この長い『与話情浮名横櫛』の中でも、「茣蓙松」の部分は、後半へと物語が展開して行くなかでも、非常に良く出来たお噺でして、

與三郎が悪党として、一本立ちして行く姿を描きつつ、其れを脇で支えるお富の方も、また、悪女の階段を上る事に成ります。

「茣蓙松」では、楽斎と金八と言うキャラクターが物語のキーマンで、終盤に、常吉と言う金八の義弟も登場して、お富と與三郎が召し捕りになるきっかけを作る存在です。

常吉が、お喋りし過ぎるまでは、落語でも講釈でもお馴染みですが、與三郎が、松屋に出向いて捻じ込んで百両奪い取る場面や、

金八が、伊豆屋をしくじり松屋に奉公していたり、女房子が居て、是が結局、災難を被ると言う展開も、落語や講釈にはありません。

また、茣蓙松の冒頭の萬八での荒物屋組合の寄合の部分も普通はやらずに、楽斎が雨宿りをしている所から始まるのが普通です。


又、「無宿人狩り」の部分を、この本は一話で独立させていて、普通、落語や講釈では、島抜けの冒頭で簡単に説明して終わる所を、

わざわさ独立させ、しかも、伊豆屋の両親からの使者として、大工の棟梁源八と、関良介が遣わされ、ボギー&クライド的なラジカルな悪党だった與三郎に、人の心、義心をもう一度示して、悪党で生きるにしても、生き方と言うものが有ると諭してから佐渡へと送り出します。

そして、いよいよ、ほぼ2/3が終わり、佐渡ヶ島での次回は流人、金山囚人としての地獄の様な暮らしから、與三郎はどの様にして、抜け出し!島抜けを決行するのか?

既に、お届けした『嶋鵆沖白浪』の島抜けと、対比しながら楽しむのも一考です。