年前、わたしはこの街に引っ越してきた。


ずっと地元が大好きだったけど、家で母親が暴れだして、避難した親戚の家から会社までは時間以上かかるし、いまなら、あの人が好きないまなら、都会でひとり暮らしもしてみてもいいかも。ちょっとだけ、一生に年ぐらい、外で暮らしてみるのも楽しいかも。


そんなことが頭の中に浮かんだ1週間後には、もう新しい家に住んでた。はじめての都会。はじめてのマンション。なによりここは、あの人がいる街。

 

その半年前、はじめてあの人を見た(奇跡1)。4ヶ月前、はじめて連絡先を知った(奇跡2)。そして引っ越してきて2週間、まだ友だちも誰も遊びに来たことのないわたしの新居に、あの人が来た(奇跡3)。奇跡の3連チャン。

 

結局2年半住んだあの部屋の中には、どの季節を思い出しても、あの人を待ってるわたしが見える。会ってるときのふたりより、待ってるわたしばっかり見える。嬉しそうに、嬉しそうに。そんな自分をもう見たくないと思った。だから大切な大切な、思い出の部屋を引っ越しすることにした。

 

引っ越しの日の朝、近所の神社にお礼参りに行った。昼間しか開いてない大黒さん。看板に縁結びって書いてたから、いつも会社の帰りに閉まった門の外から、「縁結びお願いします!」って念じながら通ってた。しばらくしてはじめてお参りしたとき、「よう来たな」って言われた気がして、それからずっと、ここはわたしの推し神社だった。

 

「この街に住ませてくれてありがとうございました!」

 

お礼を言って顔を上げたら、この日の大黒さんは何もしゃべってくれなくて、代わりに、ただ、すごいあったかい瞳で微笑んでた。泣くよね、これ、当然。本殿の前でぼろぼろ泣いてる女ってどうよ。ま、参拝のお客さんが少ない神社だから、誰も見てなかったと思うけど。大黒さん以外は。

 

地元から友だちたちが来てくれて、わたしを新しい部屋へ運んでくれた。

 

あの人はここにも来てくれたよ。入籍した後だったけど。別に何もしてないもん。ただいつもみたいに夢を語って、「また来ていいの?」って言って、帰っていっただけ。結局また、ここでも、わたしは待ってる。嬉しそうに。悲しそうに。

 

約束なんかしないから、わたしのひとり暮らしの部屋は、いつでもぴっかぴかなんです。 


まるえー