さて、この玄冶店でお富と與三郎が再開して、蝙蝠安と目玉ノ富と出会う部分は、芝居でも扱われますし、春日八郎の「お富さん」でも有名な場面ですから、


「え、ご新造さんぇ、女将さんぇ、お富さんぇ、いやさぁ!これ、お富、久しぶりだなぁ〜。」


この科白を知らない昭和生まれは、少ないはずです。


さて、この玄冶店。お富を助けた井筒屋のご支配人、太左衛門は、落語や講談では語られはしますが、名前とお富與三郎の因果にいたく感動してキッパリ手を引き、玄冶店の家を餞別代わりにくれてやる好人物として語られますが、

此の太左衛門も、この後、当時する金物問屋の奥州屋藤八同様に、目玉ノ富とは、富八が幼い頃から、その父親の知人である事は、語られない。

完全に重複するエピソードなので、太左衛門自身の回がカットなんだから、ダイジェストでも語られるはずが御座いません。


又、此の玄冶店で、この本でしか知り得なかったのは、お富與三郎が最初は、善人として極々平凡に暮らす道を選んでいた様子です。

当然、超ダレ場ですから、一話加えると、それなりに演者の力量は問われますが、伊豆屋から與三郎が勘当される経緯や、

ハナから悪党になった訳ではない、二人の人生の紆余曲折がより複雑に描かれて、リアリティも増すので、この部分は是非、連続でやる演者には挑戦して貰いたい!と思いました。


一方、博侠宿から稲荷堀までの流れは、落語でも、講釈でも演じられる物語と、この本はずばりそのまんまなんですが、

目玉ノ富を與三郎が殺した後の蝙蝠安との絡みは、落語や講釈では、サラリとしていて、稲荷堀の船着場で、苫船から安が登場する切れ場だけは使われておりますが、

二人で逃げて箱根に湯治に行く噺なんて、まず語られません。更に、『善悪の彼岸』では、二人が箱根から一年ぶりに江戸へと帰り、貸家探しから「相対間男/美人局」を企む場面も、

簡単には触れられますが、大家の萬兵衛などは全く登場せずに、この後、島流の要因となる『茣蓙松』へと物語は展開致します。


ほぼ、物語は全体の半分、50%が終わった所で、是から特に與三郎が、悪党へと成長?いたします。乞うご期待!!