金子市之丞、逃げ去る男を追ゞうとも思いましたが、溝に落ちた一八を助けるのが先決だと思い、溝の方を見てやれば、一八が漸く自力で土手へと這い上がって参ります。

一八「金子先生!いやぁ〜、参りましたよ。溝泥だらけです。」

金子「命が有って良かったではないかぁ、蔦屋に頼んで風呂へ入れてやろう、付いて参れ!」

一八「それより、今のが、駐春亭で話に出た、直侍!片岡直次郎ですよ。」

金子「私に斬り掛かって来た、あいつがか?片岡直次郎。」

一八「あの様子だと、駐春亭から付けて来たに違いありません。『三千歳が!』って二人で花魁の事を話していたから、焼餅焼いて襲って来たんですよ、あの野郎。」

金子「狭い料簡の輩よのぉ。それより、歩けるか?一八。」

一八「ハイ、大丈夫です。取り敢えず、蔦屋へ急ぎましょう。」


御羽黒溝に落ちて、溝ネズミの様な一八を連れて金子市之丞、吉原は仲の町に在る『蔦屋』へ参ります。


金子「女将!一八が大変だ。直ぐに井戸と風呂を借りたい。」

女将「どうしたんですか?嫌だぁ!一八さん、何んて格好してんのアンタは?また、若旦那に又何んか悪戯されたのかい?

幇間って商売も大変だねぇ、腹に針を刺されたり、鰻を食い逃げされたり、今度は御羽黒溝かい?

分かった!溝ん中に、足袋の小ハゼ撒かれたのを、二分金の小粒だと思って飛び込んだんでしょう?!お前さんは強欲だから。」

一八「違わい!いきなり、直侍が金子先生に斬り掛かって来て、その巻き添えで、逃げる途中で足が滑って溝に落ちたんです。」

金子「まぁまぁ女将、井戸で流して入れるから、風呂を使わせてくれ。其れから古着で構わんから着る物も。」

女将「分かりました。一八さん!金子先生のお伴だから、風呂も着替えもあるんだよ!先生に、お礼を言いなさい。」

一八「金子先生!有難う御座います。」

金子「なんのぉ!拙者が、直侍と揉めた巻き添えだから、当然の事。早く綺麗に成りなさい。」

女将「先生!一八さんは、溝に落さなくても汚いし、風呂に入れても綺麗には成りませんよ。」

一八「女将!そりゃぁ、あんまりだ。」


一方、真眉間を礫で破られた直侍はと、見てやれば、金子市之丞と幇間の一八が大門を潜った少し後から、同じ仲の町に在る馴染みの虎屋へとやって来ます。

直侍「女将、暴漢に襲われた。。。真眉間を、傷付けられた、手当を頼む?!焼酎と卵、それにサラシを!」

女将「どうしたんだい!直さん、凄い血だよ、医者呼ぼうか?喧嘩でもしたのかい?敵が多い人だから。。。河内山の旦那の後ろ盾も無いしねぇ、弱目に祟目って言うけどねぇ。」

直侍「喧嘩じゃねぇ、盗賊か追剥だ、いきなり石でやられたんだ。そうだ、三千歳にも、知らせてくれ!直次郎が暴漢に襲われたって。」

女将「分かったよ、大口に知らせるよ。其れから焼酎と卵も買って来るから、手拭いで、血止めして待ってなぁ。」


虎屋の女将は、大口楼へ『直侍が暴漢に襲われ、真眉間をパックリ破られて、虎屋へ担ぎ込まれた!』と、知らせてから、焼酎と卵を持って、直侍の元へと帰って来ます。

女将「卵と焼酎、それにサラシだよ。直さん!」

新しい手拭いに、焼酎を染ませて傷口を消毒します。その上で、卵を塗った半紙で傷口を押さえてサラシをグルグル巻にして止血を致します。もうまるで、ミイラです。

その上から、更に新しい手拭いを鉢巻にし、暫くは横に伏せる直次郎。ウーウー、唸りながら傷の痛みに堪えて居りますと、三千歳が留袖新造の青柳をお伴に連れて参ります。


三千歳「直さん、大丈夫かえ?」

直侍「大丈夫なもんか。いきなり、土手の御羽黒溝で、暴漢に襲われたんだ!!」

三千歳「本に痛かろうねぇ?直さん。」

直侍「痛かろう?かろう?家老も、殿様もねー!!こちトラなぁ、死ぬか!生きるか!そんな大怪我なんだい。」

三千歳「マぁ、マぁ、直さん。お前さんはこの頃、アチキの側にはトンと寄り着かず、『承りますれば』、外(よそ)で浮気をなさっているとか?、大方、其の罰で傷を付けられたんざましょ!!」

直侍「オウ!三千歳。貴様、馬鹿も休み休み言えよ。お前の方こそ、近頃じゃぁ、良い客が着いたと見えて、俺様の事を邪険に扱うじゃねぇーかぁ!

『承りますれば』、金子市之丞って兒雷也野郎に、大そう心中立をしているそうじゃねぇーかぁ。

三千歳!俺も最近じゃ、昔と違ってやりくりが大変でよぉ、その金子市之丞に百両って銭を、俺の為に借りてくれねぇかぁ?

どうしても、その百両が都合出来ねぇと、お前が言うのなら、俺も片岡直次郎!直侍と呼ばれた漢だ、其れなりの料簡が在る!覚悟しろ。」

三千歳「何んだえ?直さん、百両を用意出来ない時は『料簡が在る』って言うのは。もし、お前さんに本気(マジ)の『料簡』が在るんなら、どうにでも好きにするが宜い!!

確かに是までは、間夫のお前ハンが困ると言えば、アチキも色々苦労を仕合った仲だから、金子の旦那に話はしてみますが、

もし、旦那が百両出して、お前ハンが其れを受け取ると言うのなら、約束しておくれ?!百両といやぁ大した金だ、是が直さん、アチキがアンタに仕てやる最後だよ。其れでも宜いかい?」

直侍「おぅ!百両くれるなら、是から先は、お前の世話にはならない心算(つもり)だ。」

三千歳「分かりんした。旦那に頼んでみます。」


そう言って三千歳は、ジロっと片岡直次郎の顔を見つめます。なぜ、こんな男に長い間惚れたんだろう?こんな奴の為に、前借りして店に五百両をも借金を増やして、

あんなに人の良い室町の森田屋清蔵を騙して、夫婦して宜くしてくれた河内山の兄さんを裏切り、トドのつまりが、大口楼へ戻り又元の籠の鳥。

そんな事を考えながら、片岡直次郎との決別を、三千歳は強く決意致します。


江戸町二丁目の大口楼へ戻った三千歳、二階の一番広い座敷では、一八を先頭に幇間末者に取り巻かれて、金子市之丞が賑やかに酒を飲んでおります。

一八「三千歳花魁!何処へ行ってたんですか?!どんな客より、花魁が一番に大切にしなきゃならないのは、金子先生じゃぁ、あ・り・ま・せん・かぁ?!まさか?お加減でも、悪いんじゃありませんか?」

三千歳「何んだか、妙に気色が悪くて。持病の癪がキリキリと痛むざます。金子ハン、癪が起こって来たざます、此処を押してくんなまし!!」

金子「癪の療治など、拙者不慣れだが。何処を押せば宜いのかなぁ?此処か?」

三千歳「もう少し、下でありんす。」

金子「では、此処か?」

三千歳「もう少し。」

金子「エッ?!こんな所をか?!」

三千歳「指で、其処を優しく押してくんなましぃ〜」

金子「妙な癪だなぁ。間夫の片岡にも、こんな風に押して貰うのか?」

三千歳「直さんは、もう間夫ではありんせん。其れどころか、嫌な奴になりんした。何故、あんな男に惚れたりしたのか。。。分かりんせん。

実は、此の座敷に遅れた理由(わけ)は、その直さんが盗賊に襲われて怪我をしたと申すから、様子を見に行きんしたが、確かに真眉間に傷があり、伏せって居りなんしたが、

アチキが、気分の悪くなる様な事ばかりを、毒突いて来るざます。本に、料簡の定まらね、嫌なお人に成りんした。」

一八「花魁!金子先生の前だから、言いますが、直侍の真眉間を破ったのは、盗賊じゃなくて金子先生なんですぜ。

と、言うのも、あの直侍の野郎、アッシと先生が駐春亭で繋ぎをしていた時に、間違いなくあの野郎も其処に居て、俺達の話を盗み聞きしたに違いないんです。

と、言うのがアッシと先生で花魁の噂噺をしていましてねぇ、あの野郎、其れが耳に入って、悋気に狂ったに違いないんです。

だから、俺と先生の跡を付けたり仕やがって、浅草田圃の御羽黒溝で、いきなり斬り掛かって来て、オイラは足を滑らせて、御羽黒溝に落とされたんですよ。

まだ、体が溝臭い!!でも、流石、金子先生だ。丸腰なのに、直侍の剣術・柔術くらいなら、簡単に返り討ちしましたから。」

金子「一八の言うのは嘘じゃない。確かに、吉原土手で、片岡に我等は襲われ申した。」

三千歳「やっと分かりんした。だから、直さんは『金子ハンから百両借りて来い!』『百両用意できたら、絶縁してやる!』なんぞと、アチキに啖呵を切ったんざますねぇ。」

金子「何ぃ?!百両で、手切れを約束すると、片岡が申したのか?」

三千歳「申しましたが。。。どないかしましたかえ?」

金子「此処に、百両の持ち合わせがある。是を片岡に渡して、絶縁状に爪印を貰って来てくれ。絶縁状が取れるのなら、拙者は、今すぐ、三千歳の為に百両出そう。」

三千歳「金子ハン!本に、三千歳の為に、百両出してくんなますか?!」

金子「命を狙って来た奴に、百両出すのは、そりゃぁ本意じゃないさぁ。しかし、其れで三千歳!お前と片岡が切れてくれると言うのなら、俺は安いと思ったんだ。

善は急げだ、野郎が虎屋に居るうちに、百両叩き付けて、絶縁状に爪印を押させて来ると宜いぜ。」

三千歳「市ハン!本におおきに。ではすぐに、直さんと絶縁して参ります。」


そう言うと、紙と硯箱を持って来させて、金子市之丞、達筆な手でサラサラと絶縁状を書き、是と百両を三千歳に持たせて再び虎屋へ送り出した。

其れを受け取った三千歳は、先程と同じ留袖新造の青柳を伴にして、仲の町の虎屋へと参ります。

女将「あら?三千歳花魁、忘れ物かい?」

三千歳「女将、直さんは?まだ、寝てなさるかえ?」

女将「えぇ、まだ横になってるよ。そして時折、痛い!痛い!と、呟いている。」

三千歳「宜い気味ざます。女将、貴方にも立ち会って欲しいざます。金子市之丞の先生から百両の銭をお借りしたざます。是を直さんに渡して、この絶縁状に爪印を貰うざます。」

女将「じゃぁ、花魁、本気かい?」

三千歳「決心が着きんした。直さんとは、今日限り、お別れざます。」

女将「分かった。直侍に、花魁が来たって声掛けて来るから、呼ぶまで、其処で待ってておいで。」


そう言って虎屋の女将が奥で寝ている直侍に、三千歳が大切な用事で来たからと、声を掛けます。

直侍「何んだ?大切な用って?分かった、此処へ三千歳を通してくれぇ、女将。

三千歳!何んだ、大切な用事って、取り敢えず、座れよ、まぁ一杯やんなぁ!?」

三千歳「アチキは、酒は嫌でありんす。其れより、主の無心の百両を持って参りんした由、是を受け取って呉んなまし。」

直侍「ふーん、三千歳、お前、俺の為に早速百両の銭を都合してくれたのかぁ、で、何処から借りた?!」

三千歳「鳥越の金子先生から貰ったものでありんす。」

直侍「何ぃ?!金子市之丞が、てめぇに百両呉れたってかぁ?!貴様、金子に何と言って貰った?!」

三千歳「父が病でと、騙そうかとも考えましたが、金子ハンの方から、人を闇討ちする様な料簡の腐った侍と縁切りする為ならば、百両、喜んで呉れてやると、言いなんして、

この絶縁状に爪印を押して貰う事を条件に、大口の座敷で、気前よく、渡してくんなましたえ。

其れから、直さん主は、盗賊、暴漢に襲われて真眉間を破られたと、アチキには言いなんしたが、嘘ですねえ?金子先生と一八ハンから聞きましたえ?

駐春亭から二人の跡を付けて、此の廓の裏田圃で、金子の市ハンに斬り掛かったそうで。もし、丸腰の市ハンの腕前がお前さん同様の鈍(なまくら)なら斬り殺されたでしょうが、

お生憎様で、市ハンは一刀流の免許皆伝、それに加えて柔の心得もある。斬られるどころか、あべこべに、お前ハンが真眉間を破られたんざんしょ。

アチキの一番大事な客を斬り殺そうだなんて、直さん!あんまりぢゃ御座んせんかぁ。此の百両の銭は、主に呉れてやります。

その代わり、もう二度アチキの前には現れないと誓ってくんなまし。此れが、アチキの顔の見納めざます。穴の開く程見たならば、その絶縁状に爪印を押すざます。」

そう言って三千歳が、絶縁状に添えた百両の金包を、片岡直次郎に差し出します。すると、三千歳の啖呵を喰い気味に、直次郎も啖呵を返します。


直侍「ヤィ!三千歳、貴様、よくそんな事が言えたなぁ。お前が此の片岡と夫婦になりたいとせがむから、俺が暴風雨(あらし)ん中お前を足抜けさせて、

河内山の兄貴と姐さんに骨折りして貰って、お前の身柄を匿って頂いた。更に森田屋清蔵を騙して身請けさせる算段が、

森田屋も漢気があらぁ〜、俺とお前の関係全部飲み込んで、貴様を身請けして、半年、来年上野の初花まで我慢する約束だったんだ。

其れをお前が、森田屋の留守に、俺へあんな手紙を遣すから、俺も馬鹿だったよ、お前に乗せられて、ヘイヘイ返事して、石町の鐘撞堂の妾宅へ行き、挙句は森田屋清蔵に『間男見付けた!!』って、四つにされかけた。

お陰で折角義兄弟の契りを結んだ河内山宗俊には絶縁されて、俺様の世間での評判はガタ落ちだ!!地に落ちた。

其れなのに、貴様は何だ?!『苦界に再び身を沈めます!』とか都合の宜い事言いやがって、大口楼に戻ってみれば、前より羽振りのいい全盛の花魁になって贅沢三昧じゃねぇ〜かぁ!?

もしかしてお前、森田屋に間男を見付けさせたのは、計算ずくの態と(わざと)じゃねぇかぁ?!俺をハメやがったんだろう?

ハナから片岡直次郎を捨てて金子市之丞に乗り換える筋書きを描いた上で、俺をハメやがったなぁ?この女狐め!!


『花魁、そりゃあ、ちっと、そでなかろうぜぇ〜』


と、播磨屋の科白を、そのまんま貴様に呉れてやるから、そう思え!!」

と、返して、直侍は百両の銭を三千歳へ投げ返し、絶縁状を破り捨てて、煙草盆で其れを燃してしまいます。此れを観た三千歳が、言い返します。

三千歳「そうざますかぁ、百両ばかりの銭は欲しくないと、主は言いなんすか?さりとて、天下の通用金でありんす。ねぇ、虎屋の女将さん?!」

女将「そうですよ、片岡さん。三千歳花魁が、貴方の為に、折角用意して下さったお金を、突き返す何んて、自分で言い出しといて、どんな料簡何んですか?!」

直侍「黙れ!!大きなお世話だ、貴様まで三千歳の肩を持ちやがるのか?!俺様は客だぞ、しかも、贔屓の客だ。」

そう言うと直侍は、虎屋の女将の頭を、いきなりポカリと殴ります。すると、女将も負けておりません。

女将「痛い!何をするんだ、この直公!人の頭をよくも、ブッたねぇ!こん畜生!!」

と、女将が、直侍目掛けて、焼酎の一合瓶を投げ付けると、直侍が又殴り返す。

直侍「糞婆ぁ、何しやがる!怪我人だぞ、こっちは!!」

たちまち、女将と直侍が掴み合いの喧嘩になるもんですから、青柳と三千歳が間に入り、此れを必死に止めます。

漸く、二人が落ち着きを取り戻したので、それ以上の喧嘩には成りませんでしたが、二発も殴られて頭にコブを拵えた女将が、直侍に毒突きます。

女将「やい、直侍!てめぇー、今すぐツケの三両二分、耳揃えて払いなぁ!!」

直侍「何を急に言い出すんだ、婆ぁ!!ツケは月末だ。晦日になれば払ってやるよ。」

女将「駄目だね、今だ。お前さんにツケを許していたのは、三千歳花魁がお前のケツ持ちしてくれていたからだ、

その三千歳花魁が、お前に、逆三行半を突き付けたんだ。お前にツケは利かないんだよ。其れから、勿論明日から虎屋は出入り止だ、覚えとけ、直侍。」

直侍「蹴った糞悪い婆ぁめ、持って行け、泥棒!!釣は要らねぇ〜。」

と、五枚の小判を、虎屋の女将に投げつけて、今度は又、三千歳の方へ向き直る片岡直次郎。


直侍「三千歳、俺に愛想が尽きたと言うのかぁ?!」

三千歳「ハイ、お生憎ざんすが、愛想もコソも尽き果てんした。お前ハンの様な、意気地無しの詰まらない人の顔は二度と見たくありんせん。サァ、青柳!帰りますぇ。」

と、立ち上がり、百両の金を投げ出すように直次郎へ渡して、虎屋の二階から去って行こうとする三千歳の、袂にすがる様に引き留める直次郎。

直侍「三千歳!よくも、この俺に恥をかかせてくれたなぁ?!今にみてやがれぇ、貴様に憂目を見させて、金子の野郎にも必ず今日の仕返しをしてやるから、覚えていろ。うーん、倍返しだ!!」

三千歳「ハッハッハぁー、直さん、洒落がきついえぇ、笑かさんといてくんなまし。


倍返し?!


直さんの剣術・柔術では、金子先生に四半分も返せしまへんえ。金子先生は、お前ハンと違って意気地無しではありまへんから、憚りさん。」

直次郎、その場でカッと血が昇り、「三千歳!覚えてやがれ、きっと倍返しだ!!」と、叫んで其処に有った百両の金包を、三千歳へ投げ付けて、立ち去ろうとしましたが、其の金包を虎屋の女将が拾って、直次郎の手に戻します。


女将「直さん!お前も、天下の直参御家人だろう?、もう観念して、切れてやりなよ、花魁と。

花魁!この人が、絶縁状を燃したけどね、アタイが今日の生き証人だ。片岡直次郎は確かに手切れ金の百両、受け取ったよ。」

三千歳「女将さん、おおきに。」


そのまま三千歳は青柳と二人、大口楼へ戻り、金子市之丞に、虎屋での一部始終を語ります。市之丞も、直侍の捨て科白は、少し気になりましたが、

三千歳と絶縁してくれた事は、幸せな事だと大いに喜び、その夜は直侍絶縁の祝いだ!と、芸者・幇間とドンチャン騒ぎで、大そう盛り上がりました。

さて、此のまま引き下がる片岡直次郎であろうハズもなく、実に卑怯な作戦で、此れから、金子市之丞に陰湿な罠を仕掛けるのですが、其れは次回のお楽しみ。



つづく