米株続伸も消えぬ「量的引き締め」の恐怖

米州総局 大塚節雄

2018/12/28 6:04

27日の米株式市場でダウ工業株30種平均は続伸した。トランプ米大統領が安全保障上問題のある外国メーカーの通信機器の使用を禁じる大統領令を検討中だと伝わり、前日に記録した1000ドル強の上げ幅の半分以上が消える場面もあった。だが下値で割安感が出ている銘柄に押し目買いが入ると、短期的な戻りが続くと見込む買いが勢いづいた。極端な上下動を繰り返す不安定な「ジェットコースター相場」。細かな動きの理由を探しても、あまり意味はないかもしれない。

週初までの急落局面を大きな流れでとらえれば、米国内外の景気減速への不安を通奏低音に、米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締め路線に対する拒否反応や、トランプ政権の混乱への警戒感が主題になってきた構図がみえる。

この構図は今も変わらないが、パウエルFRB議長やムニューシン財務長官の更迭説といった極端なシナリオはトランプ氏や周辺の否定でひとまず終息した。政権の機能不全や中央銀行に対する政治支配が市場をパニックに陥れる事態は遠のいたといえる。

ムニューシン氏が23~24日に市場の不安を払拭しようとして金融大手トップや規制当局との間で緊急協議を持ち、かえって市場の不安をあおった不可思議な行動も、今となれば「トランプ氏から株安の責任をすべて負わされそうになって焦った」という推測が最も腑(ふ)に落ちる。

運用会社の幹部はムニューシン氏の行動を「よほど市場に疎いのか、それとも市場が知らない決定的な何かを握っているのか」といぶかしんでいたが、少なくとも後者を勘繰る市場関係者はほとんどいない。

少しだけ安定を取り戻した市場でなお重荷になっているのは、FRBの引き締め路線、とくに「量的引き締め」への不安感だろう。「QE(量的緩和)」ならぬ「QT(Quantitative tightening)」が最近の市場の合言葉になっている。

19日まで開いた米連邦公開市場委員会(FOMC)では、利上げシナリオを市場の「(引き締めに慎重な)ハト派期待」に寄り添ってやや後退させた。その半面、保有資産の縮小はパウエル氏が「自動操縦」という言葉を使って既定路線の継続を強調し、市場の不安を誘った。

ニューヨーク連銀のウィリアムズ総裁は21日のインタビューで資産の縮小路線を再考する余地に言及したが、にじませたのは景気シナリオの抜本的な見直しが前提になるとの認識だ。株安という市場の「警鐘」の裏に、景気失速リスクの高まりという証拠を確認できなければ踏み込みにくい。

FRBが資産圧縮のペースを加速させるなか、欧州中央銀行(ECB)が年内で量的緩和を終える。日銀もなし崩し的に資産拡大の勢いを弱めた。シティグループは主要5中銀の資産購入が今年の年末にかけて差し引きでマイナスに転じると試算する。バンクオブアメリカ・メリルリンチは4大中銀の資産は2017年中に2.3兆ドル(約250兆円)膨らんだあと、18年はほぼ横ばいにとどまり、19年には0.2兆ドルの幅で減少すると予測する。

シティのエコノミスト、パーニル・ヘネバーグ氏らは「中銀の資産購入フローがマイナスに転換することは、金融資産の価格形成に重要な影響を及ぼす」とみる。米利上げ継続とあわせ、「量」の縮小が株価などリスク資産の価格を押し下げるとの警戒は強い。

QEの効果は一般的に、信用スプレッド(民間の資金調達での金利の上乗せ幅)を含めた金利の全般的な押し下げを通じ、経済活動のほか、株式を含めたリスク資産の価値を高めることにある。つまり、QTの副作用はその逆、金利の全般的な上昇が株価を冷え込ませることになる。

QTの最大の懸念材料は米長期金利の上昇だが、今はリスク回避の傾向が強まり、安全資産とされる米国債にお金が流れ、米長期金利には押し下げ圧力がかかっている。低格付け社債市場などで信用スプレッドには拡大傾向がみられるが、米国債の利回りが下がれば、そうした引き締め効果もある程度は相殺される。

金利を経由しない悪影響はあるのか。中銀がどんどん超過準備をため込むという「量」だけの効果について、経済学界では疑問の声は多い。市場参加者の間で「量」は長く過剰流動性のシンボルとなってきただけに、量の縮小が直接的に株安要因として意識されやすいのは確かだが、心理的な影響といえるだろう。

一方、株の急落ぶりの割に長期金利の下がり方が鈍くなっている可能性も考えられる。この場合は信用スプレッドが広がる影響が強く出て、民間債務に強い負荷がかかる。株価を一段と押し下げるリスクもある。

ドイツ銀行は26日、米株価と米長期金利に確認されてきた相関関係(株の下落と金利の低下)が崩れているとのリポートを出した。最近でいえば、米株安の勢いに比べて金利の低下幅が鈍くなっているという。ドイツ銀のエコノミストは米国債の大量発行が影響している可能性を指摘する。

量的引き締めは、FRBによる国債の再投資の減少という形で国債増発に拍車をかけるため、すでに影響が出始めている可能性も否定できない。みえざる「金利の高止まり」が起きているとすれば、QTが19年の米株市場を大きく揺さぶる展開も意識しておく必要がありそうだ。

(ニューヨーク=大塚節雄)