株価変動、自動取引で増幅 AI駆使、キーワード反応

2018/12/27 22:39
日本経済新聞 電子版


株価変動が世界的に激しくなっている。日米の株価は今週、歴史的な荒い動きとなり、12月の変動率はリーマン・ショック直前の2008年8月を超えている。特定のキーワードに反応したり、市場のトレンドに追随したりする「プログラム取引」の存在感が高まるなか、株価の動きが増幅されやすくなるという「構造変化」が起きている可能性がある。

日経平均株価は27日、前日比750円56銭(3.9%)高と急騰。2万0077円62銭と、3日ぶりに2万円台を回復して終えた。上昇幅は約2年ぶりの大きさ。25日には1010円安と急落していた。米ダウ工業株30種平均も24日に653ドル安と大幅に下落し、クリスマス休み明けの26日には1086ドル高と過去最大の上昇幅を記録した。27日は午前中に500ドル超下げる場面があった。

12月に入ってからの日々の変動率を平均すると、日経平均が1.7%、ダウ平均が1.6%となり、リーマン・ショック直前の08年8月(日米ともに1.1%)を上回る。日経平均の変動率は米リーマン・ブラザーズが破綻した9月(1.9%)に迫るほどだ。

 

 

 


当時はリーマン破綻前から、「サブプライム」と呼ばれる質の低い住宅ローンの焦げ付きが多発し、大手金融機関が合計で数千億ドル規模の損失を計上していた。最終的には金融システムが崩壊の瀬戸際に追い込まれた。

現在はそうしたひどい状況ではないのに、株価変動が当時並みになってしまうのは、一定の条件に沿って自動で売買をするプログラム取引の増加が影響しているとの指摘が多い。「さすがに下げすぎ」といった感情的な判断が入らないので、極端な値動きになっても売りや買いを出し続ける場合があるためだ。

最近特に勢力を拡大しているのはニュースリリースや経済統計の説明文などから「キーワード」を読み取って売買する「テキストマイニング」と呼ばれるタイプだ。キーワードは事前に運用者が設定しておく場合もあるが、人工知能(AI)を活用してプログラムが自ら文脈を判断して読み取るものも増えている。

26日の米国株の急上昇は、アマゾン・ドット・コムやマスターカードが発表した年末商戦の好調さを伝えるプレスリリースにテキストマイニング型のファンドが反応したためとの見方がある。

19日の米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長の会見中に売りが急速に膨らんだのも、「利上げ」「保有資産の縮小」といった発言にプログラム取引が反応した影響があるとされる。進化する画像解析技術を生かし、会見中の表情の変化などまで判断材料に取り込もうとする動きもある。

株価変動率が高まると自動的に持ち高を減らす「リスク・パリティ」と呼ぶファンドも株価への影響力が大きい。18年2~3月にはこの種のファンドが世界的な株安を助長した。「CTA(商品投資顧問)」というファンドはその時々の相場の方向性に追随する取引が中心で、値動きを増幅させることが多い。

こうした自動取引は証券会社やヘッジファンドが独自に開発し、数え切れないほどの種類が稼働しているとされる。指数連動型の運用なども含めた広い意味での「自動取引」が売買全体の8割強を占めていると米ウォール・ストリート・ジャーナルは指摘している。

ここ数日の株価に対して「理屈では説明できないような暴力的な値動き」(コモンズ投信の伊井哲朗社長)との声も市場関係者からはあがっている。景気や企業業績と株価の乖離(かいり)が強まれば、一般の投資家の売買を妨げる要因となる恐れもある。