誰もいらない、あなたがいれば
秘密の園に鍵をかけて
私だけをうつして
それは、少女達の秘めた物語
遠く、届かない場所から眺めるしかできない男は、人知れず深いため息を吐いた。
アダムの憂鬱
女性同士の恋愛をテーマにした今期ドラマ『イヴとイヴ』が大ヒットした。
最上さんと琴南さんがW主演を果たしたそのドラマは、放送開始直後からネットで世間の話題を掻っ攫った。
激情と切なさ、戸惑いや苦悩、変化と純愛、それを見事に演じきった2人は業界でも世間でも注目度が赤丸急上昇中だ。
とても喜ばしいことだ。ラブミー部の精鋭として、愛を否定していた彼女達が、愛をテーマにしたドラマを演じ、評価される。それは某ラブモンスターが涙を流しながらサンバを踊り狂う程感動的な出来事と言っていい。
最初は俺も喜んだ。役者の先輩として、最上さんを想う男として、彼女の成長ぶりと、周りから認められてかわいらしく喜ぶ姿に自然と笑顔になったりもした。だけど、現在、俺はそれを素直に喜ぶことができない。
何故か。それは、このドラマがヒットしすぎたことにある。
そして、テーマが女性同士の恋愛であったことだ。
ある程度仕方ないとはわかっている。ヒットすれば『女性同士の恋愛を演じている最中に恋愛スキャンダルはご法度』とそういうイメージ戦略がとられることはドラマの話を聞いた時から予想していた。だけど、社長直々に「お前、最上君のドラマ放映終了まで最上君に会えないからな」と言われた時は、死刑宣告でもされた気分だった。
寂しい。もうずっと、この家に最上さんは来ていない。俺を気遣って作ってくれる美味しいご飯も、はにかむような笑顔も、君の気配もこの部屋にない。
アダムなんていらない
そんなキャッチコピーに誰がしたんだ!君という存在が圧倒的に足りない空間で、モニターに映るイヴを求めるアダムは八つ当たりにも似た舌打ちをした。
【END】