ウラジーミル・ナボコフといえば、有名なのが『ロリータ』だが、今回の『魅惑者』はロリータの原型だ。

そのため、話の筋は似ているのだが『魅惑者』の方が短い割には濃く、ナボコフ流の知的な変態が溢れ出ていて、ある意味感動してしまった。

 

世の中に多く存在するであろう若い女子好きな人、そしてロリータ好きな人にはおすすめ!

ちょっと気取ったユーモアある文学が好きな人にも。

※今回の少女設定は12歳。

 

↑以前読んだロリータブログ

 

 

『魅惑者』は田山花袋の『少女病』によく似ていると思った。

『少女病』も少女が好きすぎる中年(老年?)男性の物語だが、『魅惑者』に比べれば控えめだ。

田山花袋は、電車の中の少女を視姦するだけなんだから。それであの最後はちょっと笑えない。

一方で、ナボコフは積極的だ。少女目当てに母親(死ぬ寸前の病弱な未亡人)と婚姻、少女の義父となり、少女の肌に触れられるんだから!

さらには、金銭的な余裕と知的な余裕、そして自身の風貌の自信が感じられる。

 

『魅惑者』には、終始知的な気どりが感じられる。よーするに、知的で気取った中年男の少女性愛者だ!

冷静に考えれば最低である。

 

↑『少女病』はこちらで読めるのでリンクはっておく。

 

 

 

今回、二人の訳者で読んだ。

『ロリータ』はナボコフが英語で執筆、『魅惑者』はロシア語で執筆している。

 

↑出淵博訳

こちらは、ナボコフがロシア語で執筆した後、息子のドミートリ・ナボコフが英訳、それをさらに出淵氏が日本語に訳している。

 

 

↑後藤篤訳

ナボコフコレクションで『ロリータ』も収録。ナボコフコレクション図書館に全巻あった。カラフルで装丁かわいい!

こちらはロシア語から日本語へ直接訳されている。

 

出淵訳の方は話の展開が分かりやすい。改行が適度で読みやすい。

でも私的には断然後藤訳!

改行がなく一文が長いため、変態精度が高く感じる。肝心な部分の迫力が全然違うのだ。感動的ですらある。

中年男が考える変態的で下劣で濃密に燃え盛る少女愛の描写に感動させられるなんて!なんてこと。由々しき事態!

 

 

少女の魅惑的な描写の一方で、中年女性に対しては躊躇もなされない高圧的な描写がある。そこまで言うかいって感じで。

これらはもちろん主人公の主観でしかないが。

 

例えば、少女の描写ほんの一部。

かくして。

眠れる少女、油彩  かけがえのないオリジナル。あちこちに広がり縺れ合った巻毛の柔らかな巣に埋もれた顔、乾いた唇はひび割れ、微かに煌やく睫毛の上の瞼には特徴的な皺があり、灯りに照らされた赤茶けた薔薇のような色を透かし見せる頬、自ら微笑みを浮かべたフィレンツェ風の輪郭。…

延々と続く。

ひび割れた唇でさえ愛おしく魅力的だ。

これが中年女性のひび割れた唇なら高圧的な罵倒文になるんだろう…。

 

ちなみに、私が色々な意味でガクッときた表現は、この場面。まー詳しくは説明できない。

シンコペーションはたちどことに崩れ去り、彼はこの光景が彼女の目にどう映っているのかを理解した  なんたる奇形、なんたる奇病  

 

さらに、最後はスローモーションで迫って来て高度だった!

最後までドキドキしながら読んだ!

稲妻の準備運動、落雷の瞬間を切り取った分光写真  そして生のフィルムが引き裂かれた。

 

 

 

暗いのとか変態なのとか読んだり書いたりしてると、だんだんと腫れ物的な存在になってきそうな気配だけど、自分の好きな作品を追い求め、さらに読み進めるのだ!