柳家甚語楼師匠の独演会に、久しぶりにお邪魔しました。永谷さんの日本橋亭は、建物を大幅に建て替え工事を行う為、貸ホールの営業は暫く停止となり、

甚語楼師匠の年間三回開催しているこの独演会や、講談協会の定席や披露目も、来年以後何処を借りるのか?代替の会場を探すと言っても帯に短し襷に長し、

永谷さんの日本橋亭は、MAX120人の会場としてはリーズナブルな価格設定だし、公共ホールの様に借りるのは兎に角、早いモン勝ち、抽選じゃないから予定は組み易い。

そんな日本橋亭が無くなるのは、咄家・講釈師・浪曲師、そして浄瑠璃、義太夫の師匠方も、大いに困っているに違いない。本当に死活問題だと感じる今日この頃です。

さて、来年以後の開催に黄色信号が点る『柳家甚語楼の会』ですが、兎に角、年内は行ける限り、行こうと思います。そして、三席根多出しの今日はこんな内容でした。


・やかん  … 柳亭さん坊

・人形買い … 柳家甚語楼

・化物使い … 柳家甚語楼

お仲入り

・品川心中 … 柳家甚語楼


1.やかん/さん坊

さん喬一門の由緒ある前座名『さん坊』を名乗る三代のさん坊さんです。初代が喬太郎、二代目がやなぎ、そして三代はさん喬師匠の弟子ではなく左龍師匠の弟子です。

私は聴くのは二回目で、独特の古典口調で師匠・左龍さんの影響をやや感じます。さて、『やかん』ですが、この噺は前座噺としては難しい部類だと感じます。

『道灌』のように落語口調と落語のリズムを前座が学ぶ噺と謂うよりは、笑いを取る為の落語の間を学ぶ噺であり、『やかん』は志の輔師匠の『バールのようなもの』的な、

根問の部分から笑いを生み、講釈『川中島の合戦』を入れて、講釈の真似ゴトを披露しながら、やかんの由来を語らねばならないので、立川談志は真打になってからも愛した根多でした。

さて、三代さん坊さん。出足の根問は八五郎と隠居の語りは、中々、上手いと感じました。八五郎は江戸っ子の職人らしい口調でテンポが早く、対する隠居はゆっくりと横柄に上から目線です。

ただ、ここから徐々に隠居の語りのスピードのギアを事前に上げながら、講釈に持って行く流れが、イマイチ突然、ギアが上がります。是は難しいから前座なりに頑張っているとは思います。

尚、根問は『鯨、鰻、茶碗、土瓶、鉄瓶、やかん』と謂う流れで、前座の咄家なので、『川中島の戦い』は許せるレベルだと思います。

此の『やかん』は、なぜ、『川中島の戦い』なのか?『三方原軍記』『難波戦記』、あるいは『源平盛衰記』の方が広く有名だし、特に『三方原軍記』は講釈前座のバイブルなのに。


2.人形買い/甚語楼

来年二月に落語協会はめでたく百周年を迎えるそうで、数々の記念イベントが目白押しなんだそうです。

そんな話題から、落語協会の寄席の仕組みで、甚語楼師匠自身が、一番疑問に思い続けている納得行かないしきたりに『仲日の前座祝い』が有ると謂う。

寄席は通常、十日単位で芝居興行が行われて、興行の五日目を仲日と呼び、なぜか?前座さんに対して、真打二つ目はご祝儀を出すしきたりである。

甚語楼師匠曰く、前座は協会から寄席の日当が支払われているんだから『割』と呼ばれる日当が雀の泪程の二つ目や新真打はご祝儀払うと赤字である。

何故?前座に対し仲日にご祝儀を払う必要があるのか?と、常々疑問に感じているけど、自分が前座の時は疑問に感じていなかったと謂う。ダメじゃん!

この落語協会の前座が恵まれていると謂う噂、実はかなり湾曲されて、間違った事実がSNSで伝えてられている節が有り、講釈師も浪曲師も一日壱万円、

つまり、365日で年収365万円が保証されていると、馬鹿な夢物語がSNSで拡散されていて、其れが原因で、矢鱈前座希望者が増えていると言われている。

ちょっと考えたら判るハズだ!プロ野球選手の育成枠の最低保証額が240万円と言われる時代に、前座の年収が365万円なハズがない!

其れに落語協会の市馬会長は確かに六本木のタワーマンション住まいだし、副会長の正蔵師匠もご祝儀を地下室に隠すくらいの守銭奴である。

又一方、落語芸術協会の会長、昇太師匠は世田谷に3軒家を所有しているし、副会長の小遊三師匠は愛人が三人居るとの噂で其れなりに金持ちですが、

楽天の三木谷さんや、SoftBankの孫さんの様な規模の資産家ではありません。だから、前座の平均年収365万円は何処から出たデマなのか

さて、本編の『人形買い』。甚語楼師匠のフラに非常に合う噺で、この噺や『壺算』なとをやらせると天下一品だと思います。勿論、最後まではやらずに、小僧を連れて長屋へ帰る道中でサゲました。


3.化物使い/甚語楼

六月二十四日、日本橋劇場での権太楼一門会のPRをマクラで簡単に。トリは権太楼師匠ではなく、新真打のさん光さんの『幾代餅』です。

さぁ、この甚語楼師匠の『化物使い』は、桂庵/口入屋の話題は会話中に登場しますが、働き者のご隠居の奉公人、久蔵が千束(ちづか)屋からやって来る場面を省いて進められます。

だから、千束屋と謂う固有名詞がでないし、化物屋敷へ引っ越して久蔵が暇を取っても、ご隠居は桂庵、千束屋へは足を運びません。


4.品川心中/甚語楼

かなり久しぶりに此の噺を聴いたように思います。兎に角、甚語楼師匠らしく、貸本屋の金造の間抜けぶりが最高です。

手紙で呼び出された其の日に心中を強くお染に迫られると、今日死ねない理由を金造が色々と口にしますが、どんどんセコな理由になり、「今日は大安だから死ねない!」と謂い出します。

勿論、此の噺も最後の仇討ちまではやらず、親分の家に行く所で「品川から参りました!」でサゲに成ります。