「・・・・・・・『生きることと』と・・・・・・『守ること』・・・・・・・?」
「そうだよ。」
「やっぱり・・・・・・分かんないや・・・・・・・。 ばあちゃんは何を守っているの?」
「ふふ・・・・・・そうだね。 守るものは歳を重ねるごとに変わっていったよ。
若いころはずっと自分を守っていたね。
ばあちゃんは、子供の世界が一番生きづらくて互いの居場所争いが激しい世界だと思うね。小さい頃っていうのは何も知らないから、工夫が上手じゃないのさ。 自分を認めてもらうために何をすればいいか知識がないから分からないんだろうね。
だから、グループを作ったり、あるいは他人を拒絶したりして“自分は皆とおんなじだ”、“自分はほかの子より優れている”という気持ちになって満足するんだね。
でも実際は何も変わっていないのさ。自分を変える努力をしない限りはね・・・。
これは社会に出てもずいぶん長い間続いたような気がするね。」
「ばあちゃんは・・・自分を守るのをやめることができたの?」
「あんた、そりゃぁ、ばあちゃんはきっと心のどこかでは自分を一番大事にしたいと思う気持ちはあると思うよ。
ただ、ばあちゃんは18歳で社会に出て、多くの人と知り合って、いろんなことを経験したのさ。 そしたら、守りたいものが“自分に関わる人たちとの繋がり”に変わっていったんだよ・・・・。
いつだって人ってのは、支えられて、期待されて、応援されて・・・・・それを何らかの形でお返しして・・・・・・・・。
繋がりがあるということは、お互いに必ず素敵なやり取りが成り立っているもんさ。
そして、じいさんと出会った。」
「・・・・それで父さんが生まれたんだね。」
「そうだよ。 この頃は親の偉大さを本当の意味で理解したねぇ。
親ってのは子供が生まれた瞬間に人生のすべてを理解するんだよ。とくに、多くの苦労を知っている親ほど道理の通った口うるさい親になるだろうね。」
「そうなんだ・・・・・・父さんは悪い子だったりした?」
「どうだったかねぇ・・・・。分かりあえない時期もあったけど、・・・自分の譲らないものを持った立派な男に育ってくれたよ。
鏡也は、『親は知ったような口をきく』って言ってたけど、親になるっていうことは、生まれた子の将来を背負うって事になるのさ。 これは分かるね?
そうしたら、自分の知ってる限りの苦労はさせまいとするだろう? これは人として当然、焼きたくなるおせっかいなんだよ。
そうさ、生まれた子を守りたくなるのさ。 いくら反発されてもね。」
(グスッ・・・・・・ズズッ・・・・・・・うっ・・・・)
「ばあちゃん・・・・・・うっ・・・・。」
「・・・・・・・そしたら、あの子も立派に社会人に成長してね。あたしみたいに守りたい繋がりを見つけてきて、夫婦になったんだ。
すごく幸せそうだった。犬も食わないような中の良さでね。あたしも安心したのを覚えているよ。あんたの母ちゃんはいい母親になるって。
そしたら、子供が出来て、鏡也が生まれた。
あたしゃ嬉しかったねぇ! もうあたしは・・・・気分が舞い上がっちゃってじいさんと大はしゃぎだったよ!! それで・・・・・・」
「(グスッ)ばあちゃん・・・・ありがとう・・・・・・うう・・・・・ふっ。
俺、もう分かった・・・・・・ズズッ。
ばあちゃんは、残りの人生をかけて僕たちの将来を守ってくれるんだね・・・・・。」
「・・・・・・・・いい子だね、鏡也。 ばあちゃんは安心したよ。
手元にあるものは多くはないけど、あんたたちに残してあげられるものを大切に守っていこうと思ってる。何一つ欠けないようにね。 あんたたちの将来のためにばあちゃんは命を燃やすからね。 生まれてきてくれてありがとう。」
「ばあちゃん・・・・・・。」
(ありがとう)
僕はばあちゃんを抱きしめた。この気持ちを伝えるために。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃだったけどばあちゃんはやさしい笑顔だった。
とっても、とっても心が暖かくなる抱擁だった。
僕の頬に当たったばあちゃんの涙は、同じくらい暖かかった。