日本の資産運用業界にとって、

2017年4月7日が歴史的な大転換点だった、

と言われる日が近いかもしれない。

 

この日、日本証券アナリスト協会が主催する

第8回国際セミナーで、金融庁の森信親長官はこう講演した。

■森長官の発言が与えた衝撃波

「お客様が正しいことを知れば、

現在作っている商品が売れなくなり、

ビジネスモデルが成り立たなくなると

心配される金融機関の方がおられるかもしれません。

 

しかし、皆さん、考えてみてください。

 

正しい金融知識を持った顧客には

売りづらい商品を作って一般顧客に売るビジネス、

手数料獲得が優先され顧客の利益が軽視される結果、 

 

顧客の資産を増やすことが出来ないビジネスは、

そもそも社会的に続ける価値があるものですか?

 

こうした商品を組成し、

販売している金融機関の経営者は、

社員に本当に仕事のやりがいを与えることが出来ているでしょうか?

 

また、こうしたビジネスモデルは、

果 たして金融機関・金融グループの

中長期的な価値向上につながっているのでしょうか?」

あまりにも正論であり、

問題の本質を突いているため、

 

「衝撃的」

 

という表現がぴったりだ。

業界関係者なら誰もが薄々気づいていたことではあるが、

誰も触れてこなかった、触れたくなかったことを、

森長官が語った。

 

資産運用業界の常識は

世間の非常識だと指摘したのである。

■フィデューシャリー・デューティーとは

森長官は

「フィデューシャリー・デューティー(以下、FD)」

の徹底を推進しようとしている。

 

FDは「受託者責任」を指すが、

昨今は「顧客本位の業務運営」と

訳されることが多くなってきた。

 

簡単に言えば

「顧客の利益を第一に考えて業務を行う」

ということである。

 

言っていることは当然だが、

わざわざ言わないといけないというところに

資産運用業界の問題がある。

こうした「顧客第一主義」

=「ユーザーセントラル」

=「ユーザーファースト」の流れは、

 

昨今の「フィンテックブーム」とも繋がる。

 

フィンテック(FinTech)とは、

一般的に金融(Finance)と

IT(Technology)が融合した分野を指す。

 

しかしフィンテックの本質とは、

ITの力を用いて金融サービスを

ユーザーに便利にすることだ。

 

金融業界を

「金融機関セントラル」から

「ユーザーセントラル」に転換することこそが

フィンテックの使命ということができる。

マイクロソフトの創業者であるビル・ゲイツが、

 

「ユーザーにとって金融サービスは必要だが、

金融機関は必ずしも必要ではない」

 

という趣旨の発言を

1994年にしていたことがあらためて注目されている。

 

ユーザーは、

便利な金融サービスを受けられればいいのであって、

サービスを提供するのが金融機関である必要はない。

 

金融機関が置き換わるほどの

力があるのがフィンテックである。

その意味で、

森長官が推進するFDと、

フィンテックブームは密接に関係している。

 

これからは

「顧客第一主義」を徹底しない金融機関は

顧客から支持されなくなり、

淘汰されていく可能性がある。

 

近い将来、

 

顧客にとって最も身近で便利な

金融サービスを提供する会社は、

既存の銀行・証券会社・資産運用会社ではないのかもしれない。

 

金融業界が健全な競争にさらされ、

その結果、利便性が向上していくことは、

顧客にとってプラスだ。

■「販売会社第一主義」と「手数料第一主義」がタッグを組む資産運用業界

金融商品である投資信託(投信)は、

個別銘柄を選択する必要がないいわば

「パッケージ商品」なので投資初心者向きとされる。

 

しかし、日本で投信は5000本以上もある。

 

こんなに種類が多いのは、

投信を販売する会社(銀行や証券会社)が

新しい投信を欲しがるからだ。

 

その理由はもちろん収益の最大化、

すなわち販売手数料を稼ぐことにある。

一方、

 

投信という商品を開発するのは資産運用会社だ。

 

資産運用会社の顧客である販売会社である銀行や

証券会社に求められると、ノーとは言いにくい。

 

投信は自動的に

 

「売れる」

 

ものではなく、

銀行や証券会社が「売る」ことによって、

はじめて成り立つ商品であるからだ。

 

その意味で、

資産運用会社にとって、

顧客とは販売会社なのである。

「販売会社第一主義」の資産運用会社と、

「手数料第一主義」の販売会社がタッグを組んでいるのが

日本の資産運用業界だ。

 

しかし、

いったい誰のための資産運用なのか。

そこに立ち返って考える必要がある、

それが森長官のメッセージでもある。

個人投資家こそが、

主人公なのではないのか。

 

日本で「貯蓄から投資へ」という

大きな流れがなかなか起こらない理由の一つは、

その担い手であるはずの資産運用業界が

 

真の顧客である個人投資家に

きちんと向き合ってこなかったからではないか。

 

そこに大きな一石を投じた金融庁長官の発言が、

日本の金融業界の意識を大きく変えることになるかもしれない。