今勉強している科目で「フランス文学概説」があるんだけれど、そのテキストを読んでいたら、ユイスマンスの『彼方』が出てきた。
『さかしま』も少し出てきたけれど、以前読んだので、今回は『彼方』を読んでみることに。
私の場合、テキストを読むと魅惑的な作品がたくさんでてきて積読が増えるいっぽうなのだが…………。
この本、どうやら都内の図書館にはほとんど置かれてないようで…。かなりの奇書だからかな…笑。
中世の悪魔宗、神秘学、黒ミサ、キリスト教に対する冒瀆などなどが描かれている。わりと刺激的なことも書かれてあったし(…例えば、女の月経の血と男の精液を小麦粉で練り合わせたものを瀆神に使うとか…)、こういうのを好む読者は少ないのだろう。
私も特に好むわけではないけど!
ちなみに、大学の図書館に昭和41年出版のがあったので借りてみた。
『さかしま』では、主人公のデ・ゼッサントが退廃美と共に人工的な楽園の建設を試みていた。
一方で『彼方』の主人公デュルタルは、ジル・ド・レー研究と共に、人工的な地獄を組み立てていた。
両者共に、そこそこの知識人ではある、が、ハッキリ言えば、偏狭的で面倒くさい性格のオタクであろう!
ちなみに、デュルタルが研究しているというジル・ド・レーは実在の人物だが、かなりの変態!
元々は軍人であり、ジャンヌ・ダルクを助けたりして手柄を立てたけれど、ジャンヌ処刑後は表舞台から退き、豪奢な生活を送る。そのうちお金がなくなって錬金術をやりはじめ、その流れで悪魔礼拝に走って、さらにサド文学にも出てきそうな残忍卑劣な罪悪をやりつくし、最後は火炙りの刑となる。
この変態ジル・ド・レーが、童話や音楽にまで登場、様々な芸術作品へと広がっているかから、興味ぶかくはある。しかし、その影には何人もの子どもたちが快楽のための犠牲になっていたことを忘れてはいけない!
本書では、ジルが、快楽殺人者のような感じで小児を汚し殺すことが描かれてあるが、それだけにとどまらず、死体愛玩への官能、さらには孕んだ女性のお腹をさいて胎児をもてあそぶようなことも描かれていた。
結局は、姦淫と虐殺に疲れ果て、これ以上の悪徳へ突き進むことができなくなったという。そうなると、こんどは引き返して善に立ち戻っちゃったらしくて、悔悟の念が沸き上がっちゃってどうしようもなくなるという…。うーむ…、悪徳をつらぬけずに美徳を持ってしまったがゆえの不幸だろうか。
そして、ジル・ド・レー研究と共に、デュルタルの恋愛模様(?)も描かれていく。
お相手はシャントルーヴ夫人という、一見上品な女性であるが……
デュルタルは、なぜか夫人に好かれたもよう。陰気なオタクだろうけれど、彼の特異な知性に惹かれたんだと思う。
そしてデュルタルは、女性との経験はたいしてない人だと思うけれど、プライドは高く、心の中だけは偉そうである。臆病なくせに面倒くさい男なのだ。
おれは、相手がどんな女であっても、女というものは結局苦痛と退屈の飼育所だということを知り抜いている。女が善良な場合には鼻持ちならぬ愚物が多いし、また、健康がすぐれないとか、ときにはちょっとさわっても直ぐにはらむような、やりきれないものもある。
「知り抜いている」と偉そうなことを言っているが、シャントルーヴ夫人のほうが、かなりのうわてと見える。
色々な意味でデュルタルよりずっと経験値も高いし、悪魔的な事情に精通している。デュルタルは文献での研究による知識であるが、シャントルーヴ夫人は実経験による知識であると思われる。
しかも、注意深く読んでいると、身長もデュルタルより高いみたい。というか、デュルタルが小さいのか?
ジル・ド・レーはじめ、一連の悪魔主義を研究をしているデュルタルは、シャントルーヴ夫人に何度もお願いをして「黒ミサ」に連れて行ってもらったんだけれど、どうやらデュルタルは、この「黒ミサ」を見て、ひいちゃったみたい。
彼はこの分野の研究をしていたっていうのに、実際に目の当たりにしたら刺激が強すぎて無理だったのかな…?
いったい、あの女の生活は、どのような泥沼の底をくぐってきたのだろう
それにしても、この黒ミサの光景、読んでて、笑っちゃうくらいヤバかった‥‥‥。
狂乱の嵐! 神への冒瀆に続いて、すさまじいヒステリーの疾風!
ミサで使う「聖なるパン」があるけれど、このパンに浸み込ませた「液」がヤバいのである。いわゆる、体内から分泌される様々な「液」である……。
それは、黒ミサを取り行っている、ドークルという破戒僧によって汚され、湿ったパン…
そのきたない塊にむしゃぶりつく者たち…
パンを嚙んでは吐き出して、それを自分の手足になすりつけ、あるいは女達にくばっていた。女たちはわめきののしりながらその噛みかすを口へ押しこみ、またはそれを瀆すために押しあいへしあいした。
パンを腿の下に押しこんだという女もいるけど。。。
ちょっとちょっと女さん!、どこに押しこんでんの…
現実にこんな光景見ちゃったら、トラウマだわね…
しかも、この場には児童もいるんだからね……
匂いも相当なもので…夫人は、
「昔の魔術師の夜宴の匂いですわ」
「ですわ」じゃないでしょー!
このミサに興奮しちゃったらしい夫人、場所をうつして、デュルタルをおそっちゃったみたい。。
ちなみに、夫人の下着の中から例のパンの一部が出てきたのだった……
その後のデュルタルは、夫人と交際できなくなってしまいました。
夫人の方から何度も手紙はきたものの無視をきめてます。
事実、夫人に心かき乱されていたし、あんなに研究熱心だったのに…。やっぱり実際に経験するのと、文献を読んで妄想を膨らますだけっていうのは違うのでしょう。
それでも、強がりで面倒くさい、そして臆病なデュルタルは、、
昔、若くて元気旺盛だった自分には、女という女がおれのことを馬鹿にしやがったが、気持ちが落ちついてきたいまでは、かえっておれのほうから女を馬鹿にしてやる立場になった。
と、飼っているネコさんに向けて話しかけておられました。
ニャ‐