直侍が河内山の家を最後に訪ね、三千歳の惚気を言って帰ったのが三月の終わり、早半年ばかりの月日が流れて、九月の十日。

夕方から暴風雨(あらし)に成って、往来を歩く人影すら無い、車軸を流す様な横殴りの雨が降り続いております。

宗俊が本を読み疲れて、行燈に油を足そうかと立ち上がりました、四ツ過ぎで御座います。更に、雨音が激しさを増しておりますから、

宗俊、雨戸の具合が気になり廊下へと出てみました。すると、練塀小路の宗俊宅の門をドンドンドン!ドンドンドン!と、叩く音がしております。

部屋の中に居ると、雨の音で、この門を叩く音すらもかき消されてしまう様な雨でして、宗俊は、奥に戻り、取次の安次郎に声を掛けます。


宗俊「おい安!この雨ん中、誰か、門を叩いている野郎が居る。すまんが、取次に出て来てくれ!!」

安次郎「御膳様、分かりました。行って参ります。」

安次郎が手燭を持って玄関先へと参ります。そして、玄関に置いてある、ブラ提灯に火を移して門へと蛇目を差して参りますが、

雨の跳ね返りが半端じゃなくて、直ぐに安次郎の着物の裾はズブ濡れです。其れでも滑る下駄を用心し、門まで来ますと、

安次郎「誰だい、門を叩くのは?!」

男「すいません!チト、物をお尋ねます。下谷練塀小路と言うのは、この辺りでしょうか?」

安次郎「此処は確かに練塀小路だが、道を尋ねるんなら、自身番に行けよ。民家の門なんて叩くな!!こんな雨降りに迷惑だぞ!!」

男「お叱りは、ごもっともですが、真っ暗ん中で、表札も何も見えませんし、この雨で、通行人も居ませんから、尋ねる相手に困り、お宅の門を叩きました。ご容赦下さい。」

安次郎「そうかい、でぇー、何処を探して彷徨ってるんだい?!」

男「其れがねぇ、ここ練塀小路にねぇ、河内山って、悪タレ坊主が居るそうで、そいつん家を探してるんですよ、心当たりは御座いませんか?」

安次郎「悪タレ坊主だぁとぉ!?失礼な事を申す奴だなぁ、河内山宗俊先生のお宅は、此処だ!!」

男「ひぇー!!存じませんもんで、あいすみません、失礼しました。」

安次郎「で、何の用が有って参ったのだ?!」

男「私どもは駕籠やでして。」

安次郎「駕籠や?駕籠なんて、こんな雨ん中、しかも、こんな夜中に頼まないぞ!!」

駕籠や「いいえ、お迎えの駕籠じゃありません、お客様を、此方までお運び申したんです。」

安次郎「其れを早く言え!!御膳様!河内山様、お客様がお見えになった様です。」

宗俊「そうか、駕籠で客が来たのかぁ?!」


黄八丈の袷小袖の上から、黒縮緬の綿入りの羽織を肩で着て、高い下駄履きで玄関へと出て来た河内山、

宗俊「オーイ、おいおい、駕籠やさんご苦労様、こんな雨に本にご苦労だったねぇ、安!!門を早く開けてやれ。

時に、駕籠やさん、こん中の客は、片岡直次郎ん所から頼まれた、ご婦人かい?!」

駕籠や「さいでゲス。片岡の旦那にどうしてもと言われて、吉原土手から此方までお運び申しました。」

宗俊「其いつはご苦労だった。早く玄関で、客を下ろしてくれ。其れから、直侍からも駕籠代酒手は出ているだろうが、此れは、俺からの雨ん中のご苦労賃だ。」

駕籠や「重ねて、ありがとうございます。では、駕籠を玄関に付けさせて頂いて、お客様を下させて頂きます。」


宗俊が、女房の重にガクを二枚持ってこさせて、駕籠やに二人で分け易いご祝儀を渡します。

そして、宗俊も重も、直侍が惚れた三千歳と言う花魁が、どんなにか艶やかな姿を見せてくれるかと思いきや。。。

いきなり宗十郎頭巾に、黒紋付。其れに細身の大小を落とし差しにしたナリで駕籠から出て参ります。

此れには、宗俊も驚きまして、もっと驚いたのは、取次の安次郎で。


安次郎「御膳様!駕籠ん中から、鞍馬天狗が出て来ましたぜぇ、日本の夜明けは近い!!」

宗俊「くだらねぇ〜、ヨタこいてんじゃねぇ〜!!杉作にでも、成ったつもりか?お前は、早く自分の部屋へ下がって寝ちまいなぁ!!」

安次郎「畏まりました。おやすみやす!!」

宗俊「さてお客人、直次郎の奴から聞いていると思うが、遠慮は要らねぇ〜。奥に入ってゆっくり休むが宜い。」

ゆっくりお辞儀をして、河内山の跡に付いて、変な侍は奥の部屋に入ると、大小を置いて頭巾を脱ぎ捨て、女の顔を見せた三千歳が、宗俊に向かって口を開きました。


三千歳「この様な、ドジ拵えで上がりましたが、此れは全て直ハンの指図によるもの。どうかお許し下さい。

貴方様が、河内山の御膳で御座いますか?お初にお目に掛かります。三千歳と申します。」

宗俊「如何にも、私が河内山だ。不思議な縁で片岡とは兄弟の契りを交わす事になった。そしたら、野郎が、イの一番でお前さんの事を、どうか女房にしたいので頼むと言われた。

可愛い舎弟の頼みだ、聞いてやらない訳にもいくめぇーと、漢、河内山!一肌脱ぐ事になったと、そう言う訳なんだ、花魁。

噂には、聞いていた三千歳たぁ〜お前さんかい?よく、此の雨ん中とは言え、抜け出せたなぁ〜。」

三千歳「ハイ、暴風雨(あらし)を、此れ幸いに、本に無我夢中で逃げて参りました。この上はどうか、河内山の旦ハン!!宜しく頼みます申します。」

宗俊「うん、うん、引き受けた。兼ねてより直侍から『三千歳を宜しく!』と言われておるから、其れは万事任せなさい。」

三千歳「有難う存じます。此れで私も安心致しました。其れから、其方はご内儀様でしょうか、重ねて宜しくお願い申します。」

三千歳は、妻の重にも、挨拶を済ませて、本にホッと安堵の表情に成りました。

宗俊「花魁、流石にその姿のまんまじゃ、窮屈だろう、おい、重!!何かお前の着物で、花魁に合う物を出してやりなさい。」

三千歳「着の身着のままで逃げて来たので、着替えを持ちません。ご内儀、どうぞ宜しくお願い致します。」

お重「こんな私の着物しか御座いませんが、その男物よりは幾分ましでしょう。どうぞ、三千歳さん、此れとお召し替え下さい。」


妻の重が差し出したのは、銘仙の小袖、唐繻子と紫縮緬の合せ帯で、其れを三千歳は嬉しいそうに着替えます。

お重が、着替えを手伝う横で、河内山が、更に、続けて三千歳に、話を続けます。

宗俊「この家に来ればもう安心、親船に乗ったつもりで居なさいよ。其れと直の野郎に言われなかったかい、玉の台帳を持って出ろと?!」

三千歳「言われんしたので、ハイ、此処に持って出ました。こんな物を、河内山の御膳は、何に使いなさるんでぇ?!」

宗俊「そうかい、ちゃんと持って出たなら上々。この中から、八百両の太い旦那を釣り上げるのよ。まぁ、全て此の河内山に任せておきなさい。

ところで、直の野郎も、此処へ時期に来る段取りなのかい?!花魁?」

三千歳「いいえ、違うんざます。直ハンは来ぃしまへん。四、五日は中に居て、アチキを連れ出したのが直ハンではないと、大口楼の旦那や若衆を思わせてから来ると、言っておりんした。」

宗俊「そいつはぬかりないなぁ。流石、直侍だぁ。暫く逢えぬのは寂しかろうが、末に夫婦となる生みの苦しみだ、我慢してくれ!花魁。」

三千歳「あーいー。」


一方、その頃、既に大口楼では、上を下への大騒ぎで、三千歳が居ない事に気付いた遣手衆が、店中隅から隅まで探したものの、

三千歳は居らず、大口楼の旦那へと事態は報告されて、『足抜けに相違無し』と、会所へと訴えられました。

朝まで、大口楼の奉公人は寝ずの捜索で、翌日も更に、その翌日も、牛太郎の連中は、当番制で、三千歳の行方を探しましたが手掛かりが有りません。

そして、迎えた九月十四日の朝で御座います。吉原は揚屋町に『泉湯』と言うお湯屋があります。此の泉湯は、朝帰りの客や、廓に勤める奉公人達の御用達の湯屋で御座います。

少し客が空いた頃、五ツを過ぎた時分に、水槽(みずぶね)の脇で、仕切りに楊枝を使って歯磨きしている直侍。

その直ぐ傍で、此れまたウガイしては、指で塩を歯茎に擦り込んでいるのが、大口楼の臺廻しをしている若衆で金蔵で御座います。

何気に、二人の目が合います。

金蔵「こりゃぁ、片岡の旦那!!お久しぶりでぇ。」

直侍「ご挨拶だなぁ。俺が、三千歳に入れ上げて通っていた頃は、道で出逢うと、大口の亭主はじめ、奉公人の貴様達までが、体をくの字に曲げて、俺に挨拶してやがったくせに、

大口の二階から俺が堰かれた後に成ると、俺の顔を見たら、そっぽを向いて知らん顔して、通り過ぎやがる!!其れが、お久しぶりもねぇーだろう。」

金蔵「朝っパラから、嫌なぁ毒付き方をなさいますねぇ、旦那!!」

直侍「朝から嫌な毒付き方にも成ろうよ。俺はなぁ、三千歳に、俺の方から金を貸せとか、店に借金してくれなんて!!一度たりとも頼んじゃいねぇ〜んだ!!

其れを、大口の亭主が二階から勝手に堰きやがって、俺はいい赤ッ恥だ。中の噂じゃぁ、俺が三千歳の櫛や簪、帯や着物までも、金目は全て質に入れて散財させた事に成ってやがる。

客を『堰く』、履物にするってのはなぁ、そう言う尾鰭が付いた噂で、客を殺すと知ってやっるのか?!貴様の飼い主は。」

金蔵「あいすいませんねぇ、うちの主人の料簡までは、アッシ如き奉公人には計り知れなくて。しかし、旦那、その口ぶりでは、四日前、確か十日の一件、ご存知ないんですか?」

直侍「今月十日?あの豪雨(あらし)の晩か?!俺は、虎屋で多助の奴と待合せしていたら、結局、野郎が現れず。俺が待ち惚けを喰らった、その夜に何が有った?!」

金蔵「三千歳花魁が、玉無しに成ったんですよ。」

直侍「エッ!玉無しだぁ?!死んだのか?三千歳!!」

金蔵「違いますよ、足抜けして消えちまったんです。イの一番に、片岡の旦那。貴方が疑われていますよ。」

直侍「馬鹿を言え、堰かれて寄り付いちゃいねぇー俺が、どうやって三千歳を。それに、この四日あまりは、ずぅーッと吉原に俺は居たからなぁ。虎屋で札を弄ってた、嘘だと思うなら聞いてみろ!皆んな知ってるぜぇ。

しかしなぁー、俺なんかを堰いて三千歳から遠避けても、結局、悪巧みして連れ出す様な、料簡の悪い客は他に居るんじゃねぇーか。

お前ん所の亭主も、いい面の皮だなぁ。堰く相手を間違えてやがる!俺にしたら、いい気味だ。大口楼の亭主に言っとけ!!『八百両、ご愁傷様でした』と。」

金蔵「アッシも、三千歳花魁が居なくなったと聞いた瞬間、片岡の旦那の仕業、差金だと思ったんですがねぇ〜。違いますか?」

直侍「残念ながら、犬や猫から獲物を守っていたら、鳶に空から拐われたってヤツだなぁ。

其れにしても、三千歳を逃した奴はきっと、田舎源氏の光氏か?!梅暦の丹次郎みたいな野郎で、間違いなくいい腕の持ち主だ。何とも馬鹿馬鹿しい。」

金蔵「黒幕が片岡の旦那じゃねぇーとなると、逃した野郎を探すだけでも、大変な骨折りになりそうだなぁ、こりゃぁ。」

直侍「八百両の宝探しだと思って、江戸中を隅から隅まで、ずず、瑞ーッと探してみなさる事ったなぁ。」


そう言うと、直侍は、ねんねこ風の廣袖(ドテラ)、天鵞絨(ビロード)を羽織って、左手には似つかわしくない腕守(うでまもり)を付けております。

その直侍はハシゴを勢いよく登って、湯屋の二階へと消えて行きました。

其れを見ていた金蔵。『野郎、妙なドテラを着てやがる?女物かぁ?どっかで、見た事が有るようなぁ?』

金蔵、どーも直侍のねんねこが気に成って仕方ない。あの色、あの柄、どっかで見た事が有るぞ。其れにあの腕守?!何処だ?思い出せない。

ちょうど其処へ、稲本楼のお職小紫が、気怠そうにドテラ姿で、番台へ現れた。此れを見て金蔵が思い出す。

片岡の野郎!あいつが着ていた、ねんねこみたいなドテラは、三千歳の物だ!!思い出したぞ、あの野郎!!

口では、知らぬフリして毒突いてやがっが、三千歳の足抜けは、あの野郎が手引きしたに違いない。直ぐに、会所に届けなければ!あぁ、なるめぇ〜。


湯屋の番頭に、直侍が二階から降りて帰る様なら会所へ知らせを寄越せ!、と、釘を刺して、金蔵は会所へ駆け込んだ。

ちょうど、其処に岡っ引の庄吉と惣兵衛が、茶を啜りながら、馬鹿ッ話に花を咲かせておりました。


金蔵「庄吉親分!惣兵衛親分!、三千歳花魁の足抜けを手引きしたのは、やっぱり、片岡直次郎の奴ですぜぇ!!」

惣兵衛「何だ?!金蔵、藪から棒に、来るなり、直侍がどうかしたのか?」

金蔵「今ねぇ、泉湯で野郎と出会やして、三千歳の話を振ったら、白らこい科白で毒突いて、私は関係御座いません!ッて態(てい)で居やがるんですが。

アッシの目は誤魔化せません。あの野郎、風邪を引いで熱があると言って、あの暴風雨(あらし)の晩に花魁が寝巻の上から羽織っていたドテラを、あの野郎が今着てやがるんです。

足抜けした時に、片岡の野郎、三千歳花魁と、ナリを交換して逃がしたに違いありません。親分!兎に角、片岡の野郎をしょっ引いて下さいよ。」

惣兵衛「分かった、じゃぁ、泉湯へ行ってみよう。庄吉ドン、お前も来いやぁ。」

庄吉「勿論、行かいでぇかぁ。日頃から、直参、直参と威張り腐ってやがる直侍を、ぐうの音も出ないくらいに、とっちめてやれるなら、行かずに置けるか!!」


三人が泉湯へと向かおうとしたその時、泉湯の番頭が、慌てた様子で会所へと駆け込んで来た。

番頭「金さん!片岡さんが今帰ったよ。」

金蔵「野郎、泉湯を出て、何処へ行った?!」

番頭「虎屋で、今日も手慰みするッて言ってました。あの茶屋、今晩も賭場が立つんです。」

金蔵「親分方、直侍の野郎、虎屋で博打のつもりですぜ!!行って見やしょう。」

番頭「あのー、親分方。虎屋で博打している事を、揚屋町の湯屋の番頭から聞いた何て事は、呉々も言わないで下さいね。」

惣兵衛「どうしてだぁ?!」

番頭「いやぁ、虎屋の博打の事を、私がベラベラ喋るから、十手持ちが来た!何て遺恨を残すと、後で仕返しが恐ろしいもので。」

惣兵衛「番頭!妙な心配をするんだなぁ、お前は。俺も庄吉ドンも、そんな野暮はしないよ。直侍をお縄にしに行くだけだからよ。」

番頭「親分、宜しく頼みます申します。」


三人は番頭と分かれて、会所から虎屋へと向かった。

庄吉「御免なさいよ!御用の筋だ!!」

いきなり岡っ引が二人して『御用の筋だ!』と来たもんだから、畳の上の札を隠して逃げよする虎屋の若衆。それを見て惣兵衛が、

惣兵衛「違う!違う!御用の筋ッたって、博打の取締りじゃねぇー。オイ!亭主、虎屋の亭主は居るか?!」

亭主「ハイ、手前が虎屋の亭主です。」

亭主は、奥で博打の上がりの銭勘定をしていた最中に踏み込まれて、手文庫持って逃げ様としている所を、呼び留められた。

惣兵衛「虎屋さんは、商売繁盛で何よりだなぁ?!ご亭主。」

亭主「親分、イヤミはよして下さい。このご時世ですから、お茶屋なんて。。。だから、たまに手慰みで、札を弄ったりもするんで、今日の所は、此れで見なかった事にお願いします。」

惣兵衛と庄吉の袖に、亭主が小判を二枚ずつ入れる。

惣兵衛「そんな取締りじゃねーと、言ってるだろう?!片岡直次郎が、来ているはすだ、出して貰おう。」

そう言いながら、惣兵衛が奥を見やると、一番奥の壁際の火鉢の近くに、さっき迄着ていた天鵞絨のドテラを敷物にして、丼鉢に茶漬けを掻き込む直侍を見付ます。

亭主「片岡の旦那!惣兵衛の親分と、庄吉親分がお見えです。」

虎屋の亭主に声を掛けられた直次郎、其れでも食べるのを止めずに、仕切りに飯を喰らい続けていると。

庄吉「片岡!御用の筋だ。会所まで、俺たちに付いて来て貰いてぇが、いいか?!」

直侍「人が、飯を食っている最中に、無粋な輩だ。後にしてくれ!!あと、二杯茶漬けを食うから待て!!」

惣兵衛「片岡さん。此処に居る金蔵から貴方も聞いたでしょう?四日前に、三千歳が大口楼を足抜けした件で、お前さんに話があるから、会所まで、来て欲しいんだ。」

直侍「その話は、其処に居る金蔵から聞いたが、俺はさっき初めて知った話しだ。其れに、俺は直参だぞ!貴様ら町方に縄を打たれる筋合いは無ぇ!!

俺を捕まえたかったら、大目付を連れて来い!!町奉行ごときの指図は受けないからなぁッ。」

惣兵衛「片岡さん、お前さんが、そんな態度だと力ずくになるが、其れでも宜いかい?縄は打たないから、同道してくれ!!」

直侍「分かった会所へ行くよ。ただ飯を食い終わるまで、少し待ってくれぇ。其れから、女将!女将!紙と硯を貸してくれぇ。」

そう言って紙と硯を持って来させると、サラゞゞと直侍。何やら認めます。

直侍「女将!二分やるから、此れを便り屋に頼んで上書の処へやって貰いたい。急いで頼む。」

そう言うと、敷物にしていたドテラを又、羽織って立ち上がる片岡直次郎。

両脇に、惣兵衛と庄吉が付いて、その袖を取って同道しようと致しますと、

直侍「オイ!人の袖を取るのは止めてくれ!茶屋の二階から芸者が見てらぁ」

庄吉「お前さんは、逃げる気遣いは無ぇのかもしれねぇーが、ご定法だからよす訳にはいかねぇんだ、我慢しなぁ。」

直侍「誰が逃げるもんか、早く止めてくれ!!」

惣兵衛「まぁ、まぁ、旦那!其処までだから我慢して下さい。」



つづく