六代目一龍斎貞山の公演から起こした速記本『天保六花撰』如何でしたか?六代目貞山のオリジナルだと十七話有りますが、

このAmeba4000字縛りの関係と、切れ場を講釈らしく設ける都合もありまして、私は、全三十六話になりました。


まず、一話が長いと言うより本当に内容が濃くて詰まっていて、殆どダレ場が有りません。

一龍斎らしい武ばったカッコいい所と、六代目貞山らしい言葉選びや比喩が組合さって、非常に表現が豊かで感動を覚えます。

恐らく明治の末期から大正以前の講釈は、ト書き中心で所謂『修羅場』と『道中付け』を講釈の独特のリズムで節を付けるのが主流だったものを、

其れに、プラスアルファで、啖呵を中心とした口語的な表現を上手く融合して、お客さんにより近い感動を生む芸に昇華されていると感じます。


次に、抜き読み出来る部分が沢山あり、加えて連続モノらしいダイナミックな仕込みが有ります。

是は、この『天保六花撰』の台本を通して言える事で、先の『畔倉重四郎』や『天明八人白浪』には無い魅力だと思います。


最後に、蛇足さんからもご指摘のあった、キャラクターを通しての、六代目貞山の思いが、ビンビン伝わり、凄く濃い感動が湧き上がります。

この六代目貞山は、三代目伯山がもう最晩年の頃に貞山を襲名し、ラジオで引っ張りダコの活躍をした講釈師で、

ライバルはあの、『寛永三馬術』が十八番だった二代目大島伯鶴です。二人でラジオの創世記を支えた存在です。

そんな貞山の思い描くイメージで作られた六人、河内山宗俊、片岡直次郎、三千歳、森田屋清蔵、金子市之丞、闇の丑松、それぞれの個性的なピカレスクがたまりません。


尚、個人的に、私は講釈としては、金子市と闇の丑松の物語は、全く知らなかったんです。河竹黙阿弥の読本の『天保六花撰』には、大して登場しないのに、講釈だと、六人平等なのが嬉しいですね。是は、本当に読んで良かった本でした。


さて、次回は、宝井琴凌、五代目伊東陵潮原作の『天保水滸伝』を、五代目伊東陵潮の明治30年頃の速記本でお送りします。