少しでもまともな生き方をしていれば、たとえ幼稚園児であろうと分かる事だ。
だから人形バトルにおいても、「水属性」は「火属性」に強い。
――火は、氷を溶かす力を持つ。
ある程度まともに考える事が出来れば、たとえ科学がどれだけ苦手な人間でもわかる事だ。
が、人形バトルにおいて、「氷属性」という概念は存在しない。水と氷は同義と見られているようだ。
だから、どう見ても「氷属性」であるチルノに対して、「火属性」は無力である。
…うーん。
以前小鈴から借りてそのままにしていた○ケットモン○ターの攻略本を今になって読んでいるのだが…思っていたよりも役に立ってくれないというか。
そもそもこの本を借りた理由というのが、俺自身が属性の関係をあまり理解しておらず、少しでも参考になりそうな資料だったから…というものだったのだが。
ポケ○ンでいう「あく」タイプって人形でいう何属性なんだ…「くさ」「むし」って人形だと何に当たるんだ…
となっているお蔭で、結局あんまり参考になっていない。
いかに俺がポケモ○をやっていなかったか、という話でもあるのだが。
しかも、人形バトルにおいて「毒属性」の技は「水属性」の人形に効果が大きい筈なのだが、ことポ○モン世界において、どくタイプはみずタイプに対して等倍のダメージしか与えられないようだ。
そういう差異が意外にも多く、結局あまり参考にはならなかった。
つーか、見た感じどくタイプの技がくさタイプ以外殆ど等倍ダメージってやばくね?
そんなこんなで、属性相性に関しては結局よく分からないままだった。
わざわざ貸してくれた小鈴には申し訳ないが、今度この本は返しておこう…
サボリ中…もとい休憩中の天狗に感謝と別れの言葉を告げ、俺は山小屋を後にした。
さっきから出会う天狗ってチキン(烏だけに?)だったりサボリ魔だったりとロクな奴がいない気がするが…
ところで、実家のどこかに放置したままのポケ○ン金は何処に行ったんだろうな。
データ消えちゃったかな。
もし外の世界に帰る事になったら、改めて探してみるか…帰るかどうかは知らんが。
* * *
前回の反省を生かし、ゆっくりとマイペースに山道を登る事数十分。
白狼天狗の犬走椛を発見。
…彼女の事だから、他の天狗と違ってタダでは通してくれないだろう。
分かってはいるが、一応話を聞いてみる。
だろうね。
「今」とか言っているけど、どうせいつまで経っても入山禁止なんだろ?
何で敢えてそんな言い方してるんだ?
「…分かってて入山したんですか?」
あ、いやその…HAHAHA
「…はぁ…ともかく、ここを通すわけにはいかないの。
どうしてもっていうなら、力づくで何とかしてもらう事になるけれど」
相変わらずどうしても、っていう理由じゃないからな。
この先通してくれないってんなら、別のルートから行くってのもあるけど…
…って事で、俺はこっちのルートから迂回?してくぜ!!
「あ、今そっちは…」
椛の静止を聞かず、俺はすぐ脇の階段を駆け上った。
* * *
* * *
「負けてしまったのなら、通すしかない。
…仕方なく、ね。」
結局、椛を力づくで何とかし、先へ進ませてもらう事になった。
仕事でここを守ってたわけだろうし、少し申し訳ない気もするが…
先へ進むと、何度目か分からない洞窟の入り口を発見。
山って本来こんなに洞窟多いもんなのかな。実家の近所にある山には洞窟なんてほぼほぼ見受けられなかったが…あっちはそういう風に道が整備されているだけだったのだろうか。
まあいいや。洞窟に入ろう。
――なん……だと……?
洞窟だと思って入ったが――どうやら、ただの短いトンネルだったらしい。
なんだそりゃ。自然なんてそんなもんか。
まあ、自然なら仕方ない。自然なら…
人☆工☆物
よく見ると、橋の向こう側には多くの建造物があり、賑わいがあるように見えた。
どこだ、ここ?
橋を渡ろうとしたとき、何処かで聞き覚えのある声が聞こえた。
この声は、文か…この前通りのパターンなら、後ろから来る筈だ…ッ!
勢いよく後ろを振り返ろうとした、その瞬間だった。
前からかーい☆
前方から走ってくる文は、何やら随分と慌てているように見えた。
「…タイミングが悪いですね、ミューさん。
本当なら歓迎したいところですが、今それどころではないんですよ。」
歓迎?
その言葉の意味を一瞬理解できなかったが…しかし現在の状況と文の言葉から考えると、遠くに見える賑わっている場所は"天狗の里"なのだろう。
適当に歩いていただけなんだけど、意外と辿り着いちゃったな。
ところで、それどころではない、っていうのは…もしかして、アレかな?
「というのも、少し前から里内での盗難騒ぎが続いていましてですね。
みんなピリピリしていて、話しかけただけで疑われたり、人形対戦を吹っかけられたりするんですよ。」
盗難騒ぎ…って、絶対アレじゃん。やっぱりアイツ等じゃん。
既に手遅れ気味か…これは面倒な事になったな。
「犯人捜しも進まず、私も取材に必要な筆をとられてしまいました。
…まさか、とは思いますがミューさんは関係してませんよね?」
待て。俺がそんな事出来るような男に見えるのか?
"今の所"は俺は全くの無関係だ。これからどうなるかは知らんがな。
「そうですか…疑うのは失礼だとわかっているんですが、何分私も筆が無いと取材できませんからね…
でも確かに、最初の反応を見た限り、犯人は貴方ではなさそうですね。盗みを働けるほど利口な方にも見えませんし」
サラッと酷い事言うなお前は。
まあいい。今回の件は人形解放戦線…というか、三妖精が原因だ。
「三妖精…ああ、イタズラ好きな妖精たちの事ですね。彼女たちが原因でしたか…」
訳あって河童のアジトに行った時に盗み聞きしたんだが、どうやら三妖精は河童達から光学迷彩を盗み出し、今度はそれを使って天狗の里にある『珍しいもの』を盗もうとしてるらしい。
犯人が見つからないのは、奴らが目視不能状態にあるからだろうな。
「なるほど、どうりで…」
文は少し考えた後、懐から一冊の本を取り出し、俺の前に掲げた。
あ、それって…!
あの表紙の感じ…間違いない、例の妖魔本だ!
俺の反応を見て文はにやりと笑い、話を続けた。
「おや、ミューさんも欲しいんですか?
では…貴方の力で、三妖精を何とかしてもらえませんかね?
彼女たちを懲らしめてくれれば、この妖魔本はミューさんに差し上げてもいいですよ。どうです?」
…河童たちもそうだったが、どうしていちいち人間である俺に投げるんだよ。
俺はカミサマじゃねぇんだ。自分の種族が困ってるからって他の種族にまで迷惑掛けるんじゃねぇ。
やるけどさ。
「交渉成立、ですね。
いやぁ、ミューさんは話の分かる方で助かりますね!
それでは三妖精の事、頼みました!私も色々と忙しいですからね。」
…頼りにされるってのは、何とも複雑な気分だな。
面倒臭いような、でもやらなきゃいけないような…
変に正義感持つとこういう時に面倒臭いのかもしれない。
今まで頼りにされたことなんて殆ど無かったから、断り方を知らない…とも言う。
去っていく文を見送りつつ、俺は天狗の里へと足を踏み入れた。
* * *
天狗の里とは言うが、基本的には人間の里と何ら変わりはない。
せいぜい、住民が人間ではなく天狗である…という至極当たり前の違い位だ。
普段であれば、あちらと同じく気兼ねなくのんびりと過ごすことが出来る、いい場所なのだろう。
…普段であれば。
「…なんだ、犯人じゃないのかい?
そりゃあ申し訳ない事をしたね」
倒れた人形を回収しながら、烏天狗は言う。
分かってくれたんならそれでいいと言い残し、俺はその場を後にした。
文が言っていた通り、確かに里全体を包む空気が非常にピリピリとしているのを感じた。
目があった途端に、犯人と疑われてバトルを仕掛けられる…という件が先程から何回も発生している。
迷惑な話だ。
しかし被害者の証言をまとめると、取材帖やら日記帖やら、とにかく書物等が狙って盗まれているようだ。
という所を考えると…確かに三妖精の狙いは、文の持っていた例の妖魔本であるというのは間違いないだろう。
あんなのを盗んでどうするつもりなのかは知らないが…まあ、どうするつもりでもないのだろう。
こういうことする奴は大抵目的なんてないものだ。せいぜい”他人の悔しがる顔が見たかった”とかその辺だ。
他人の不幸を喜ぶなんて…俺には到底理解できないな。
こうなったらさっさと見つけて、痛い目見せてやるのがいいのだろうが…中々奴らを見つける事が出来ない。
井戸の中とか、壷の中とか、樽の中とか…様々な場所を捜索してみたが、それらしい姿はない。
相手は目視不能の状態だろうから、もしかしたら今まで見てきた中にもしかしたら居るのかもしれないが…
しかし冷静に考えれば、妖精とはいえ3匹も隠れられそうなスペースはいずれにしても無かった筈だ。
とすれば…三匹が丁度隠れられそうな場所を探すのが良いのだろうが…?
うーん。
三匹隠れられる…いや、流石にこんな小さな植木なんかに隠れるとは思えないな。
いくら迷彩が効いているとはいえ、奴らもそこまで馬鹿では…
まあ、そうだよな。
こんな所に誰かが居る訳が無いよな。
……。
…そうかそうか、誰もいないよな。
ふむ。
――こんな所に隠れようと思うなんて、相当なアホで無能なバカでどうしようもないマヌケだけだよな!
大声で植木に向かってそう吐き捨てると……
「だ、誰がアホでバカでマヌケでドジよ!!」
突如、目の前に三匹の妖精が現れた。
「ちょ、ちょっとサニー!
姿見えちゃってるわよ!」
「えっ…そ、そういうルナも丸見えになってる…けど…
もしかして…迷彩なんちゃらの効果切れちゃってた?」
ドジとまでは言ってないが…しかし、ドジである事に間違いは無かったかもしれない。
「壊れちゃったのかしら…せっかくイタズラが楽しくなってきたのに。」
整備の仕方までは教わらなかったみたいだな…それが貴様らの敗因だ。
さて、そろそろ盗んだものを返してもらおうか?
「えぇ?イヤよ!
折角私たちが一生懸命集めたのに!」
馬鹿言え。お前らが集めたその本だって誰かが一生懸命作った物なんだ。
お前ら如きにただのイタズラで無に還されてたまるもんかよ。
まあ、お前らが本を返そうと返さなかろうと、痛い目は見てもらわないといけないな。
お前らのせいで俺が疑われてるんだ…この恨みを晴らさずにおくべきか!
三匹まとめて掛かってきやがれ!
そう言いながら、背後で待機していたよしかを三妖精の前に繰り出した。
それに応じるように、三妖精もそれぞれ人形の欠片を取り出し、よしかに向けて投げつけた。
この幻想郷に来て、初めて自分から仕掛ける人形バトルが始まった。
* * *
結果は、よしか一体で三妖精の放つ六体の人形を片付ける形になった。
一対六の勝負に打ち勝ったよしかは褒められるべきだと俺は思う。俺は褒める。
「負けちゃったじゃない…どうするの?」
「こういう時にする行動は決まってるわ。」
「逃げるが勝ち、ってね!」
各々そう言うと、思っていたよりも素早く三妖精はその場を逃げ出した。
ギリギリで反応が遅れ、捕まえるのに失敗してしまったのだ。
くそ、俺としたことが…どうすっかな。
奴等は次に何処に行くのか…今の所目処が無い。
うーん。
…とりあえずどうしようもないので、逃げられてしまったことを文に報告する事に。
「ほう!無事に追い出すことが出来たんですか!」
いやまぁ…逃げられちまったんだけどな。
盗まれた物もどこに行ったんだか…
「大丈夫です!手掛かり何かが転がってる可能性もありますし、
ぜひその場所を教えてください!」
はあ。
* * *
とりあえずこの場所に奴らは隠れてたんだが…
生憎捕まえ損ねちまってな。本当に申し訳なk
「おぉ!ちゃんとありますね!」
えっ
文が植木の裏に手を伸ばすと、奥から様々な書物が何冊も現れた。
…そこに置きっ放しで逃げたのかよ。
盲点だったわ…
大量の本を抱えながら俺に向き直り、笑みを見せる文。
「これで私も無事に取材を再開できそうです。」
やっと妖魔本を貰うことが出来た。
これを早く小鈴の所に持って行ってやりたいところだが…
…あれ?
肆?…って…四って意味だよな?
確か、小鈴の所に持って行ったのは二巻まで…
”…そうだ!この館の主の所に辿り着けたら、あげてもいいわよ!
あの吸血鬼に会ってもまだ生きてたら、また来るといいわ!”
…あっ。
「それではミューさん、ありがとうございました。
またどこかでお会いしましょう!
…さて、原因となった河童達にも少しお灸を据えましょうか…」
呟きながら去っていく文を、独りでに呆然としながら見送った。
…ここまで来たんだし、山降りるのは登り切ってからでいいか。
楽しみは後に取っておくほうがより楽しめるしな。
自分に言い聞かせるように小さく呟き、俺は天狗の里を後にした。