掃除も業者の作業も終わって、ようやく綺麗な部屋になったので、いよいよ大家に確認してもらうことにしました。

電話で今月いっぱいで退去するので部屋の確認をしてほしいと伝えると、いつでも構わないとの回答だったので、じゃあ月末の最終日にということでお願いしました。

 

約束の時間に部屋で待っていると、大家はノート片手に部屋を訪れるなり、隅から隅まで舐め回すように部屋を見ていきます。それこそ柱一本、巾木一本まで見ているのです。一度見た部屋でも、何度も何度も戻ってはしつこいほど確認していきます。

想像はしていましたが、やっぱり試験を受けているような妙な緊張感があって、また大家の態度も決して良いものではなかったので、非常に気分が悪い時間でした。おそらく普段はこんな見方はしていないと思います。

 

確認だけでなく、大家は私にもいろいろ言ってくるのですが、その大半は

「敷金が戻らなかったとしても仕方がない」

ということの前フリばかりなんです。

敷金は30万なので、壁紙の総張り替えや大掛かりな補修、ハウスクリーニングでの特殊清掃などがなければ、ある程度は戻ってくる金額です。

もちろん長期間暮らしてきたわけですから、ごく普通に使っていたとしても何もせずに大家に見せれば、敷金を全額、場合によってはそれ以上に請求をされる可能性もありますが、こちらはすでに実費で壁紙もフロアも畳も変え、掃除もこういった賃貸物件で散々仕事をしてきた業者が「まったく問題ない」と言うほどのレベルでやってあります。

ところがこの大家は、この敷金(30万)でギリギリ足りるかなぁみたいなことを最初から言ってくるんですね。

それも非常に恩着せがましく。

 

というのもこの大家、不思議なことに

「この部屋がゴミ屋敷だったことだけでなく、私が掃除をしている最中の中の状態まで」

なぜか知っているのです。

口を滑らせたんだと思いますが、私が業者に頼んだ畳の裏返し(これはれっきとした畳屋の仕事で、外して裏返すだけの作業ではありません。念のため)に関しても、

「“あれだけ”汚れてたら裏返しじゃ臭いが取れない」

「“ああいうの”は染み込むからね」

最上階ですし、外からはどうやっても見えない部屋です。

なぜ、まるで見たように言うのか疑問に思って、え?いつご覧になったんですか?と問うと、漫画のように分かりやすくとぼけて話を変えました。百歩譲って、仮に業者が作業のために持ち出したのを見かけたのなら、そう言えばいいだけです。この大家、もう爺さんなので聞けば聞くほど面白いほど口を滑らせるのです。

畳だけでなく、傷んだ巾木を見て、

「ここも相当ゴミが溜まってたから、やっぱり傷んでるね」

元ゴキブリの糞だらけだった柱を見て、

「だいぶ綺麗にしたみたいだけど、ああいうのが付くと臭いがとれないんだよ」

などなど、巾木や柱が汚かったのは、私が片付けを始めて業者が入るまでの期間ですから、私の許可なく大家がそれを見ることは不可能です。見ることができるとすれば、それは

 

無断で部屋に侵入した場合のみです。

 

まぁ私も片付けを始める前、今考えればやらなくても良かったのですが、安易に大家に連絡を取り、借り主本人が亡くなったこと、また家族も近くにはおらず、空き家のようになるけど家賃は払うことなどをペラペラ話してしまったので、いくらでも入るチャンスを与えてしまいました。

 

そして最後は敷金が戻らない前フリ+恩着せ+口滑らせの合わせ技で、

「このフローリングも“あれだけ”酷い状態にされると、本来なら床板を外して、床下まで清掃・消臭をしなきゃならないんだけどね。今回は綺麗にしてもらったみたいだし、そこまではやらないけど、敷金の中でできる事は全部やらせてもらうからね」

 

※余談ですが、後日友人にこの話を(ゴミ屋敷だったとは言えませんが、汚れていた程度に)したところ、それ、口を滑らせているようで、わざと言ってたんじゃね?言い返せないように、こっちは全部知ってるぞって意味で。なんて言われましたが、もしかしたらそうだったのかもしれません。

 

そして、畳屋が裏返しで使えると言った畳は臭いがとれないからという理由で、

「畳は捨てるから廃棄代もらうよ」

壁紙の業者が「ここは綺麗だから変えなくても大丈夫」といった部屋も

「隅が剥がれてるから全部張り替えるからね」

おいジジイ、お前、畳は最近喜ばれないから、今はどの部屋もフローリングに変えてるんだ。この部屋も変える予定なんだよってペラペラ言ってただろ。元々捨てるつもりなのを、都合よく廃棄代なんて請求してんじゃねーよ(怒)!  壁紙の剥がれ?それは経年劣化で隙間ができてるだけだろうが!何でもかんでも請求しやがって糞ジジイが!

 

さて落ち着きましょう。

 

いや面と向かっていろいろ言われると腹が立つものですが、しかし、あの常識外れのゴミ屋敷を作ってしまった者の身内としては、勝手に部屋に侵入していようが、恩着せがましかろうが、敷金が戻らなかろうが、それくらい構わないのです。特に敷金に関しては、最初から戻らないのを前提に片付けを始めたので、それで済むなら何も言うことはありません。むしろ、その上でこちらは酷い状態にしてしまったことを謝罪しなければならない立場なんですから。

 

それでもこんなに大家の文句を並べたのは、それはゴミ屋敷の物件を大家、あるいは管理会社へ確認させるときは、私が実際されたように小馬鹿にされるかもしれないし、足元を見られて好き勝手にやられてしまうかもしれないという現実を知ってもらい、多少なりとも覚悟と準備をしていただくため…なんていうのは大嘘で、

単に大家の糞ジジイへのストレス解消に書いてみました。

ごめんなさい。

 

ちなみに勝手に張ったフローリングのクッションフロアについても、何度も何度も何度も何度も行っては戻り、行っては戻りを繰り返しながら、

これいつ張ったの?

なんでこれ張ったの?

張った職人は下手糞だ

これも補修が必要だ

などなど好き勝手に言われ続けましたが、幸い貼った事自体は特に問題視されることはありませんでした。

 

たかが部屋の確認にあーでもないこーでもないと結局1時間以上も時間をかけてようやく確認も終了、最後に敷金内で済むことを大家に念押しするとともに、大家が手書きした作業・補修箇所をスマホで撮影して、後日、作業内容の明細と、敷金が余った場合の処理についての書類を送るということで、話は終わりました。

そして兄弟が使っていた鍵を返却して、これをもってついに、兄弟が長年住み続けたマンションの賃貸契約は解約となり、私の作業もすべて終了となりました。

 

最後、部屋とお別れするときは、さすがにしんみりするかなぁと思っていましたが、糞ジジイのおかげで最後までまったくそんな気分にはならず…家に戻って報告のために仏壇に手を合わせながら、ふと、真夏の暑いさなか通い続けたあの部屋に、もう二度と入ることもなければ、おそらくマンション自体を見ることもないだろうなと考えると、少し切ない気持ちになりました。

 

以上、これが私のゴミ屋敷の片付け作業のすべてです。