墨亭さんのGW特別企画、神田愛山4DAYS『清水次郎長傳』特集も、いよいよ本日四日目、千穐楽を迎えました。
そして千穐楽に相応しく「荒神山の決闘」の中から、前日の「蛤茶屋の間違い」を受けて、千穐楽には続きの「飯田の焼討ち」「仁吉の離縁場」の二席でした。
私が過去読んだ三代目伯山の速記から、詳細をご紹介しますと、下記の私のブログの七話分を三話に纏めて90分で語りました。
この「荒神山の発端」の噺は、超、超、超有名です。講釈らしく「その手は桑名の焼き蛤!」から、物語は始まる。愛山先生も、実は蛤で有名なのは、桑名ではなく隣り村の"富田"だと語りだしました。
その富田村に"みすじ"と言う屋号の蛤茶屋があり、そこに大人気の別品酌婦"お琴"と言う娘が居た。沢山の客が、お琴目当てに通い詰める中、桑名湊の大親分、安納徳次郎の子分に上州無宿の熊五郎と言う40過ぎの男寡(やもめ)が居ました。
この熊五郎もお琴に大層入れ上げておりまして、二日と空けず"みすじ"通いのお琴推し!ところが、或る日"みすじ"に行くとお目当てのお琴が居ない!!
何処に行ったと尋ねると、神戸ノ長吉の一の子分、代貸を張る加納屋利三郎に連れられて、白子の観音様へお詣りに行ったと知り熊五郎が、蛤ではなく焼き餅を焼く。
そして賭場で熊五郎と利三郎の両者が出会いまして、啖呵の切り合いになる場面、愛山先生の神田派らしい啖呵が炸裂!そして、"五貫束"が登場しました愛山先生の噺にも。
そしてこの熊五郎と利三郎の揉め事を、安納徳次郎、通称・安納徳の軍師、懐中刀、用心棒、信州松本藩浪人元剣術指南役"角井門之助"が、熊五郎に入知恵をして、神戸一家と安納徳一家の揉め事にします。
そうしておいて、数の論理で神戸ノ長吉を黙らせて、荒神山を安納徳次郎の縄張りに、無し崩し的にしてしまう絵を描くのですが…。神戸ノ長吉には、藤枝の貸元、長楽寺清兵衛が言い出した『吉三の兄弟盃』と言う義兄弟三人組が有った。
それは御油の玉屋ノ玉吉、伊勢の神戸ノ長吉、そして三州の吉良ノ仁吉。この三人は、義侠中の義侠と言っても宜い三人であるり、これを芝居の"三人吉三"に見立て義兄弟の契りを交わさせると面白い!
そう長楽寺清兵衛が三人に提案し、これを受けた三人吉三が伊勢尾張三河の三国に誕生したのである。そんな縁で神戸ノ長吉は、兄弟分である吉良ノ仁吉にこの安納徳次郎との揉め事を相談するのだが…。
噺は前後し「飯田の焼討ち」へ。冒頭、黒駒ノ勝蔵の話から愛山先生の語りは始まります。勝蔵は『次郎長傳』では仇役として描かれていて、『赤穂義士傳』の吉良上野介と同様、実在の人物だから地元では良い親分、良い領主という評判が残っている。
まぁ、コレは仕方ない。日本人が好きな勧善懲悪の物語を拵える上で必要な仇役だから、次郎長vs勝蔵の図式は必須なのだ。同じ侠客傳で言うならば、『天保水滸伝』の笹川繁蔵一家と飯岡助五郎一家の描かれ方も『次郎長傳』とよく似ております。
その黒駒ノ勝蔵が地元甲州で親分格の武井安五郎と揉めて役人に睨まれ長く草鞋を履いた事が御座います。この時に勝蔵に追手を掛けたのが、二足の草鞋祐天ノ仙之助、甲州では武井、津向と並ぶ千人からの一家を構える大親分です。
そこで信州伊奈は飯田に身を隠すと決めた黒駒ノ勝蔵からの号令で、集められた黒駒の精鋭七人衆が、大岩、小岩、乙女ノ大八、玉手箱ノ長次、牛島ノ久五郎、青島ノ久五郎、荒川ノ新太で御座います。
その飯田には、次郎長の子分で七久里(滑栗/なめぐり)初五郎が居ると知り、黒駒ノ勝蔵以下八人はこれを夜討ちに掛けて、初五郎の自宅を襲います。ところが初五郎は不在、そこに居た女房子と子分数人を皆殺しにして行方をくらまします。
あまりの非道に"鬼勝の野郎め!"と、数日涙に暮れる初五郎でしたが、女房子の初七日を済ませると、清水湊に自ら出向き、黒駒ノ勝蔵の悪事を訴えて女房子の仇討ちに合力して欲しいと願うのであります。
二つ返事でこれに応える清水次郎長。信州を大和田ノ友蔵一家の力も借りながら大捜索致しますが、黒駒ノ勝蔵一家八人の行方は杳として知れません。実に「草の根を分けて、瓦を剥がして廻りますが黒駒の行方は杳として知れません。」
ここで、愛山先生の講釈らしい表現が出ます。よく「草の根を分けて探す。」と言う表現は使いますが、コレに合わせて愛山先生は「瓦を剥がす。」と言う表現も対にする事で、如何にも虱潰しに探しました感を出すのでした。
三ヶ月、必死の捜索の末、黒駒の八人を匿っていたのが、信州飯田の畠中ノ鉄五郎と三谷ノ鶴吉の二人だったと知れる。そこで次郎長は、子分を集めて次郎長二十八人衆から、その時清水湊に居た十七人を選抜します。
その十七人とは大政、小政、枡川ノ仙右衛門、大瀬ノ半五郎、法印大五郎、鳥羽熊、大谷部ノ平吉、
桶屋ノ鬼吉、追分三五郎、大野鶴吉、三保ノ豚松、関東綱五郎、問屋場ノ大熊、相撲ノ常、辻乃勝五郎、舞坂ノ富五郎、そして、田中ノ敬太郎。
結構、カッコいい道中付けっぽく十七人を節を付けて流れるように語る愛山節が堪りません。そして、次郎長は十七人に命じます、鉄五郎と鶴吉の家を訪ねて「黒駒の行き先は?」と執念く(しつこく)聞きに通えと言う。
そんな事をしたら、喧嘩になる!?そこが次郎長の狙い目。十七人が鉄五郎と鶴吉に恥をかかされ、暴力を受けた後から、次郎長親分が出張って因縁を吹っ掛ける算段だと言うが、果たして次郎長の子分がそんな我慢、辛抱出来るのか?
次郎長自身、その点には大いに不安を覚えたからか?万一、決断に迷う出来事が有った時は、大政、大瀬ノ半五郎、枡川屋仙右衛門、法院大五郎、そして小松ノ七五郎の五人が協議して十七人の行動を決めるべしと。
そう言い聞かされて信州飯田に来た十七人は、丸屋と言う旅籠に宿を取り、早速、畠中ノ鉄五郎と三谷ノ鶴吉の家を探す。すると、直ぐに二人の家は知れてしかも、隣り同士と好都合だ。
さて、早速五人が協議して、先鋒、様子見に出す野郎を誰にするか?って算段を始めた。ここは血の気の多くない穏やかな野郎に限る。しかも、一目で清水次郎長の子分だと分からない奴となると、大野ノ鶴吉が適役だ!と、五人が膝を叩く。
そして、大野ノ鶴吉を送り出そうとした時に、桶屋ノ鬼吉が俺も一緒に行くと駄々をこねる。俺と鶴吉は一心同体、御神酒徳利、夫婦茶碗。と訳の分からない御託を並べる。次郎長の名代五人が止めるが鬼吉は厠に行く振りをし鶴吉の後を追う。
慌てて桶屋ノ鬼吉の後を追う十五人。しかし、一足遅く二人は既にダン平を抜いてチャリン!チャリン!と喧嘩をオッ始めております。仕方ない多勢に無勢の二人を見殺しには出来ない。親分の命令違反已無しと斬り掛かる精鋭十五人!
アッと言う間に、畠中と三谷の子分衆は蜘蛛の子を散らすように逃げ出します。残された鉄五郎と三谷ノ鶴吉は無惨、十七人衆にナマス斬りにされあい果てます。更に、床下にモグずり込んだ桶屋ノ鬼吉が火を付けたから、さぁ〜大変。
さぁ〜信州飯田には居られなくなった十七人。かと言って清水湊に帰ると次郎長から大目玉を喰らうのは必至。桶屋ノ鬼吉は殺されるかも?名代五人衆も破門は確実な大失態です。
そこで無い知恵を絞った十七人が、次郎長への詫び、仲裁を願い込んだのが、三州の吉良ノ仁吉で御座います。そして、丁度、この頃に、安納徳次郎から荒神山の縄張りに横車を押された神戸ノ長吉が吉良ノ仁吉を訪ねて来る。
ここから最後にお届けするのが、「荒神山の決闘」での前半の超山場、「仁吉の離縁場」です。非常に縁(えにし)は巡り糸の様に絡み合う場面。安納徳次郎が荒神山の縄張りに目を付け、神戸ノ長吉に因縁を付けていた頃、
方や信州飯田では黒駒ノ勝蔵が次郎長の身内、七久里初五郎を襲撃し、畠中ノ鉄五郎、三谷ノ鶴吉を巻き込んで、次郎長一家と黒駒一家の戦争(でいり)が起きていました。
そして、黒駒ノ勝蔵八人は安納徳次郎を訪ねて草鞋を脱いで匿われ、一方、次郎長の十七人の子分たちは吉良ノ仁吉の所に草鞋を脱いで親分次郎長との仲を取り持って下さいと願い出ております。
吉良ノ仁吉の女房お禧久(おきく)は、安納徳次郎の妹。しかもこの時、新婚三ヶ月です。それを神戸ノ長吉との義理、『吉三の義兄弟の契り』を重んじて、仁吉はお禧久に"三行半"を突き付けて離縁します。
この場面は、映画やドラマでも必ず描かれる場面で、仁吉の最期となる「荒神山の決闘」「血煙、荒神山」の仁吉が鉄砲の銃弾に倒れるシーンと共に有名ですよね。
この噺のマクラで作家は、脳が活性化して書けるのは20年説について、愛山先生の持論を語られました。確かに、新しいストラクチャーを駆使して作品を生み出すのは確かに20年なのかも知れない。
さて、愛山先生の「仁吉の離縁場」は、出だしの荒神山御會式博打の説明を語る口調が、実に神田派らしく賭博打ちの生き様を独特の節回しで語り掛けて下さいます。
そして、何より次郎長の気風の良さと、ザ・任侠と思わせるカッコ良さが素晴らしいです。今回は、秋葉山の火祭りから、保下田ノ久六とお蝶の焼香場。そして、「石松が殺された夜」という結城昌治作品を挟んで、「荒神山の決闘」の前半を語る趣向でしたが、
是非、保下田ノ久六と亀崎の代官竹恒三郎兵衛を成敗する「深見ノ長兵衛の仇討ち」を全8話か?「血煙、荒神山」を蛤茶屋から仁吉の焼香場、石薬師の手打ち式までを全8話でやるか?このどちらかを通しで聞きたいです。
さて、次回は『梅雨小袖昔八丈〜髪結新三〜』、別名『白子屋政談』を愛山2DAYS 6月21日、22日の二日間で僕亭さんでやります。ちょうど、旧暦の節句ですね。
私は『髪結新三』、五街道雲助師匠と馬石師匠。そして柳家小満ん師匠と、あと最近全くやらなくなった柳家三三師匠で聴いております。確か当代の馬生師匠もおやりですよね。
新三、いい節句だなぁ〜
この科白が耳に残る噺『白子屋政談』。今から楽しみです。