六代目一龍斎貞山の『天保六花撰』を、「丸利の強請」から「直侍と三千歳の別れ」までを全16回でお届けしましたが、
此れは単にAmebaの4000文字縛りの為で、六代目貞山の公演では、此処までで8話となります。
アさて、今回はそのうち「金子市之丞の登場から直侍と三千歳の別れ」此の部分を、小生の雑感などを語りつつ、振り返ってみましょう。
この二話も、六代目貞山は、一回で読んでいて、おそらく一時間では語り尽くせないと思います。
物語の流れとして「丸利」「上州屋」「三千歳足抜け」と、この辺りまでは、如何にも白浪モノらしい、悪党の金儲けの手口を中心に、
主人公である河内山宗俊が活躍する、痛快な時代劇のテーストを感じさせるドラマでしたが、森田屋清蔵が登場した辺りから、所謂、講釈で言う『世話モノ』の人間の愛憎を描いた物語へとシフトして行きます。
ただ、白浪も世話も、六代目貞山の表現は、人物のキャラクターが濃く描かれていて、特に、驚いたのは、三千歳です。
私は、三千歳が大口楼へ再勤する下りを、今回初めて六代目貞山で、読んだからか?!殆どの講釈師、咄家は、三千歳には個性がありません。
直侍の言う事に、ただただ従順な女として描かれているばかりですが、特に、この金子市之丞が登場してからの三千歳は、彼女の個性を感じる展開になっております。
尚、此処までの私が書いている『天保六花撰』は、六代目貞山65%、六代目伯龍25%、柳家小満ん5%、そしてmarsオリジナルが5%と言う構成になっております。
この金子登場から直侍・三千歳の別れは、やや、私オリジナルが多目かな?絶縁状を出したり、虎屋の女将が生き証人になるのは、私のアイデアです。
あそこの展開が、実に、陳腐で強引だったんですよね、六代目貞山先生のが。其れまでの緻密さが、やや強引に、絶縁するんです。
でもね、六代目貞山の「アチキの顔の見納めだから、直さん!穴が開く程、見てくんなまし!」と、三千歳に言わせる科白には、痺れました。
あとね、六代目貞山の片岡直次郎、三千歳、金子市之丞の三角関係は、あの『風と共に去りぬ』のと似ていると感じます。
男女の間の恋って、ありがちな展開だと思うんです。同時に、二人が同じくらいの強さで、好きになる恋なんて有り得なくて、
殆どの場合は、どちらかが強くて、相手側は憎くからず思う程度なんですよ。直侍と三千歳の場合は、三千歳の方が、最初、直侍にぞっこんだった。
だから、店に借金もしたし、直侍の妻になりたい!と、思った。ところが、やっと直侍が、三千歳と同じくらいに、遅ればせながら、好きになり出してみたら、
逆に、三千歳の方は恋の炎が、消えるとまでは言わないが、燻り始めた。明らかに、温度差があります。
そうは言っても、直次郎の方は、お前があんなに好きだ!好きだ!と言うから、俺も、数多言い寄る女を整理して、貴様、一本にしたら、
二階へ上がった途端にハシゴを外す様な仕打ちをしやがって!!ってなもんだ。現在只今の恋の温度差、盛り上がりの時間差攻撃に、二人の恋は崩れ去ります。
まぁ、『風と共に去りぬ』とは、男女の関係が真逆になっておりますが、此れは、人を好きになると、誰しもが経験する「恋愛あるある」だと私は思います。
まだ、この先を私は、あえてまだ読まずに感想を書いておりますが、六代目貞山の結びの科白では、
直侍が、金子市之丞に、何らかの罠を仕掛ける展開に、必ず、なると思われます。