この穀屋殺害から、杉戸屋富右衛門の召し捕り、伊奈半左衛門の吟味、そしてこれに大岡越前守が絡み、城富が登場する。


この流れでまず、杉戸屋富右衛門が召し捕られて、お堂に泊まりアリバイがなく、道中差しに血痕がある。そしてタバコ入れが現場に落ちていた。

この論法は、松鯉先生の台本の流れで、本は道中差しは出て来ないし、二十八、二十九のアリバイ証言者は居ませんが、

二十七日と三十日は、栃木町と古河に居たアリバイは成立しているので、片道十七里離れた権現堂から幸手に向かう途中の竹藪を往復するのは、至難の技だと解説します。

また、越前守の関わり方が、かなり本と松鯉台本では違っていて、本は裁きの手順として、郡代・代官が裁いた罪人を、町奉行は追認をして老中へ刑の執行を促す。

この道中で、当然見るべき立場だったとしていますが、松鯉台本だと、伊奈半左衛門に裁かれて実の父が無実の罪で処刑されると知った城富が、

揉み療治と鍼灸治療に通う得意先・老中、安藤對馬守に直訴して、江戸で名高い大岡越前守忠相に再吟味を!!と願い出るので、大岡越前守が絡んで参ります。

ただ、どちらにしても、再吟味は『裁許破り』と言われかねず、無実の罪だと知りながら、越前は杉戸屋富右衛門を釈放はさせられず、殺してしまいます。


そして、本と松鯉台本の決定的な違いは、本は越前の裁きや吟味に城富は一切口出しはせず、素直な十七歳の孝行息子ですが、

松鯉先生の方は、越前守に対して杉戸屋富右衛門の無実を晴らせと迫り、真犯人がもし居たら、越前守の首を差し出せ!とまで、強く迫ります。


尚、竹本政太夫のくだりも、本にしか出て来ない展開です。


さて、次回はいよいよ、畔倉重四郎が殺人鬼と化してくる、『金兵衛殺し』です。