今年もやってまいりました。ワタクシが2012年に読んだ文芸書、小説
(35冊。少なっ!っていうな!)から 面白かったオススメを挙げる
「マサホン2012」でございます~
いつもは12月に発表なのですが、諸般の事情で遅れてしまいました。
それにいたしましても昨年は難しかったです。
と、いいますのも長年、本を読んでおりますとある程度、パターンというか、読後感が
予想できてしまうんですね。300ページの本でも、あぁ、最後のこのトリックがウリね
(ちなみに決して事前に推理はできない)とか、 あぁ、ココが泣かせどころね(もちろん
泣いている)など、と、どこかに「
ちょっと冷めた自分 」がおりまして、 そうなると
もう悪循環。
よりややこしそうな作品や、刺激的かつ俗悪なもの、直木賞、「このミステリーがすごい」の
上位作・・・などに 手を伸ばして大失敗(もちろん大当たりもありますが)。大半が
一時の面白さはあっても、後に残らないんですね。
そんな時に、ふと出合ったのがこの作品。文句なしの1位であります。
第1位 「20世紀の幽霊たち」 ジョー・ヒル まさに珠玉の短編集。ワタクシが最も心が震えるのは、作品のトリックの難解さや
ドラマチックな人間劇ではなく、ある出来事を活き活きと伝える描写の巧みさ、であると
改めて教えてくれた作品です。
古びた映画館に現れる少女の幽霊とそれを目撃した人と映画館の経営者の老人との
心の交友と 著者の映画へのオマージュが滲み出る標題作。
世捨て人となった少年に初めて出来た最高の親友が、コミュニケーションが取れる
クマの空気ぬいぐるみ・・・ ありえない設定が最後には痛いほどに胸をしめつける
「ポップアート」
連続少年誘拐犯にさらわれた野球少年が地下室から決死の脱出劇を試みる「黒電話」
コメディアンとして成功する夢に破れた青年が地元で撮影されるB級ホラー映画に参加し、
そこで学生時代の恋人と再会し・・・エンディングの余韻が美しい「ボビーコウエル、
死者の国から蘇る」
など、読み手の好みこそあれ、どの作品も畳み掛けるように独自の世界観と見事な描写で
次々に届ける筆者の手腕は圧巻です。誰もが読みたいと望み、一部の人は(ワタクシも含め)
こんな風に書けたら、と夢見る作品郡がここに揃っております。
読者の心を捉えるのはサプライズだけではなく、別の世界の入口を目前の日当たりの良い回廊に
飾られた一点一点の芸術作品のように明瞭に描写する力にあることを再認識させてくれる
のであります。
かのスティーヴン・キングの実の息子という超・七光りを避けるために偽名で10年間も
マイナーな雑誌に投稿と続け、作品のクオリティだけで勝負してきた著者。
その作品のクオリティが認められ、本作でブラム・ストーカー賞を受賞した背景にも
心が動かされます。 どこかの二世議員や二世タレントよ、彼の心意気を見習うがよい!
もはや彼の父は関係ございません。ジョー・ヒルという最高の作家の誕生であります。
あんまり良かったので、原書とオーディオCD(朗読。11枚組)も購入しちまったぜぃ!
第2位 「ダークタワー」シリーズ スティーブン・キング 全16冊中、現在6冊目ではありますが、かのキングさまのライフワーク、「ダーク・タワー」
と致します。
山岡荘八さんの「徳川家康」(全26冊)ではありませんが、やはり長~い本の第一巻を
手にとるというのはなかなか勇気がいるものでございまして、キングさまの同作品も
「また今度・・・」 「年が明けたら・・」などとしり込みしていたのですが、読み始めると
面白いのなんの!
基本的には荒廃した近未来の世界の中、主人公である「ガンスリンガー(拳銃使い)」が
運命の仲間を3人みつけ、世界を混沌とさせている諸悪の根源である「暗黒の塔」に
辿りつくための冒険譚な訳ですが、もしもこのガンスリンガーがどんな敵でもバキューンッ!
の一発で倒してしまうタフで無敵のガンマンだったら興ざめ、というもの。
拳銃の腕前はもちろんスゴイのですが、まぁ発熱はするわ、栄養失調になるわ、
2巻の冒頭でロブスターの化け物にあっさり右手の指を3本も食われてしまうわ、で
まさに満身創痍。
で、伴う運命の3人も、1人は麻薬中毒患者。もう1人は分裂症+事故で両足を失い
車椅子が手放せない黒人女性。最後の1人は小学生・・・と全く頼りになりません。
・・・が、こんな状況に次々襲い掛かる艱難辛苦に 「やはりこのメンバーでないと!」と
思わせる逆転劇が次々に仕掛けられているので、読中の爽快感とこれからの期待は
たまりません。
当初、懸念しておりました「あと十何冊も残っている~」が、現在では
「あと10冊しかない~!」の気持ちにさせるキングさま。
現在は「パートⅣの下巻」で、ガンスリンガーの若き日の恋慕が描かれておりますが、
実らぬ恋なんだろうなぁ。
読書中の気持ちはさながら極上の椅子に腰を下ろしながら最高の体験が得られるのを
保証されたジェットコースターに乗っているようなもの。
まだ最後まで読んでおりませんが、堂々の2位なのです。
>第3位 「蒐集家」 -異形コレクション 井上雅彦 編 知る人ぞ知る、井上雅彦さんが編成する「異形コレクション」という(現在は)光文社文庫から
出版されている短編集です。同作品集はあるテーマのもと、広く作品を公募しており、また
腕試しに、と多くのプロ作家も参加されているので有名作家から孵化を待つアマチュア作家まで
が同じ舞台で競いあう、という大変興味深い作品集で、第30巻目にあたるのが同書であります。
「蒐集」をテーマに、あらゆるもののコレクションに狂信的に取り付かれた人々を描く、
あまりに異常でも「何となく共感できる」ところがゾクリと怖い作品集。
この中に収録されている中島らもさん(何と急逝の3日前に執筆された)の「DECO-CHIN」
という作品がとてつもなく” 凄い” のです。
あまりに問題作なので詳細の解説は控えますが、晩年に肉体的にはボロボロであった
らもさんの、作家としての最期の魂が、矜持が、衰えぬ描写と想像力がビシビシと
伝わってくる猛烈な作品です。
この作品をワタクシ、上海の展示会に向かう機上で読みました。その際の本の質感、
手ざわり、窓からの光、頁をめくる時の、興奮して震える指先は一生の宝。
これは電子書籍では味わえない感触であります。
ちなみに、同収録の平山夢明さんの「枷 (コード)」という作品は・・・ゴメンなさい。
怖すぎます。(生涯で1番こわかった作品、です)
第4位 「将棋の子」 「聖(さとし)の青春」 大崎善生 ・・・の、前にワタクシの昔のブログを読んでくださいませ
(最近、コレ多いな~)
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羽生善治さん。
将棋をされない方でもこのお名前はご存知でしょう。
”とにかくメチャメチャ強い棋士。町内会わんぱく少年相撲大会に
アンドレ・ザ・ジャイアントが参加するようなもの”として知られるお方ですが、
その素顔は実に穏やかで、聡明。
インタビューで記者の抽象的な質問にも瞬時に的確で分かりやすい言葉で
お答えになられる頭脳の明晰さに感心すると同時に、ずいぶん前に出版された
「新しい単位(扶桑社)」というおふざけの本で同氏の激しい寝グセのから
” だらしなさを表わす単位 ” として「hb(ハブ)」が制定された、というギャップ
(ご結婚後は随分とマシになりました)に以前から親しみを覚えておりました。
現在第67回名人戦が開催されておりまして、羽生名人と郷田九段の対極が
繰り広げられております。(初戦は羽生名人の勝利)。
たまたま同時期、ある書物から同氏に興味を持ったのですが、このお方が
どれほど凄いのか、詳しく存じなかったので、いろいろと調べてみますと・・・
実にドラマチックで面白いのです。
と、いうことで今回は将棋の世界と羽生名人のお話など。
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将棋界には七つのタイトルがあります。すなわち、
① 名人 毎日新聞社
② 竜王 読売新聞社
③ 棋聖 産経新聞社
④ 王位 三社連合
⑤ 王将 スポーツニッポン新聞社と毎日新聞社
⑥ 棋王 共同通信社
⑦ 王座 日本経済新聞社
そして現在競われている「名人位」こそが最も歴史と権威のあるタイトル、と
いわれております。
他の六つのタイトルと「名人位」ひとつ、どちらが欲しいか、と問われると大半の
棋士が 「 それは名人位である 」 と答える、といわれるほどです。
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名人位の歴史はおよそ400年に亘り、初代名人の大橋宗桂は慶長十七年(1612年)、
徳川家康と秀忠から五十石五人扶持を賜り、最初の家元になりました。
当初の名人は世襲制で、一度名人になると死ぬまでその位が約束されましたが、
昭和十年に実力制に改められ、木村義雄が最初の名人に就きました。
羽生名人はそこから数えて第五十二期の名人位、なのです。
名人位の対戦の方法は、第七戦まで対局を行い、先に四勝をあげた方の勝利
です。ただし名人位に挑戦するまでの道のりは実に険しく、すべてのプロ棋士は、
この参戦を義務づけられ、そして頂点に立つ事を目指しております。
C級2組・四段(五十四名)
C級1組・五段(二十五名)
B級2組・六段(二十二名)
B級1組・七段(十二名)
A級・八段(十名)
それぞれのクラスでリーグ戦が行われ、上位二名が上のクラスに入れ、成績が
悪ければ下位クラスに落ちます。もちろん棋士全員の最終目標は十名の枠の
A級入りであり、そこで勝ち抜いてトップとなり、名人位に挑戦することであります。
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はっきり言えば、プロ棋士になろうという人は、一種の天才です。
小学校の頃から、周囲の大人やアマチュアの段持ちよりも将棋が強く、そうした人
が小学生や中学生の段階で、プロ棋士養成期間である東西の奨励会に入ります。
そこで、どんぐりの背比べをするのではありません。日本全国から集まった天才
が天才を比べあうのであります。
そこで生き残った人が、C級2組に入り、ようやくプロ棋士になれるのです。
A級棋士は大天才であり、名人ともなれば、そのA級棋士たちのさらに上位に
たって君臨する超大天才といえるでしょう。
たとえば升田幸三・九段は、小学校入学前から、足し算、引き算、掛け算ができ、
記憶力は信じられないほど強かった、といいます。
羽生善治は、1994年6月7日、23歳という史上二番目の若さで、その名人になりました。
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羽生善治。昭和45年9月27日、埼玉県所沢市生まれ。
ご家族の中で将棋を指す方は一人もいらっしゃらなかった、とのことですが
小学校1年生の時、友達の一人に教えてもらい、たちまち将棋の虜に。
小学校2年生から東京、八王子駅近くの将棋クラブに通い始め、最初のランクは
クラブで最低の15級でしたが、1週間単位でどんどんと昇給。自宅でも四六時中、
将棋三昧。食事をするときも、寝るときも将棋の本を手放さなかったといいます。
めきめきと腕をあげた善治少年は、全国の天才少年が集まる小学生名人戦で
優勝したのは小学校六年生の時。この時、解説を担当したのが当時19歳の
新鋭、谷川浩司八段。運命的な出会いでありました。
しかし、谷川氏はまだこの少年がいずれ自分のライバルになるとは思わなかっ
たことでしょう。
小学校六年の時、六級で二上達也・九段門下となり、三年後の昭和60年には
四段に昇段、プロ棋士になると、奇跡の快進撃が始まりました。
平成2年の第2期竜王戦でタイトル戦に初登場し、激闘の末に竜王を獲得。
初タイトル獲得の最年少記録を塗り替え、以後、王座、棋王、棋聖、王位、
そして23歳のとき、将棋界最高峰である名人位のタイトルを奪取。
平成六年には史上初の六冠王に。
平成八年二月十四日の王将戦七番勝負第四局、午後5時7分。
「負けました」
小学六年生の時に初めて会った谷川浩司王将が静かに頭を下げた瞬間、
羽生さんはついに前人未踏の七冠王を達成したのでありました。
(引用 終わり)
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上記のように羽生さんの栄光の軌跡を引用したのは訳がございまして、
プロ棋士を目指す人はすべて日本将棋連盟の「奨励会」に入会し、
(19歳未満でプロ棋士からの推薦が必要) そこで全国の天才少年たちが
競い合うシステムとなっております。
ただし、そこには厳しい規則があり、満21才の誕生日までに初段、
満26歳の誕生日までに四段に昇段できなければ、奨励会を去らなくては
なりません。もちろん相手はすべて全国からの天才少年(少女)たち。
昇段をかけたその天才vs天才の闘いは一瞬たりとも気が抜けない
気迫に満ちたものです。
この壁を突破したのものだけが「プロ棋士」となれるのですが、
大半の奨励会員はその夢を断たれ、去ってゆきます。
以前は中学校を卒業するとすぐに奨励会に入るのが主流であったため、
義務教育を終えた後に、人生の最も輝かしい時期をすべて捨て去って
将棋一本に打ち込み、地元では小学生の頃に大人もバタバタ負かし、
「天才」「神童」と云われた自分が、奨励会に一歩踏みこみ、
回りのライバルを見渡せば、自分はただの「凡人」であった現実にも
負けずに歯軋りしながら立ち向かってゆくのです。
雑誌 「将棋世界」の元編集長であった大崎氏が描く 「将棋の子」は、
そんな奨励会から去らなくてはならなかった青年たちの「その後」の世界。
あれほど大好きで、すべてを捨てて研究し、打ち込み、
母が家財を売り払ってまで応援してくれた将棋なのに、
どうして将棋は自分を愛してくれないのか・・
著者は特に北海道出身のある青年の物語にもっとも頁を割きます。
26歳の誕生日が迫り、時流の戦法は決して取り入れず、どれほど焦り、
どれほど懸命に考え抜き、自分だけの将棋で挑もうとも、四段の壁を
破ることが出来ません。
彼がプロ棋士になることを夢見て、北海道から東京に共に越してきた
母は懸命に働きつづけ、癌を患い、意識が混濁してゆく中で、青年は
最期までつき続けたウソ(連戦連勝中!今度こそプロになれそう)を撤回する
場面は涙なくては読めません。
奨励会を去り、心の花が咲きほこる頃にひたすら将棋に打ち込んだある青年は
定職を持つことも叶わず、地元の北海道で既婚の女性との恋に落ち・・・
小説のように物語が「」(カッコ)でくくることの出来ないドキュメンタリーならではの
終幕に寂寥感がこみ上げ、同時に小さなロウソクのようにほんのりと心が暖かくなる
著者の優しさが染み渡り、胸がいっぱいになる良作です。
将棋の世界にすべてを捧げたプロ棋士の話であれば、同著者の「
聖の青春 」の秀逸の作品。
村山聖という棋士の一生を描くこの作品。幼少の頃に難病にかかり、その病床で退屈しのぎに
覚えた将棋に夢中になりメキメキと実力を伸ばし、記録的なスピードで「プロ棋士」となって
から、おおらかな師匠と母親の献身に支えられ、破竹の快進撃を続けますが、病魔は
確実に彼を襲い・・・
彼の凄まじい人生はwikipediaに譲りますが、その事実の裏側に潜む彼の苦悩、叫びを
お知りになりたいのなら同書を超える本は無いでしょう。前作といい、同書といい、
(さらに以前に紹介した最後の真剣師・小池重明)僅か81マスと40枚の駒を用いる
本将棋の盤上には、人の一生を内包するほどの大きな世界が潜んでいることを
改めて感じさせてくれます。
覚醒するぜぃ
第5位 「レディジョーカー」 高村薫 昨年NHKで放映された「未解決事件ファイル~グリコ森永事件」。
大変良くできた番組でとても面白かったのですが、さらに数年前からハマっておりました
高村薫さんが同事件をモデルにした傑作がある、しかも主人公は
「マークスの山」「照柿」で大活躍した合田刑事、とのことでこれは読まねば!
とはいえ高村さんのことですので安易なモデル小説にするはずもなく、
なぜ平凡な老人や男たちが大胆な事件を実行するに至ったか、なぜ社長は
裏取引に応じなくてはならなかったのか、なぜ警察は幾度も個と組織の軋轢に
阻まれ、犯人を取り逃がしてしまったのか、を圧倒的な取材量と重厚な筆力で
ガンガンと迫って参ります。もはやワタクシ、途中で「グリコ事件」のことは忘れ、
この怪事件の行方に夢中となっておりました。
「未解決事件ファイル」でもありましたがメディアが報道する(できる)範囲は
事件のほんの一角。実際の事件でも社会の暗部、組織の保守的体質、
ごく個人的な事情などが一つ一つ絡み合い、闇に葬られたのではないでしょうか。
と、数日にかけて執筆し、なおかつ年もすっかり明けてしまいましたが
「まさホン2012」でございました。最後までお読みいただき、ありがとうございます~
最後に「あまりに長くなったのでレビューは割愛」の6位以下をご紹介いたします。
6位 「音もなく、少女は」 ボストン・テラン
7位 「青の炎」 貴志 祐介
8位 「照柿」 高村 薫
9位 「警察の血」 佐々木 譲
10位「無冠 前田日明」 佐々木徹
・・・「ひと昔の本ばっかりじゃーん」って云うな!