自分の体で列車を止めることができますか? | 数楽者のボヤキ・ツブヤキ・ササヤキ-中学 数学 道徳 Mathematics Puzzles-

数楽者のボヤキ・ツブヤキ・ササヤキ-中学 数学 道徳 Mathematics Puzzles-

中学の数学教師が綴る独り言 中学数学,道徳,数学パズル,数学史,和算,Teachers of Mathematicsの話題,小中連携教育,学校行事の様子をデジカメ写真付きで紹介
クラシックカメラ、クラシックレンズで撮影したスナップ写真もほぼ毎日綴っています

 「塩狩峠」(三浦綾子 著)を道徳の読み聞かせ資料にして授業をしました。「崇高な精神」について考えさせるための資料として使いました。生徒には資料を持たせず,話の展開の一区切りごとに,次の展開がどうなるかを予想させながら進めていきました。(再現構成法)


【資料のあらすじ】 
「塩狩峠というのは,北海道上川郡和寒町にある峠で旭川から北へ約30kmの地点にあるそうです。塩狩峠は前にも後ろにも機関車を付けなければ超えることができないほどのかなりの険しさだったようです。事務系の鉄道職員である永野信夫は,自身の結納のために札幌行きの汽車に乗っていました。事故はこの峠を頂上間近まで登りかけたところで起きました。最後部の汽車が連結器から離れてしまったのです。汽車は急な坂を後ずさりしていきます。事態の重大さを知った信夫は,なんとしても乗客を救い出そうと,デッキにあるハンドブレーキを力一杯回します。次第に速度はゆるむのですが,もう一息のところで,ブレーキが効かなくなってしまいます。車を完全に停止しなければ,再び暴走して急カーブから脱線して谷底へ落ちてしまいます。前方に近づいた急勾配のカーブを見た信夫は,とっさに判断しました。「今のこの速度くらいなら,自分の体でこの車両を止めることができる」と。婚約者のふじ子のこと,母や妹のことが目に浮かびます。それを振り払うように,信夫は目をつむり,体を線路に投げ出します。客車は信夫の上に乗り上げ,ついに完全に止まりました。」
 
 生徒の感想を紹介します。
 
・自分の命を犠牲にしてまで他人を助けたい気持ちに駆り立てるものは,自分の仕事に対する誇りからだと思う。自分だったら,乗客を外に逃し,最後に自分も逃げる。


・私が信夫の立場だったら,死にたくないからお客さんを助けることができないと思います。信夫の取った行動は,お客さんを助けたいという強い気持ちを持ったので,できたことだと思います。ふじ子の立場だったら,悲しいけど,やっぱり信夫は本当にいい人だったんだなあと思い,うれしい(誇りに思う)気持ちもあるかも知れないと思います。


・今なら絶対,信夫のとったことをできる人はいないと思う。私自身もこんなことは絶対できないし,自分だけでも助かろうとすると思う。だから,自分の身を投げ出してでも,他人を助けようとしたのは,本当にすごいことだと思う。


・列車事故でも,何でも事故が起きることは前もって分からないし,いきなり起こるから,信夫のように瞬間的に他人を助けることを決断するというのは,何よりも勇気がいることだと思う。でも正直言って自分にはできないと思いました。心臓移植でも何でも他人のために助けるということは,すごいと思いました。


・汽車を止めるのに永野が下敷きになって止めたことがメチャすごい。汽車の下敷きになって止めるのは勇気がいることで,乗っていた客がみんな助かったのはすごい。自分だったら絶対にしようと思わないかな・・・。


・私は,誰かのために命を落とすということは絶対できないと思います。誰かが死ぬということは悲しいけど,私にはそんな勇気はないと思います。自分の大好きな人がもし死んでしまいそうなときは,たぶん自分も一緒に死にたいと思うと思います。永野さんはすごく勇気があり勇敢な人だなあと感じました。


【授業を終えて】
 「今日の話はちょっと重い話なんだ」と生徒には前もって言ってから読んでいきました。途中でクラスの生徒と同じ名字の登場人物が出てきたところで笑いが出ましたが,真剣に話を聞いていたように思います。次の展開はどうなると思うかと予想を訊くと,いつもより反応が返ってきました。
 
 残念なのは,男子も女子も「自分にはできそうにない」「オレ(私)は死にたくない」というような感想がほとんどだったことです。「信夫はどうして自分の命を懸けてまで,乗客の命を救おうとしたのか?人間をそのような行動に駆り立てるものは何か?」というような問いかけで,もう少し考えさせる必要があったかと思います。  


三浦 綾子
塩狩峠
三浦綾子小説選集 3
¥1,800
株式会社 ビーケーワン