛んでる。代わりに集防と散防は並。
すっとろいようにも見えるが、他にもすっとろい子が多いので意外と気にならない。
Defenseであるが火力は意外と低くない。

・Eリリー(音・闇)
驚異的なまでに鈍足。俊敏で彼女を下回るのは難しいのではないだろうか。
※リリーを除いた現5体の俊敏平均が107に対し、リリーのみ21。
代わりに集弾がかなり高めな為、肉を切らせて骨を断つようなタイプ。しかしめっちゃ固い訳ではない。


・Eドレミー(夢)
レベルがそんなに高くないせいもあるのか、個体値が滅茶苦茶残念であるからなのか、色々と地味なステータス。
改めて眺めてみると他の子より勝ってる部分は殆ど無い…?バランス型とも。
代わりに"ドリームワールド"という固有アビリティにより、相手を停止状態→スリップダメージという地味に攻める奥義を持つ。


・Eキスメ(炎・自然)
キスメが自然…?というのはとりあえず気にしないでおく。
よしかが"HPのみ"高めなのに対し、キスメは"集防と散防"が高い。代わりにHPは並。
一種の耐久型である。火力はほどほど。


・Sひじり(闘・光)
打たれ強さと素早さを兼ね揃えた…スピード型…?
特筆するような能力はなさそう。


・Sナズーリン(大地・鋼鉄)
ひじりに色々食われてる子。もちろんステータス的にであって性的にじゃないぞそこの君
というのも、ひじりよりわずかに素早いが火力も耐久力も負けている…
うーん。



よく見たら火力型殆どいねぇ。
まあこんな感じの若干グダグダなパーティであるが、レミリアの所に踏み込んでみよう。









* * *



妙に重苦しい扉を開くと、そこには紅魔館の主――レミリア・スカーレットが、その小さな躰には不釣り合いな大きさの椅子に座り込んでいた。



「…あら、本当にここまでこれたのね。」

ああ。途中で邪魔してきた奴等は全員倒しておいた。
あとはお前だけだぜ?


 

「ここまでの道のり、楽しんでいただけたかしら?」

そういえばレミリアって吸血鬼だったんだよな。
何を今更と思われるかもしれないが、こうして人形バトルを続けていると意外とそういった話を忘れがちになる。
前にもこれ関連で少し悩んだこともあったが、俺みたいな力を持たない一般人でもこういった妖怪たちとコミュニケーションが取れる…と言う事を考えると、やっぱりこの異変がもたらした影響は決して悪い事ばかりではなかったのだろう。
やっぱり、この異変はもう解決せず受け入れちゃってもいいんじゃないかな。

話がそれつつあるので軌道修正。

そりゃあもう楽しかったさ。人形バトルも、迷路を走り回るのもな。

「私も、貴方と遊ぶのを楽しみにしていたのよ。
 イヤと言っても、お相手してもらうわ。」


ちょっとした皮肉を込めたつもりだったが、特に効果は無かったらしい。
それとも、ちょっと言葉が弱かったかな。あんまり普段そういう事しないから…

…まあそんな事はどうだっていい。
相手はやる気の様だ。俺もやるしかない。

人形の欠片を用意し、レミリアに向ける。

「――さあ、本気で掛かってらっしゃい!」



 


――そんな気は毛頭なかったのだが、いつの間にか俺の命を掛けた戦いが始まった。




* * *


戦いは俺が優位だった。
ひじり人形とさくや人形が激しい攻防を繰り広げていたが、最終的にはひじりの打撃でさくやを撃破。
人形バトル的にお前本当にそれでいいのかって気はするが、もうこれがひじりなのだから仕方ないのだろう。
さて、次に彼女が出す人形は――と、ふとレミリアの方に目をやると、何やら不可思議なポーズをとっているのが見えた。
いわゆるジョ○ョ立ち的な、そんな感じの。

「フフ…中々強い人形を持ってるわね。
 なら、私も切り札を出すしかないようね!」

レミリアは取り出した人形を高々と投げ、叫んだ。

「行きなさい!スカーレットアバター!!」


 

























その時の俺の表情を、あえて顔文字で表すなら

(゚д゚)

↑これ以外に当てはまる物はないだろう。














結局、スカーレットアバター…もとい、レミリア人形もひじりの攻撃で撃破。
続くミミちゃん&る~こと人形も撃破。こいつ名前長い。

レミリアが所持していた3体の人形を撃破したため、俺の勝利となった。


「……あら、結構強いのね。」

口ではそう言ってはいるものの、レミリアの表情は余裕たっぷりといった感じだった。
強者の余裕と言うべきか、それこそカリスマのようなものなのか…

「…本気、出してると思った?」

と、ここで思わず場の雰囲気に流され「何っ!?」と口走ってしまった。
完全に雑魚のセリフだこれ

「暇つぶしだもの、本気なんて出さないわよ。
 …でも、楽しかったわ。また機会があったら遊びましょ。」


どうやら程々に手加減されてしまったようだが、それでもレミリアを楽しませることは出来たみたいだ。
実際俺も楽しかったし、お互いに充実した時間だったといえよう。





















さて、そういえば何の為に此処に来たんだっけな。
そして次は一体どこへ向かえば…

「そうそう、忘れていたわね。
妖怪の山が、貴方の次に向かう運命よ。」


考えている時、不意にレミリアがそう告げた。
突然、運命を予言され…いや、これ予言っていうか指示っていうか

「妖怪の山は、湖の西にある、玄武の沢から続いている…その先の運命は、貴方自身で切り開いてみたらいいんじゃないかしら?」




 

…幼い所を見せたと思えば、急にカリスマ溢れる主みたいな事を言いだし、
そう油断していると再び幼い表情に戻り…

こういう所が、彼女の魅力であり…周りに慕われる要因なのだろう。






ここでふと、ある事を思いついた。
彼女のあどけない表情を眺めていると沸いてきた、ささやかな加虐心による悪戯を。


――ありがとな、レミリア。
楽しかったうえに、次の運命も見てくれて。
お礼に、2つ程面白い事を教えてやろう。

「へえ、面白い事?何かしら?」



 
  
 

お前のそのネーミングセンスをディスってるメイド妖精がいたぞ

「えっ」


そのレミリアの驚きようを見る限り、どうやらディスられていた事には気付いてなかった上、ネーミングセンスには自信があったらしい。
正直俺もアレはどうかと思うが…





ついでにもう一つ教えといてやろう
  
 
  
   
  
 
どうやらお前本人に隠れて、咲夜がお前の人形を使ってあんなことやこんなこと…とても俺の口からは言えないような事をしているみたいだぞ

「えっ…えっ

…えっ?」

 


こっちの話も、レミリア本人は知らなかったようだ。
メイド妖精から聞いた話にだいぶ脚色してしまった気もするが…

と、気付けばレミリアから発せられるオーラが、禍々しいものに変わっていた。
あ、これヤバい奴だ。めっちゃおこだ。

「……あ……」


――話は以上だ!それじゃあそういう訳で!お疲れ!!
















「あんなことってどんなことよーーーっ!!」




 

レミリアの怒号を背にし、俺はそそくさと部屋を去った。




その後、メイド妖精達と咲夜の行方を、俺が知る事は無かった。






 
妖怪兎の案内で竹林の入り口まで案内してもらうと、何やら魔理沙が待ち構えていた。
この竹林には魔理沙が喜びそうなキノコなんかはなかったし、一体何をしているのだろうか。


「こんな所で会うとは奇遇だな、ミュー。
 お前もお前で頑張ってるらしいな。色々聞いてるよ。
 永遠亭にも、どうせ何かしにいったんだろ?」


本当に奇遇だな。
永遠亭には、まあちょっと慧音からお使いを頼まれて…それを何とかしてきたとこだ。

「…へぇ、慧音のお使いか。
 そんな事を頼まれるんだ。前よりは強くなったんだろ?」


そりゃそうだ。
あの時はよしか一体しかいなかったが、今は他にも強力な人形達が居るぜ。

魔理沙の方こそ、それなりに強くなってるんだろ?

「そうだな、んじゃ折角だから、ここでバトルしていこうぜ。
 お互いに実力試しってやつさ。」


ほう、いいぜ。やってやろう。
魔理沙のそういう所結構好きだぜ。

「へへっ、ありがとさん。
 さぁ、掛かってきな!!」




こうして、突発的に魔理沙との再戦が始まった。









* * *





が。




魔理沙が出した、アリス・パチュリー・まりさの人形は…こちらのよしか一体で全て片がついてしまった。
他の人形をお披露目する事が出来なかった…




「…ふぃー、油断しちまったな。
 まさか、ここまで力付けてるとは思わなかったぜ。」


俺の場合、ずっと彷徨ってたお蔭だな。
何度も道に迷って、その度に人形達と戦って…そうしてるうちに、手持ちの人形達はだいぶ強くなった。
地の利が無いっていうのが、こんな所でメリットになるとはな。

「そういや、これから何処行くんだ?」

ああ、俺はこれから紅魔館に行こうとしてるとこだ。
アリス曰く、人形は魔力で動いてるとかで…もしかしたらパチュリーが怪しいかもって事だったから。

「…紅魔館だって?
 成程、アリスがそんな事をな…って、じゃあ何で永遠亭なんかに来てるんだ?」


…それは話せばちょっと長くなるんだが…
まあ簡単に説明すれば、道中にある邪魔な木を切り落とす道具が永遠亭にあるからそれを借りに来た…ってとこだ。
そうだ、よかったら魔理沙も使うか?

「いや、私はいい。空飛んで行けるしな。」

…そういえばそうだった。
くっそー、ズルいぜ。

「んな事言われてもなぁ…」


そういう魔理沙は、こんな所に何しに来たんだ?

「ああ、私も永遠亭に何か手がかりが無いかって来たトコなんだが…
 お前のその様子じゃ、特に何も無かったみたいだな。」


その通り。永遠亭は至っていつも通りだった。
元より怪しそうな所は無かったしな…

「それじゃ、私は先を急ぐぜ。
 今度はもっと強くなってるから、負けないようにお前も強くなっとけよ!」





 

一通り会話を終えると、魔理沙は再び箒に乗り何処かへ飛んで行ってしまった。



…俺も空飛びてぇな。
でも言うほど高い所得意じゃないからな…何かあった時とか怖いし。

そう考えると、別に陸路でもいいのかもしれない。
諦めて自転車に跨り、紅魔館を目指す事にした。





* * *






道中の細長い木を人形の力で伐採し、ペダルをこぎ続ける。
魔法の森や迷いの竹林と違って、霧の湖までの道路はある程度整備されており、お蔭で道に迷う事は殆ど無かった。

 

ある程度走り続けた辺りで、急に視界が悪くなり始めた。
恐らく、噂の湖の霧だろう。

しかし本当に視界が悪い。
足元が見えない程ではないが、十数メートル先の景色は正直殆ど見えない。
これだと咄嗟の事に対応出来なさそうなので、自転車は降りて行動する事に。


 
少し歩いた所で一つの看板を発見。
どうやら周囲の建造物の方角を指示してくれているようだが…この「廃洋館」って何だっけか?

わざわざ看板に掲載する程なのだ。きっと何かあるのだろう。

看板の示す通り、東の方に向かって歩いて行った。

























 


ふぁck





今は通れそうもないので、後にしよう。



* * *

こんな霧の湖だが、他と変わらず妖精たちの話し声は絶えない。
視界のせいでどこにどれ程居るのかは分からなかったが、何か面白い噂話でも聞けるかもしれないと話し声を頼りに霧の中を進む。

 

暫くすると、妖精や妖怪たちが集まっている場所を見つけた。
しかし、別に悪戯をしようとか人形バトルを吹っかけようとかそういうノリではないらしく、それぞれ自分の愛する人形と思い思いの時間を満喫しているようだった。

君は何してるんだい?
適当な子に声を掛けてみる。

 


 いい思い出、ねぇ。





  

彼女が何気なく、そして深い意味も持たないであろう言葉が…俺の心のどこかで引っ掛かっていた。





妖精達の集まりから離れ、紅魔館がどっち方面だったかも分からなくなりブラブラしていると、
霧の中から不思議な声が聞こえてくるのを感じ取った。

話し声とも違う。
耳を澄ませて聞いてみると……歌?

歌詞は無いようだが、その声はたしかに"歌"として、俺の耳へと届いた。
霧の湖で、歌…と言えば、あの子しかいないだろう。



* * *


 


歌声を頼りに霧の中を歩いていくと…
案の定、そこに居たのはわかさぎ姫だった。


しばらく傍で聞いていると、わかさぎ姫もこちらに気付いたのか岸まで泳いで来てくれた。

邪魔しちゃったかな?

「いいえ、そんな事ありませんよ。
 何か…私に御用ですか?」


いや、そういうんじゃない。たまたまこの辺を散歩してただけさ。
…もし邪魔じゃなければ、ここで歌、聴いててもいいか?

「ええ。私の歌でよければ。」


 

そう笑顔で了承してくれたので、
俺はよしかと共に岸辺に座り込み、わかさぎ姫の歌を聴く事にした。










* * *




 


相変わらず、霧で遠くは見えない。
だが逆に、視界から余計な情報が入ってこない分、湖に響き渡るわかさぎ姫の歌声は一層美しく思えた。



その歌声を聴きながら、ぼーっとしつつ考えていた。



――先程の少女が言っていた言葉。
"貴方の旅も、きっといい思い出になるわ。"


思い出、か…。




いつも、目の前の事にばかり夢中になって生きていた。
後先の事なんて何にも考えず、今が楽しければそれでいいなんて能天気に考えて…

そんな日々も、月日が流れれば…いつかは"思い出"に変わる。
あの頃はああだったなとか、この時こうしときゃよかったなとか、そんな話を誰かとするのだろう。
もしくは、こうやって今みたいに、感傷に浸りながら思い出すのかもしれない。

この旅が、いつか"思い出"へと変わった頃。
その頃の俺は、何をしているのだろうか。
相変わらず能天気に生きてるのか、何か深い考えを持って生きているのか…。
それに、外の世界に戻って幻想郷の事を思い出しているのか…それとも、幻想郷に残って、外の世界の事を思い返しているのか…
そもそも生きてるかどうかって話だけどな。





時々こうやって、解りもしない未来に思いを馳せる事がある。
未来への期待であり、不安であり、希望であり、絶望であり…

まあいくら想像したって、未来がどうなるかなんて誰にも分からない。
今があるから、未来がある。
そう考えれば、"今が楽しければそれでいい"というのは決して間違っていない…と思う。

結局いつもこうなるんだ。
勝手に感傷に浸って、どうでも良さそうな事を心配しだして、しばらくすると勝手に吹っ切れる。
今回もいつものパターンだった。雰囲気に流され始まってしまった哲学タイムも、たった今終わりを迎えた。




そろそろ行こうかな。
そう思った丁度その頃、わかさぎ姫もひとしきり歌い切ったのか再びこちらへと近づいてきた。

と、わかさぎ姫が俺の隣に座っているよしか人形に興味を示した。
いや、正確には――

「へえ、そのお人形さん…綺麗な首飾りをしてるのですね。」

よしかが首から下げている、不思議な石の方だったようだ。

そういえば、最初に触ってみた時、突然見た事ある景色がフラッシュバックして…なんだかよく分からなくて、そのままにしてたな。
今触ったらどうなるのだろうか。何気なく手を伸ばし、石に触れてみる。




















 



 



 





















――まただ。
また、一度見たようで、何処かが少しだけ違う景色が浮かび上がった。
この石が持つ、特殊な魔力か何かだろうか。



この現象は、果たして俺以外でも起こるのだろうか。
ちょっとした好奇心から、わかさぎ姫にも触れてみるようお願いしてみる。

…何か、感じないか?

「いえ、特に何も…。
 この石に、なにかあるんですか?」


まあ、ちょっとな。
何も無かったんならそれでいいんだ。



――わかさぎ姫の様子を見ても、そもそも彼女の性格的にも嘘をついているようには到底思えない。
となると、こうなるのは俺だけなのかな…

しかし、検証したのが今の所俺以外ではわかさぎ姫しかいない為、まだ様々な可能性が残されている。
現時点で考えられる可能性(この現象が発生する事)は、
・俺のみである
・人間のみである
・外来人のみである
・男のみである
・わかさぎ姫のみがたまたま見れなかっただけで、妖怪でも発生する
・むしろこの現象自体、たまたまor気のせいだった

というのが考えられる。…最後のは冗談だ。気のせいな筈が無い。


うーん…好奇心のお蔭でまた一つ謎、というかやりたい事が増えてしまったな。
"よしかの持つ不思議な石を解明する"というものが…


歌を聴かせてくれたお礼として、わかさぎ姫に藤原煎餅を一枚プレゼントしその場を立ち去った。
やはり、動かないと分かる物も何も分からない。
今の俺が抱えている様々な問題や謎の手がかりがあるかもしれないと、紅魔館へと歩を進めた。




* * *

 


付近の妖精達から話を聞き、なんとか紅魔館へと辿り着いた。
霧が無ければもう少し早く辿り着けたのだろうが、過去の事を嘆いていても仕方が無い。

その霧の遠くから観察していたのだが、門番――紅美鈴は…どうやら居眠りしているようだった。
立ったまま寝る奴なんて今まで見た事無かったし、本当に噂通り寝てるのかな…と、遠くからしばらく眺めてみたが
こっくりこっくりと舟を漕いでいるところを見ると、恐らく間違いなく眠っている。



 

しかし、美鈴とてマネキンではない。
案外横を通り抜けようとしたときに、という可能性だってありうる――


 


 






警戒した俺が馬鹿だったのかもしれない。










 

さて、門も潜り抜けられたし、早速紅魔館へ侵入だ。
妙に重い扉を開いた。


* * *



扉を開いた先で待ち構えていたのは――

 

あろうことか、この館の主である吸血鬼――レミリア・スカーレット、その人だった。



 


「私がこの館の主、レミリアよ。」

ああはい、存じてる。
勝手に上がっちゃって悪いな。

正直主人に出迎えられるとは思って無かった為酷く動揺していた。
受付嬢が社長だった…と言えば、俺がどれ程驚いているかもわかりやすいと思う。

「私は運命を見通す事が出来るのだけれど、
 貴方、相当面白い運命をしてるわね。」


クスクスと上品に笑うレミリアに、一体どういう運命をしてるんだと問うと

「今は教えてあげられないわ。
 運命というのは、知らないからこそ面白いものなのよ。」


と返されてしまった。

ああそうかい…ともかく、ちょっと図書館の方に用があるんだが、いいか?

「…あら、図書館にご用なのね。
 てっきり私に会いに来てくれたのだと思ったのだけれど…」


残念そうに言うレミリアだが、すぐに不敵な笑みを浮かべ

「どう?パチェの用が済んだ後にでも、私に会いに来なさいよ。
 私なら、貴方の運命の続く先を導いてあげられるわよ?
 とはいっても…私の部屋までこれたら、だけど。」


との事で。

それはオーケーという事でいいんだな。
それなら、上がらせてくれたお礼…という訳ではないが、レミリアの要望にも応えなくてはな。

「ええ、楽しみにしてるわよ。
 じゃあ、ごゆっくり…。」


そう言って、レミリアはすぐ背後にある扉へと消えていってしまった。



うーん、また寄り道が増えそうだな。
まあともかく、今は図書館に行って、パチュリーに会おう。

人形の件か、妖魔本の件か、よしかの不思議な石の件か…いずれかの手がかりが、少しくらいありそうだしな。


身体が宙に浮いているような、ふわふわとした感覚。   

空を飛んでいる訳ではない。かといって、落ちている訳ではない。   

重力とは無関係に、無抵抗に浮いている。                             





その妙な感覚に重い瞼を開くと、これまた妙な空間が広がっていた。
ここは一体どこだろうか。到底、現実とは思えないような景色が広がっているが…


ぼーっとしていた意識が徐々に覚醒しはじめ、現在の状況を理解するまでに至った。

そうだ、そういえば俺は…"狂気の小屋"ってトコで、胡蝶夢丸を飲んで眠って…
じゃあ、これは…夢?
現時点でこれが悪夢なのかどうかは分からないが、どうやら胡蝶夢丸の効果は本物だったようだ。

――つい最近、なんだか似たような夢を見た気がする。あれはいつの事だったか。
殆ど覚えていないのだが、なんというか…凄く孤独を感じる夢だった気がする。
大切な人が、何処か遠くへ行ってしまうような…



そこまで考えた途端、突然孤独感が湧き上がってきた。
終わりの見えない謎の空間。足を前に出せば歩けるようだが、しっかりと地面を踏みしめているという感覚が無い。
生き物の声も、風の音も、何も聞こえない。ただ、静寂が広がるのみ。




――"死んだ人間の意識は何処へ行くのだろう?"
幼い日に、そんな疑問を持った事があった。
その時に思い浮かべた想像上の"死の景色"は…今、俺が存在している場所と、酷く似ていた。




…悪夢とは、"無そのもの"だったのかもしれない。



この俺が、そんな夢如きに怯えるなんてな。
大丈夫だ、これも所詮は夢。死んでなんかないし、孤独なんかじゃない。







孤独、なんかじゃ――















































クイ、と、ズボンの裾が引っ張られた。
背筋が凍るような感覚に、反射的に足元に視線を落とした。


そこには、何処か心配そうな表情で俺の瞳を見つめ、裾を握りしめるよしかの姿があった。







気が付けば、俺はよしかに抱き付いていた。

…怖かった。正直、物凄く怖かった。
強がって見せたこともあったが…独りには、孤独には、なりたくなかった。

――せめてお前だけは、いなくならないでくれよ。
俺を、独りにしないでくれよ。
抱きしめたよしかの耳元で小さく囁き、立ち上がった。

今の俺には、よしかが…人形達が傍に居てくれている。
一人だが、孤独ではない。
こいつらが居れば、俺は…前を向ける。









* * *

怖い夢を見て怯えるなんて、いつ以来だっただろうか。
確か最後に見た時は…夜のどこかの公園で、全く同じ容姿の大勢の女性に追いかけまわされ、その時たまたま持っていた拳銃でそいつらを撃ち殺していく夢だったな。
夢の癖に妙に拳銃の反動がリアルで…人を殺すってこういう事なんだなって。


…あー、なんでか思い出したくもない事をいちいち思い出しちまうな。
やめだ、やめ。


 

感触の無い地面を蹴りながら、夢の世界を歩き回ってみる。
しかし、周りには建物が無ければ、自然物、人すらも誰もいなかった。


 

遥か足元の方に月が見えたりと、不思議な世界だ。
…しかし、月が見えると言う事は…ここは宇宙か何かなのだろうか?





考えながら歩いていると、突然前方の景色にヒビが入った。
何事かと、ヒビに注目しているとヒビのその奥から、一体の人形が現れた。

 

成程、こんなところにも人形は現れるんだな。
普段であれば草むらの中から飛び出してくるものだが、自然物が無い夢の世界では空間を裂くようにして現れる。

夢の中でまで人形と戦わなきゃいけないんじゃあ、確かにこの異変は中々に厄介だし、疲れる。
せめて暴れまわるのだけでも何とかできればいいんだけどな。

…ところで、また知らないキャラの人形だな。あと何体居るんだろうか…



* * *



 

暫く歩き続けていると、不思議な光を放つ大きな扉を発見した。
ここに来て初めての建造物(?)である。

興味本位で近づくと、突然扉の横の空間が裂け、人形ではなく1人の少女が姿を現した。


 


「…あぁ、違うか。
 前にそういう人間がいたのよねぇ…」


生身?
あんたは一体…?

いや…何か、あんたの事は、前に何処かで見た気がするな。
明確には思い出せないけど…無いとは思うが、あんたは俺の事覚えてるか?

「はぁ…私はドレミー。夢の世界の住人です。
 これまで多くの者の夢を見てきたから、1人1人の事は覚えていられないです。」


そうか…しかし、夢の世界の住人ねぇ。
本当にそういうのも居るんだな。


「こんな所に迷い込んでは駄目ですよ?
 このまま進めば、貴方はきっと狂ってしまう。そうなる前に…眠りなさい。」


夢を見ている筈なのに、眠れと言われるなんてな。
狂っちまうのはまあ困るが…今の俺には人形達が居る。きっと大丈夫だ。
夢の中でこんなに意識がハッキリしてる事なんてそうないんだ。もう少しくらい夢の世界を探検してみてもいいだろう。

「…そう。眠る気はないのね。
 いいですか?この先は月の都。常人には長居できない狂夢。
 …それでも、進むつもりですか?」


月の都だって!?
何でそんなとこに繋がってんだ…?

まあ、外の世界でも俺みたいな一般人が月に行く機会なんてないし…怒られない程度でなら、ちょっと見学しに行きたいな。

「…はぁ。この先に臨む物なんて、何もないと思うけど。
 進むなら監視はさせてもらいますよ。
 あまり長居するようなら、私が連れ戻します。月の民に見つかってもダメですよ。」


監視付き、か。
夢の世界の住人はそんな事も出来るのか。
滅多な事はしないし、そんなに心配しなくても大丈夫だと思うが…

「貴方の心配をしてるんです。長い夢は精神を犯しやすいですからね。」

…そんなにか。
夢の世界の住人がそういうんだから、きっとそうなのだろう。説得力が凄い。



そんじゃま、随分身勝手で申し訳ないが…ちょっと月の都を見学してみようかね。




* * *










 

不思議なトンネルを抜けると、そこは異世界だった。
…当たり前か。

体感、地上と気候はそこまで変わらないようだが…こちらの方が空気が澄んでいるように感じる。
穢れ…とやらが無いからだろうか。


さて、先程ドレミーに「月の民に見つからないように」と釘を刺されてしまったので、ここは彼女の言う通り可能な限り見つからない様慎重に行動しよう。









 

少し歩くと、地上のとは少し違った格好の妖怪(?)兎を発見した。
あれが玉兎…要するに、月の民である。

あいつらに見つかっちゃいけない訳だ。昔やった潜入ゲーを思い出すな。








さて、どうやって潜り抜けようか…















 

あっ












* * *











「ちょっとちょっと!見つかっちゃ駄目って言ったでしょう!?」

一瞬意識が遠のき、気が付いたら俺はドレミーの前で正座したまま説教されていた。

「あなたが勝てる相手じゃないって事を忘れないでよね!?」

ハイ…本当スミマセン…
完全に油断してました…

「全く…行くんなら、次はちゃんとしてくださいね。」

何とか再チャレンジを許してもらい、再び月の都への侵入を試みた。


* * *



今度こそ見つからないよう、慎重に。
しかしドレミーの言っていた通り長い時間の滞在は出来ない様なので、素早く。

…いやー、潜入ミッションって難しいな。




 


歩き回っていると、豊姫を発見。
確か…姉の方だったっけか?一人で何をしているのだろうか。

暫く遠方から様子を観察していたが、特に目立った動きはない。
…あれは何かをしているというより、何もしていないという言い方が一番正しいのかもしれない。







 

またしばらく歩き回ると、今度は見覚えのない人物を確認。
白い髪で、同じく白い翼が片側にのみ生えている…片翼の天使?馬鹿みたいに長い刀を持ってそうだがその様子は無かった。

相変わらず何かをしている訳ではなさそうだったし、見つかる前にその場を離れた。












 


思ってたよりも何もないが、そろそろ活動限界だろうか。
そう思った所で、一つの大きな門を見つけた。

もしかして、月の都の…本拠地?の入り口だろうか。
だとすれば、わざわざこんな正面から入れるとは思えない。何か、裏道的な何かとかあったりしないだろうか。


 

門の周りを調べてみようとしたが――なんだこれ?神棚って言うんだっけか?


 

調べてみると、一本の古酒が供えられていた。
なんだかよく分からんが、ここまで来てしまったのだからちょっとした盗みをした所で俺に向けられる敵意は何も変わらないだろう。
 
どうやら、裏道に当たる物は無いようだ。
いつまでもここに居ては危険だし、そろそろ一旦戻ろう。
そそくさと古酒を鞄にしまい、玉兎に見つからない内に門を離れた。

丁度その時だった。
突然意識が遠退き、頭の中に直接声が届いた。

「はい、そこまで。
 これ以上の滞在は許可できないわ。戻ってらっしゃい…」

















次に意識が戻った時、俺は再びドレミーの前で正座させられていた。

「気持ちは分かりますけどね?
 あんまり長くいると…最悪、この世界から出られなくなりますよ?
 …それで、何か得られるものはありました?」


ごめんな、いちいち迷惑と心配掛ける。
だが特に何にもなかったわ。

「はぁ、だから臨む物は無いって言ったでしょう?
 それで、どうするんですか?」


そうだな…月の都も特に何も無かったみたいだし、俺はもう十分かな。
…ところで、逆にこの世界から出るにはどうすれば?

「わかりました。
 それなら、私が元の世界に戻してあげます。」


そんな事も出来るのか…本当に、何から何まで迷惑掛けるな。

ありがとう。

「いいえ。お気になさらず。
 それじゃあ、行きますよ…」


ドレミーは徐に掌を俺の額に当て、何かを念じはじめた。

「おやすみなさい…貴方に吉夢が訪れん事を。」



その言葉を聴き取った瞬間、意識がプツリと閉ざされた。
























* * *








 

ふと目を開くと、見慣れない天井が広がっていた。

何してたんだっけ…と寝惚けた頭で状況を整理しようと試みた。


確か、この小屋で眠ると悪夢を見るって噂を聞いて。
実際に寝てみて、変な夢を見て…
そうだ、それでドレミー…って奴に、元の世界に戻してやるって言われて。つまり夢から醒めたって事か。


不思議な体験だったな…と思いつつ布団から起き上がり、脇に置いてある鞄を開き…つい先程までの考えを否定せざるを得なくなった。

…さっきまで見ていたのは、ただの夢ではなかった。
夢を見ていたのではない。俺自身が夢の世界に入っていたのだ。
俺は確かに夢の世界に居て、実際に月の都に潜入したのだ。

鞄の中に入れられた、一本の古酒が、それらを物語っていた。









色々落ち着いたら…適当な奴と、この酒飲んでみたいな。

気楽な考えを抱きながら、俺は狂気の小屋を出た。


 


「…稗田さんが?
 そうか…なら、通せんぼする理由もないな。通っていいぞ。」

阿求に言われた通り、里の南西にいる門番に名前を出すと、あっさりとそう承認してくれた。

お前本当にそれでいいのか?
随分あっさり信用してる様だけど…

「だってお前、新聞に載ってた奴だろ?
 お前の活躍を見た感じだと、嘘吐いてる様には思えないしな。」

はあ。
…ま、そういう事なら有り難く通らせてもらおうか。





 

活躍を、ねぇ。
まだ大したこともしてないしなんだか照れ臭いな。



さて、一応現在のやるべきことを再確認しておこう。

まず大前提の目的として、【幻想郷に溢れかえった人形を何とかする事】
どうやら人妖問わず、人形によって齎された被害は比較的大きい様子。
しかしこれに関してはとても難しい問題で、幻想郷で暮らす普通の人間は、人形達のお蔭で逆に妖怪に襲われにくくなっているようだ。ソースは周りのなんとなくの話と実体験から。
その為、本当に解決すべき異変なのかどうか…というのは、人間である俺として正直難しいところ。

次に、【妖魔本を探す事】
小鈴から頼まれた第二の目的である。幻想郷の様々な所に同じシリーズの妖魔本があるようで、それを探し出すというもの。
妖魔本の内容は日記の様になっているのだが、その日記には『俺がした体験とほぼ同じ内容』が書かれている。
これは一体どういう事なのだろうか…と、俺自身これには非常に興味があるので、正直人形の異変よりもこちらの方を優先したい。


…そして、現在俺が向かうべき所は、本来【紅魔館】であった筈なのだが、
道中にある邪魔な木を切り落とす為の道具が、現在【永遠亭】にあるそうで。俺はそれを借りに行かなければならない。
しかも慧音に頼まれ、何やら永遠亭で起きている厄介事を解決しに行かなければならなくなった。



うーん、酷いたらい回しだ。
まあ嘆いていても仕方が無い。さっさと行こう。








* * *




 

迷いの竹林に到着。
竹林という名の示す通り、見渡す限り竹でいっぱいだ。

成り行きでここまで来てしまったせいで完全に失念していたが、そういえば迷いの竹林って幻想郷の中でも割と危険なスポット認定されてたんだよな。
妖怪がどうのっていうのはもう幻想郷ならどこへ行っても変わらないんだが、やはり名の示す通り非常に迷いやすいらしい。
筍取りに行って、その後行方を知る者は誰もいなかったとか、そういうのも珍しくないそうな…

妖怪に襲われるとか以前に遭難するとか、そういうのは絶対に避けたいな。
どうすれば遭難しないかって?まあ見てなwwwwww





――その瞬間であった――


 
  
  

突然の衝撃にバランスを崩してよろけ何事かと衝撃の飛んできた方へ目をやると、
勢いよく転んだのか尻の辺りを押さえながら一匹の妖怪兎がよろよろと立ちあがっていた。

「いててて…す、すみません!
 今、凄く急いでて…前を…」

俺にぶつかってきた妖怪兎がぺこぺこと頭を下げてくる。

急いでても前は見てような。
ところで、お前妖怪兎…って事は、永遠亭ってどの辺にあるか知ってるか?
知っててもし良かったら案内を頼みたいんだが…

「え、永遠亭…?
 …あ、なるほど!慧音先生の代理でいらしたんですね!そうですよね!?」

お、おう?おう。そうだけど。
一体何をそんな焦って…

「でしたら、急いでください!
 このままだと大変なことになるって、八意様がおっしゃってました!」

大変な事…!?
永琳がやばいと言うレベルの事を俺は任されたのか…!?

「私はあなたの事を八意様に伝えてきますので、ひとまず先に失礼します!!」

  

 

あ、ちょ…
…行ってしまった。

うーん、案内は無しか。
急いで来て欲しいんなら、案内してくれた方が早く到着しそうなもんだが…



こうなっては仕方が無い。
遭難しないようにしつつ、頑張って永遠亭を探し出そう。



そういえばさっき、どうすれば遭難しなくてどうのとか言ってたけど、妖怪兎のお蔭で話が遮られてしまったな。
改めてやろう。

遭難しないようにするにはな…


 

ひたすら!!
真っ直ぐ!!

 

突き進めばいいんだよおおおおおおおおおお!!


 
 

うおおおおおおおおおおおおおお


 

おおおおおおおおおおおおおおお


 

おおおおおおおおおおおおおおお

 


流石の俺でも無限ループしてる事に位気付いてる。






* * *



最早帰り道も分からず、完全に遭難状態の俺。

っべーわ。まじっべーわー。

展開の理不尽さと、竹林の無慈悲なまでの迷宮加減に、普段使わないような嘆きの言葉が口から溢れ出す。




 

そんな俺に救いの手を差し伸べるかの如く、一軒の小屋を竹林の中に発見した。
こんな所に、誰かが住んでいるのだろうか?

すみませーん。

戸を小さく開け声を掛けてみるが、何も返事が無い。
留守?



 

勝手に中に入ってみたが、やはり誰もいない。
うーん。













* * *










 

勝手に湯呑を借り、小屋でひとまず休憩する事にした。
お茶は持参してきた命蓮茶である。

本当はもう少しゆっくりしたい所だが、さっきの妖怪兎からも早く向かうよう言われているし、
仕方が無いので適当な所で休憩を切り上げ、俺は再び竹林の迷宮へと向かっていった。


















 

勝手に使わせてもらった代として、銅銭を一枚卓袱台の上に置いておいた。
あれ何気に貨幣としては使えないらしいが、ちょっとしたコレクションにはなるだろう。…拾ったものだが。











妖怪兎と人形バトルを繰り広げつつ、自転車で竹林を駆け抜ける事数十分。

 

何やら先程までとは違う、少し開けた空間が見えてきた。
これはもしや、偶然にも正規ルートに辿り着けたのだろうか。


 

奥へと進んでいくと、妖怪兎が二匹…いたのだが、先程まで何匹も見てきた野良とは違い、特に有名な二匹組だった。

因幡てゐと、鈴仙・優曇華院・イナバ。
しかし、相変わらず鈴仙の方名前長いな。




 

待たせたな。
道案内が無かったせいで余計に時間が掛かってしまったぜ。

「じゃ、私は師匠にこの事を伝えてくるわ。
 …てゐ、ちゃんとこの人を連れてくるのよ?」



そういうと、鈴仙は竹林の更に奥の方へと入って行ってしまった。
あっちの方に永遠亭があるようだ。






…さて。てゐさん?
タダでしてくれるなんて最初から期待してないが、道案内してくれるのか?

 

「…怪しーんだよね。ものすっごく。」

ふーむ。到底強そうには見えない、と。
まあ、人は見かけによらないとは言うが…実際の所は、実際に見てもらわないと分からないだろう。

「そういうこと。って事で、まずは私と勝負。
 これで確かめさせてもらうわ!」







* * *






どこか嬉しそうな表情で俺に駆け寄ってくるよしか。
自分の実力を見せつける事が出来てご満悦なのだろうか。




「ふーん、実力は本当だったんだ。」

目を丸くしながら、そんなこちらの様子を見るてゐ。

実力…まあ、"俺の"ではなく"よしかの"ではあるが、てゐに見せつける事は出来た。
さあ、案内してもr

「じゃ、先に進むといいよ。
 永琳様は中にいるからさ。」





え?





「…え?」






えっ?






「誰も"直接案内する"とは言ってないでしょ?
 ほらほら、早くしなよ!怒られちゃうよー?」





こ、こいつ…!

…しかし、確かに誰もそんな事は一言も言っていなかった。
これは…俺が悪い…のだろうか…



畜生!一本取られたぜ!覚えてろよ!!



 


てゐにそう吐き捨てつつ、俺は永遠亭へと入って行った。






* * *



「あ、師匠!この人です!」

本気で何の案内も無いまま永遠亭の奥まで進んでいくと、偶然にも鈴仙…と永琳の待つ診察室に辿り着いた。
せめて何か看板くらい欲しかったものだが…




 

「私は八意永琳。ここで医者をやっているの。」

存じてます。
早速本題に入りたいのだが、永琳ですらやばいと言わせるような事とは一体?

「そうね、そのことなのだけれど…
 いきなりだけど、貴方を試させてもらうわ。」


ホワイジャパニーズピッポー
あっこいつら別にジャパニーズじゃねぇわ

さっきのてゐと言い、そんなに実力が無いと駄目な仕事なのか?

「ええ。今回の件は、人形遣いとしての実力が無いと駄目なのよ。」

人形遣いとしての、を妙に強調してくると言う事は、やはり人形に関連した話題なのだろうか。
もしくは、人形を遣った何か…とか。

「それじゃあウドンゲ。任せたわ。」

指示され、椅子から立ち上がり俺の前に立つ鈴仙。
永琳本人が確かめる訳ではないのか…まあ、勝て無さそうな気がするが。

「わかりました、師匠!任せてください!」


 

…何で楽しそうなんだよ、お前は…











* * *


ここ最近、よしかにばかり戦闘を任せっきりにしていた。
これだとよしかへの負担が大きいだけでなく、他の待機してる人形達も退屈であろう。
そういった所から、直感的にナズーリンを選び、欠片を準備した。

と、俺よりも先に欠片を投げた鈴仙。
さあ、誰を出してくる。今までのパターンで言えば、そのままウドンゲでも出してくるのか。






 




 



――!?




誰だ…
いや、誰だ…!?

鈴仙は、今確かに「せいらん」と言っていた。
少なくとも、俺の記憶にはそんなキャラはいない。

輝針城までの知識はあるが、その中に4匹目の兎キャラが居た覚えはなかった。
旧作キャラだろうか…それとも、俺が知らない間に…

…いいや、考えるのはやめだ。

ナズーリンに命令し、せいらんと呼ばれた青髪兎を撃退させた。
すぐに鈴仙が次の人形の欠片を用意し、再び床に向け投げた。


その時、俺は聞き逃さなかった。
鈴仙が「りんご」と呼んでいたのを。




 


 

…………



いいや…俺だって、少なからず旧作の知識はある。
それを踏まえて考えても…こんなキャラは、今までに居なかった。


こうなると、考えられる可能性は一つだ。
即ち"俺が知らない間に新キャラが生まれた"というものだ。

うーむ、確かに輝針城が出てからかれこれ1,2年は経つし、そろそろ新作が出てきてもいい頃合ではあるのだろうが…それでも、そういった情報を俺は一度も聞いたことが無かった。




 

まさかあの瞬間に、俺は幻想郷に飛ばされただけでなく、違う時間軸か何かに飛ばされたのだろうか。
何かもう大体このシーンのせいにすればいいんじゃねぇかって気がしてきてる。このシーン万能。


考え事をしているうちに、ナズーリンがこの"りんご"を撃破。
さあ、こうなるともう何が起るか分からないぞ。

次はどんな人形で来るんだ…!
















 













普通かーい☆












* * *







「すごい…流石、慧音さんに代理を頼まれただけはあるわ。」
「確かに、実力はお持ちのようね。
 …これなら、大丈夫そうですね。ミューさん、貴方に手伝ってもらいましょう。」


先程の未知の人形2体のお蔭で、俺の頭は完全に混乱していた。
もし知らない間に新作が出ていたのだとすれば、先程の「せいらん」「りんご」以外にも何体もいるのだろう。
彼女らが道中ボスとかでないのなら、ステージ数の事も考えて残り5体程度…
あーくそ、色々訳わからんくなって

「ミューさん、そろそろ本題に入りたいのだけれど」

くぁwせdrftgyふじこlp;
ごめんあんま話聞いてなかった。本題ね、本題。


「貴方にお願いするのは、うちの姫と、ある者の喧嘩の仲裁。
 姫だけなら何とか止める事も出来るのですが、
 二人同時、しかも人形を遣うとなると手に余ってしまって…
 貴方に、もう片方を止めてほしいのです。」


喧嘩の仲裁、ね…

…"ある者"っていうのに、一人だけ心当たりがあるんだけど…
もしかしてそいつって、白髪で、赤色のもんぺ穿いてたりする?

「あら、その通り。
 ご存じでしたか?」

まあ、うん…だって永遠亭の姫と喧嘩するような奴って言ったら…ねぇ。
しかし、その二人の喧嘩を止めに行くのか…やばそうだな。



だが、ここまで来たらもうやるしかない。
永琳に案内を頼み、永遠亭の姫――蓬莱山輝夜が居る部屋へと向かった。




* * *


「来ましたね。…まぁ、ご覧の有様です。」




 



部屋に入ると、既に輝夜と、件の人物…藤原妹紅が、人形バトルを繰り広げていた。
それだけなら良かったのだが、二人は部外者の俺ですらハッキリ伝わる程度には殺気を全開にしており、このままだと確かに人形バトルだけで事が解決するとは思えなかった。
放っておくと、最悪、俺諸共永遠亭が吹き飛ぶ事だってあり得る。俺だってそんな最期は迎えたくない。


「先程も言ったように、この喧嘩の仲裁に入ります。
 貴方には、白い髪の者、妹紅の方を止めていただきます。」



貴方なら大丈夫ですよ、と言って、輝夜の方に駆け寄って行く永琳。
俺もやるしかない。妹紅に駆け寄り、声を掛けた。


 

「どう見ても、貴方じゃ相手にならないだけよ。」

先程まで輝夜に向けられていた殺気が勢いよく方向転換し、狙いが俺に変わった。
威圧感に怯みそうになるが、何とか堪える。

相手にならないって?その眼は節穴か?
俺は、お前になら余裕で勝てる様に見えるけどな。

妹紅の威圧が効いて思考回路がパニクっていたのか、妹紅を挑発しだす俺。
案の定火に油を注ぐ結果となり、妹紅の放つ殺気がより一層強まった。

「へえ…言ってくれるじゃないの。
 勝手に邪魔して、好き勝手言って…」


あ、これヤバい奴だ。
しかし、訂正なんかしていられない。こちらから喧嘩を売った以上、やるしかあるまい。

「加減せずに戦ってあげるわ…!」




* * *



戦闘は至って順調だった。
魔法の森を彷徨い、迷いの竹林を彷徨い続けたお蔭で、こちらのよしかもレベルが相当上がっていたのだ。
妹紅の持つ人形、けいね・もこうを難なく撃破し、妹紅の手持ちは残り一体となった。
こちらの人形との圧倒的な戦力差を感じ取ったのか、苦い顔をしながらも妹紅は最後の人形の欠片を投げた。
そして、同時に言い放った。

「行けッ、すみれこ!!」

え、すみれ…


 



 








 


すみれこ…菫子…!?


 


え、まさかあいつも東方キャラだったの…?
あの二匹の兎と同じく、俺の知らない間に新しいキャラが…?








俺が再び混乱に陥っている間に、気が付けばよしかは妹紅の最後の人形、すみれこを撃破していた。
…主人がこんな事じゃいかんな。
こういう事もあるさ、気を確かに持とう…








「…あーあ、見事なまでに負けちゃった。
 やめよ、やめ。」


人形の欠片を回収し、大きく溜息を吐く妹紅。

「えーっと…色々と迷惑掛けてたようね。悪かったわ。」

いや、俺の方こそ変に挑発なんかして悪かった…
ってので、俺に関してはチャラって事で。

「そ、ありがと。
 …ちょっと暴れすぎちゃったみたいだし、今回はこれ位にして、私は竹林に戻るわ。」


そっか、そういえば妹紅も竹林に住んでんだっけか。
…って事は、もしかしてさっきのあの小屋って…まあいいか。


 

 


「ちょっと妹紅!まだ終わっ「姫様、もういいでしょう。」

妹紅を止めようとした輝夜を、永琳が強引に止める。
輝夜はチラとこちらを見た後、大きく溜息を吐いた。

「…ちぇー、わかりましたよー。」

と、自らの人形を回収し始める輝夜。

「助かりました。これにて一件落着です。ミューさんにはお世話になりましたね。
 …えっと、何かお礼をしなくてはならないですね。」


永琳がそう言い、そこで俺はやっと本来の目的を思い出した。

そ れ だ
そういえば慧音に頼みこまれたお蔭で忘れつつあったが、俺は元々木を切る道具を借りに永遠亭に来たんだった。
って事で、ちょっとその木を切る道具ってのを貸してほしいんだけど…

 「…え?木を切る道具…
 確かに香霖堂さんで買いましたが…それでいいのですか?」


ああ。今の俺にはそれが必要なんだ。
貸してくれるかな?

「ええ、用も済んでますし、構いませんよ。」

そう言って、ポケットの中に入っていた木製の人形を取り出した。
何でそんなもんポケットに入れっぱなしにしてるのかは、この際突っ込まないでおこう。俺もう疲れた

「うちの物置に置いておくよりはミューさんの方が有効活用できるでしょうし、
その人形はお譲りしますよ。」


えっマジで!?いいの!?ありがとう!!

俺がこんなに喜んでいるのは、単に「返しに来なければならない」というのが面倒だったからだ。
面倒っていうか、また竹林で遭難しそうっていうか…
ところで、どうやって竹林から帰ろう?


「さて、私たちはこれから後片付けですね…
 ミューさんは…」


俺は…片付けはちょっと遠慮願いたいな。そういうのちょっと苦手なんだ。
ちょっと用があって、これから紅魔館に行くとこだしな。

「…なるほど、それでは帰りは兎に竹林の道案内をするように言っておきます。」

まじか!めっちゃ助かる!
ありがとう!

感謝の言葉を告げ、俺は永遠亭を後にした。






* * *



 

永遠亭を出て少しあるいた所で、一匹の妖怪兎が立っていた。

「あ、さっきの…」

さっきの?
何の事だか一瞬分からなかったが、そういえばこいつ俺が竹林に入るときにぶつかってきたやつか。

「あの、先程は本当に申し訳ありませんでした…」

ペコリと頭を下げる妖怪兎。
もう気にしてないから、と頭を上げさせ、道案内を頼めるか尋ねると

「はい、喜んで!
 はぐれないようにしてくださいね!」

と、俺に先導する形で竹林の中へと入って行った。















途中で聞いた話なのだが、実はこの竹林には迷わないようにするための目印があったらしい。
それが、この辺りに沢山生えている"筍"だったのだ。

 

例えばこの場所を例に挙げると、筍が合計で【9】個あるのが分かるが、
その筍の数が方向を示しているらしい。

どういう事なのかと思ったが、ヒントは「時計」だそう。

つまり、例えば筍が【9】個あった場合、【9時】の方向…つまり、左側に向かって歩けばよかったらしい。

…全然気付かなかったわ。







また、もう一つ妖怪兎から聞けた話で、
竹林の奥にある、とある小屋…狂気の小屋と呼ばれている場所には、変な噂があるらしい。
なんでも、「その小屋の中で眠り、夢を見ると、必ず悪夢になる」というものだそうで。

変な噂だな。だが、何となく興味がある。
俺は妖怪兎に頼んで、竹林の外への案内より先に、狂気の小屋への案内を頼んだ。


* * *


「…あ、ありました。アレです。
 アレが"狂気の小屋"って呼ばれてる噂の小屋ですね。」


 

妖怪兎の案内で、竹林の中にある件の小屋へとやってきた。


 
中に入ると、外と違い妙な静寂感に包まれていた。
先程の妹紅の小屋ですら、こんな静けさはなかったというのに。

しかも、生活感がまるで感じられない。
空っぽで、特に価値の無さそうな壷が2つと、布団が一組…その隣に、何かが落ちているのが見えた。

 

奇妙な粒が一粒だけ入った麻袋だ。袋には"胡蝶夢丸"と書かれている。
これって、確か服用して眠れば、誰でも夢を見れるとかいう永琳の薬だった筈だが…何でこんなところに?

「なんでこんな所に置きっぱなしなんでしょう…
 でも、これを使えばミューさんも噂を体現できるかもしれませんよ。」

妖怪兎がそう言ってくれるが、
しかし俺が寝ちゃったら竹林の外まで案内してもらうって約束が…

「そういうことなら、私はその辺でぶらぶらして待ってますよ。
 ミューさんもお疲れでしょうし、休憩がてら眠ってみてはいかがでしょう?」

ぶつかってしまったお詫びです、と最後に付け足され、そこまで言われると断るのも申し訳なく。
疲れてたってのも事実だしな。

じゃあちょっと寝かせてもらうわ。悪いね。

そう言うと「おかまいなく~」と言って、妖怪兎は小屋を出ていってしまった。




麻袋から粒を取り出し、目の前に持ってくる。
上手く説明できないのだが、なんだか見た目からしてどこかヤバそうなオーラを放っている。気がする。知らない薬ってそんなもんだよな。
ところでこれって水無くても飲めるタイプなのかな。まあ、物は試しだ。

胡蝶夢丸を口に含み、そのまま嚥下する。
睡眠薬的な効果があるのか、途端に眠気が溢れだしてきた。




 

こりゃ確かに効果やべーわ…ねれないときによさそう…






さて、かならず悪夢をみるといううわさだが…はたして……











 















 

しばらく彷徨いながらも、何とか生きて森を出る事が出来た。
外の空気が美味いぜ。


早速香霖堂へと向かい、アリスに荷物が届けられた事を報告する。




「…おや、随分時間が掛かったみたいだね。
 大丈夫だったかい?」


うっせー。こっちにゃ地の利が無いんだ。
散々迷ったんだぞ。

「はは、本当にご苦労様。
 それじゃぁ、これが約束の自転車だよ。」


霖之助は一度店の奥に入り、自転車を取って戻ってくると、それを俺に渡してきた。

完全な新品ではないようだが、それでも車体は割と綺麗だ。
ハンドルの握り心地も悪くなく、ブレーキもしっかり作動している。
これが最新式か…自宅にあるのは5年近く乗り回してる奴だからなぁ。

さっそくこの自転車を乗りまわしたいが…先に、次に行くべき所について、霖之助にも相談しておこう。

アリスの話だと、人形は魔力で動いてるとかなんとかで。
で、魔力に関しては紅魔館の魔女…パチュリーが詳しいんじゃないか。って事なんだが…どう思う?

「へぇ、成程。紅魔館か。
 そういう事なら、確かにあそこは本も一杯あるし、何かいい情報が見つかるかもしれないね。ただ…」


納得してくれた…様にも見えたが、ただ、とは?
まだ何かあるのか?

「うん…あそこへ行くには途中にある邪魔な木を切る道具が必要なんだ。
 前だと僕の所で扱ってたんだけど、迷いの竹林にある、永遠亭の妖怪に売ってしまってね。」


なんだそりゃぁ。
何とかその木をかわすルートとかないのか?

「そうだね…紅魔館は霧の湖の一角にあるって事は知っているかい?
 その霧の湖なんだけど、陸路だとその木があるルート以外は無いんだ。
 川を泳いで行けるなら何通りかあるんだけど…お勧めはしないね。」


お勧めはしない…っていうのは、
それこそ河童とかの妖怪に狙われやすい…とかそういう事か?

「そういう事。
 人形が溢れかえっているご時世だけど、妖怪も人間を全く襲わない訳じゃないからね。」


成程、やっぱり被害が皆無な訳じゃないんだな。
言うほど泳ぎに自信がある訳でもないし、確かに川ルートはやめた方がよさそうだ。

「そろそろ用も済んでいるだろうし、永遠亭にいる彼女らに貸してくれるよう頼んでみたらどうだろう?」

それしか無さそうだな…
仕方が無い。永遠亭に向かおうか。

「ああ、そうだ。
 最近人里の警備が以前より厳重になってて、竹林のある方面には簡単には通してくれないみたいだよ。」


…俺は何度たらい回しにされればいいんだ?
じゃあ俺はどうやって竹林に行きゃいいのさ。

「そうだね…じゃあ、里で寺子屋をやっている半妖、慧音に聞いてみるといい。
 彼女なら、何か思いつくかもしれない。」


ふーん、慧音が…って、最後はお前他人に投げるのかい。
まあずっと、この里外れにある香霖堂に居るんだから…それなら確かに、いつも里にいる人に聞いた方が早いかもしれない。


まあいいや。自転車ありがとな。







* * *





香霖堂を出ると、早速自転車に跨った。
流石に自転車に乗ってる間は、よしかもついてくるのは辛いだろうし…

と、欠片に収まるよう命令しようとすると、よしかは背後から、突然俺の背中に目掛け飛びついてきた。
突然なんだ?と背中の方を見ると、その曲げにくそうな腕で頑張って俺の背中にしがみ付いていた。

なるほど、二人乗りスタイルという訳だ。


 
 
よしか、ライドオン!








…二人乗りとかやったこと無いんだが大丈夫だろうか?
まあ、規制とかは外の世界程厳しくないだろう。

俺は人里へ向け、ペダルを漕ぎ出した。








* * *






 
 
久し振りに自転車を操縦した事もあってか、非常に快適に移動が出来たように思える。
とにかく風が気持ちいいのだ。徒歩もいいが、やはり自転車かな。


 
 
…しかし、調子に乗って人里の中でまで自転車を飛ばしてしまったことに関しては反省している。
ごめんなさいあんまりにも気持ちよかったものでつい

皆も、人口密度が高いトコでは自転車は無理に乗らずに押して歩こうな。俺との約束だ。



 
 
さて、慧音に会いに行かなくては。
失礼しまーす、と声を掛けながら、寺子屋の扉を開いた。



 
 
――が、慧音の姿が見えない。
何処へ行ってしまったのだろうか?自習中らしい生徒に話を聞いてみる。


 
 
阿求の所に?
火急の用事とは一体…

…うーん、嫌な予感がするな。
紅魔館に行く為に、永遠亭に行くことを強要されているのだが…これに上乗せして何か頼まれごとをされそうだ。







 
 
どうしても拭えない嫌な予感を抱えつつ、阿求の家へと向かう。
おじゃまします。


勝手に玄関の扉を開き、奥の部屋へと進んでいく。


と、そこにいたのは――

 
 
阿求と、今俺が会いたかった人物…上白沢慧音だった。
何やら二人で相談をしているようだが…

なにが何とかならないって?

「あら、ミューさん。戻ってらしたのですね。」

二人が俺に気付き、視線を投げかけてくる。

ああ、たった今戻った。
で、どうしたんです?

再び質問すると、阿求がポンと手を叩き

「そうです!ミューさんに依頼してみてはいかがでしょう?
 この方なら、きっと力添えしてくれるかもしれません。」


 と言いだした。

…まあ、そういう流れになるとは思ってたよ。
結局、何がどうしたって?
 
「そうか、お前が噂の人形遣いか。」

慧音が咳払いをし、真剣な顔で俺に向かう。

「早速だが、少しだけ話を聞いてほしい。
 今、永遠亭で困ったことが起きているらしい。
 本来は私が助力を頼まれたのだが、少々立て込んでいてな…」


まあ寺子屋の生徒たちの事もあるしな。
今は自習しているようだったが、あの様子だと多分、先生がいないのをいい事にサボってる奴もいそうだ。

「虫のいい話だと重々承知なんだが、
 永遠亭に行って事件を解決してもらえないだろうか?
 …この通りだ、頼む!」


そう言って勢いよく頭を下げる慧音。

分かった、分かったから顔を上げてくれ!
俺が行って何とかしてくればいいんだろ?どうせ俺だって永遠亭に用があるんだ。ついでだついで。

ほぼ90度のお辞儀を見せられ、慌てて両手で慧音を抑える俺。
そんな風に頼み込まれては、流石に断るわけにもいかない。

「そうか、受けてくれるか!
 有り難う!恩に着る!!」


慧音は俺の両手を掴み、上下にブンブンと振り始めた。
うーん、熱い先生だ…


「永遠亭へは、人里から南西へ出た先にある"迷いの竹林"の中にあります。
 門番へは、私が許可したと伝えれば通してくれるはずですよ。」


そんな軽いモンでいいのか?
まあ、阿求がそういうなら…うん










 



…うーん。
昔からの俺の悪い所だな。
周りに流されやすい、感情的になりやすい、頼まれると断れない…

完全に成り行きで永遠亭に行くことになってるし…












あ、そういえば



 

小鈴の本の整理もいい加減終わったころかな?
様子を見に行ってみよう。

 

おっじゃまー。



「いらっしゃいませ…あ、ミューさん!」

鈴奈庵に入ると、既に整理を終えたらしい小鈴が笑顔で出迎えてくれた。
早速、バッグから二冊目の妖魔本を取り出し、小鈴に渡して解読してもらう。

* * *





再び道に迷い、ボロボロになりながらなんとか香霖堂へ帰還。

とりあえず霖之助に、アリスに荷物を届けたこと、それから紅魔館に向かうことを伝えた。


「紅魔館か…なかなか危険なところに行くね。」

言うて他に行くところも無いしな。
情報を集める為にも行かざるを得ないんだが…

「でも、あそこの途中に木が邪魔して通れないところがあるんだよね。
結構細い木だから、切ればなんとか先に進めるとおもうけど…」

ああ、ポ○モンで言ういあいぎりで切る木の事ね。
誰かにいあいぎり覚えさせればいいのか?

「いや、残念だけどそういう技は無いよ。
少し前だと僕のところでそういう道具を扱っていたんだけど、永遠亭の妖怪に売ってしまってね。」

凄く嫌な予感がした。
この予感は間違いなく当たるだろう。下手な天気予報よりも高い確率で当たるだろう。

「良かったら、永遠亭にまで行って借りてきたらどうかな?」

ほら来たーーーーーwwwwwwwwwwww出たーーーーーwwwwww







* * *




「…ふむふむ…前の巻と違って、今回は会話形式になってますね。
 後半に大量についている、この"w"はどういう意味なんでしょう…
 …ミューさん?怪訝そうな顔してどうしたんですか?」



…これは、単なる偶然だろうか?
"アリスに荷物を届けた"、"紅魔館に向かう"、"永遠亭にまで行って借りてくる"…
今の俺と、あまりにも状況が酷似している。

「ミューさーん?」

それに、この霖之助との会話内容らしいものも、先程俺が霖之助とした会話内容と殆ど一致している。

何故だ?俺と全く同じ状況にいた者が、過去にもいた…?

「ミューさん!」

うわあwせdrftgyふじこlp;
ごめん、ちょっと考え事してて全く聞いてなかった。

「ふむ、確かにこの本、不思議な感じがしますもんね!
 色々考察したくなる気持ちも分かります!」


いつも通りの、キラキラとした眼で語る小鈴。
そういう好奇心からくるものだけじゃないんだけどな…

まあいい、解読ありがとう。
頑張って3冊目も探してくるわ。

「はい、お願いします!
 …あ、それと、ミューさん!」


うん?どうしたんだ?

「全然関係ない話題で申し訳ないんですけど、
 人里の呉服屋さんが営業を再開したらしいですよ!」


呉服屋さんが?
そういえば、確かに以前、人里で一つだけカギが掛かったままの店があったな。
何でその話を俺に?

「なんでもその呉服屋さんが、人形の衣装も取り扱ってるみたいなんですよ。
 もしよかったら、ミューさんの人形達の服も作ってもらったらどうでしょうか!」


へぇ、成程ね。
それは確かに興味があるな…

オッケー、行ってみる。
ありがとな。



* * *




 
噂の呉服屋に到着。
 

 

そういや、よしかが今来てる服もここで作られたって魔理沙が言ってたな。
他の人形のはどうなってんだろ。おじゃまします。





 
店の中には様々な…なんつーんだっけ?布?反物?
…が飾られており、素人目から見てもどれも高そうなものばかりだった。



…っていうか。菫子?

 

「あ、いつかの。
 …そういえば、まだ貴方の名前を聞いてなかったわね?」

言われてみれば、確かに前回会ったときは相手の名前だけ聞いて自分から名乗りはしなかった。
何というかマナー違反というか。とんだ失態だ。

これは失礼、俺はミューってんだ。

「ミュー?…変な名前ね。」

うっせ。
で、菫子も人形の衣装でも見に来たのか?

「いいや?せっかくだから、この幻想郷で流行ってる服をチェックしようと思ったのだけど…
 ここって人形用の服しか売ってないのね。」


そうなのか?

「ええ。衣装屋っていうものだから、人間用も置いてあるかと思ったのに…」

そうなのか、それは確かに残念だ。

「まあいいわ。
 私はもう少しこの辺の奴見てるから、貴方は自分の人形の衣装でも見せて貰えば?」

今回はそれが目的だったしな。
そうさせてもらおう。

菫子から離れて店員の元へ行き、
早速俺が持っている人形達の衣装を見てもらう事にした。




* * *



衣装は、大きく分けて三種類がある。
・通常衣装
・特殊カラー
・特殊衣装
この三つだ。


特殊カラーは要するに2Pカラー的なやつだから紹介を省いてしまうが、

 

俺が初めてよしかと出会った時のこの衣装。これがいわゆる「特殊衣装」らしい。
普通、野良で特殊衣装を着ている人形はいない筈、らしいのだが…誰かが育てきれずに捨てていった人形とかだった場合、あり得ない話ではないとの事で。

よしかも誰かが捨ててったのかな…もしそうだとしたら、ソイツ絶対許せないな。




で、なのだが…

 

…この「ホワイトドレス」って一体なんだ?
色々突っ込みどころしか沸かないんだが。

店員曰く、人形を愛して止まない人の為に制作された衣装…だそうで。
何故か今は芳香人形用のホワイトドレスが余っていたらしい。

今は…いいや…
特殊衣装が、最早デフォみたいに思えてきたし…













あともう一つ突っ込みどころがやばいのでいえば

 
キスメ。







 


特殊衣装。
















 

どこの伝説の傭兵だよ。
スニーキングミッションでもするのか。




 

「!」じゃなくてさ。






















 

見よ!この自転車に乗せた時の違和感のなさを!



















…衣装がどんなものかは大体観終わって、気が済んだ。
そろそろ先へ進もうか。