タウルの実の兄であるイサヤの乗った宙舟が姿を消した後、それを見計らってたかのように間をおかずにカトルとナァル、子ヤンガルが上から岩山を駆け降りて来た。

「お帰りカトル、ナァル、それにおチビちゃん」。
ルンナはそう言って、それぞれの頬に軽く口づけをして三頭の帰宅を祝福した後に子ヤンガルをしばらく眺めていた。そして、少し宙空を見つめて何か閃いたのか両手を胸の前で合わせて嬉しそうに言った。

「あのね、あなたのお名前が今、閃いたの!!
トトルってどう?だっていつまでもおチビちゃんじゃ嫌でしょう」?

そう言って、ルンナはしゃがみ込んで子ヤンガルと目線を合わせた。それに反応したのか?子ヤンガルは軽く一歩踏み出して、ルンナの鼻先を軽く舐めて応えた。

「ふふふ、それはOKの返事として受け取るね。じゃあ、あなたは今からトトルよ!カトルとナァルもいいわね!というか、もう決めちゃいました」!!

嬉しそうにトトルと名付けた子ヤンガルの背にまだ眠っているココルを乗せて、「ココルとトトル!ふふふ、いいコンビだね」!そう言って喜んでいるルンナを見ながらカトルとナァルは知ってか知らずか?嬉しそうにシッポを軽く振っていた。

そうこうして、楽しいひと時を過ごした後に太陽が西に傾いているのに氣づいたルンナはヤンガルたちに言った。

「カトル、ナァル、そしてトトル!お願いがあるの、わたしとココルをンワ村まで送ってほしいの、もうひと頑張りしてくれるかな?カトル」。

ルンナの願いを受けてカトルは地面に伏せて、さあ乗れとばかりにルンナの顔を真っ直ぐ見た。

「ありがとう!カトル」!!

ルンナはカトルの額に軽く口づけすると、ココルを抱いてカトルの背に跨った。カトルはゆっくりと立ち上がって斜面の縁で一旦立ち止まって道筋を確かめるように斜面を数秒眺めた後にポンッと軽く斜面に踏み出して右に左にと軽やかに斜面を駆け降りていく。その後を少し離れてナァル、その後を少しぎこちない走りでピョン、ピョンと遅れながらトトルが続いた。

カトルは岩山の下まで五分程で駆け降りると、下で立ち止まって岩山を見上げてナァルとトトルが降りて来るのを待った。二頭が無事に岩山の下に着いたのを確認すると、さあ行くぞ!とばかりにンワ村の方向に向き直すと、高く前脚を上げてヒーンとういな鳴き声と共に再び駆け出した!

太陽がかなり西に傾いているのを知ってか、来た時よりは速く、けれど背に乗るルンナとココルを氣づかうしなやかな走りで風のように森の中を走り、小川や倒木を飛び越しながら駆けて行く。そのカトルの少し後をトトルが走り、それを見守るように最後尾をナァルが走った。

カトルは時折り立ち止まって後ろから来る二頭を確認しつつ離れ過ぎない距離、速さで駆けていく。

まるで、我が子を鍛えて強く成長させるかのような走りであった。

途中にある泉で一度立ち止まって、ルンナとココルを下ろして皆で水を飲み、木の実を食べて短い休憩を取った後は、一氣に駆け抜けてちょうど太陽が山に隠れて夕焼けが紅く空を染める頃にンワ村の御神木であり、ルンナとココルそれにワンカの住処でもあるクムクムの木の前にヤンガル三頭と二人は到着した。

カトルはルンナとココルが降りやすいように地面に伏せた。「ありがとうカトル、お疲れさまです」。
ルンナは軽くカトルの首に口づけして、その背から降りてココルを地面に立たせた。

「かと、、あぃがちゅ」。ココルはそう言ってカトルの首すじを優しく撫でた。そして、振り返って子ヤンガルのトトルの方へ嬉しそうにトコトコとたどたどしい走り方でかけて行ってその首に抱きついた。トトルもそうされて嬉しいのかココルの顔をペロペロ舐めた。「きゃははは」「ヒーンブルゥゥ」ココルとトトルは仲の良い兄弟みたいにじゃれあった。

「おやおや、これまたヤンガルとは珍しいお客さんを連れて帰って来たなルンナ」。いつの間にかワンカがルンナの側に立って微笑ましい顔でココルとトトルのじゃれ合う姿を眺めながら言った。

「ふふふ、お父さんただいま帰りました。このヤンガルのカトルとナァルは岩山に居る時にわたしとタウルの家族だったの。ココルの出産にも立ち合ったのよ。今日、森の泉で偶然に再会したの」!

「おお、それはそれは、うちのおてんば娘がさぞかし迷惑をかけたであろうな。ありがとうございます、カトルにナァルさん。それにあの子ヤンガルはお二人のお子かな」?

「そう、トトルって名付けました。可愛い名前でしょ、氣にいってるの!あの子もなんだか嬉しそうなのが伝わってくるの」。

「ほう、良い名じゃな。トトルか、心地よい風を感じる名じゃな。カトル、ナァル、どうじゃな、良ければこのままンワ村に住まないかな?といっても何のもてなしもできはせぬが、住み良い場所じゃぞ」。ワンカはそう言いながらカトルと目を合わせて微笑んだ。

カトルはゆっくりとワンカに近づいて行って、優しく手を舐めた。

「そうか、わしの申し出を受け入れてくれたのか。ありがとう、カトル」ワンカはそう言ってカトルの首筋を優しく撫でた。

「わぁ素敵!ありがとうお父さん!カトル!家族が増えてココルも喜ぶわ!それじゃあ今日はお祝いね!暗くなる前にカトルたちを歓迎する晩餐の用意をするね」!

そう言って急いで支度を始めたルンナをよそにココルはトトルとナァルに遊んでもらって嬉しそうに駆け回っている。そんな二人を微笑みながらワンカは眺めていたが、「ほんに、いつまでもこうやって楽しく皆で過ごしていたいと思うがの、、、」。

そう呟やいて、天空に薄っすらと輝き始めた星を眺めた。