怒涛の様に読んでは、あらすじをこれまでは、書いてきましたが、ここらで、少し感想も書きたいと思います。
この慶安太平記を本で、完全に通して読むのは、これが初めてで、講談では、松鯉先生と松之丞さんのおかげで、何となく全体の筋は知ってはおりますが、ここまで、子細な物語を読むのは初めてでした。
さて、出生から十七になるまでが、意外と長く、父吉岡治右衛門は、紺屋の染屋だし、武田信玄、楠木正成などとの所縁が語ら、秀吉との類似点なども。
更に、聡明ぶりが紹介されて、特質すべきは、単に、知識がある少年ではなく、情報を整理して、未来を予見できる事、などが紹介されている。
それに加えて、武芸の腕前も超一流で、人相学的に、大将の器だとも言われます。松鯉一門の慶安太平記でも、秀吉と同じ目をしている天下取りの人相が出てきますけどね。
そして、何より楽しくて講釈では聴いた事がない、諸国武者修行の噺が、結構、面白い。赤子喰い、幻術使い、熊野の妖怪退治などなど、
さて、そして、遂に今回は、紀州公と由井正雪が接見する場面となります。ここが、講釈だと最初の山場です。さて、どんな内容か?!
正雪、熊野山を下りて、紀州を東西南北見聞きして廻り、ここ和歌山の藩中に、関口隼人と言う名高い兵法家が居ると聞く。
紀州五十五万石の兵法指南である。藩内は、ことごとく関口の門弟と聞いて、尚更、この関口隼人に逢ってみたい!と願う正雪でした。
正雪、和歌山城下にある関口邸を訪ねて、門の関根で、暫し中の様子を伺った。そして、若い門弟の叫び声と木剣を打ち合う音を聞いて、
『今だ!』と、門を潜り、「頼もう!頼もう!」と、声を発して中へと進んだ。すると、中から先の声の門弟が出て来た。
牧野兵庫である。
兵庫が、疑い深い様子で「何奴?」と問い掛けると、正雪は、由井民部之助正雪、諸国を巡り武者修行中の身だと答えて、
門前をたまたま通りかかり、稽古の勇ましい声と木剣の音を聞いて、ふと表札をみてやれば、『関口』とある。
これは、名高き兵法家である関口隼人殿のお住まいでは?と思い、是非にも一つお稽古を願わんと、申し出た次第です。
更に、懐疑を強くする兵庫だったが、奥へと戻り、武者修行の者が稽古をと申しております。私たち門弟が相手をして、適当に可愛がって宜しいでしょうか?と、兵庫は関口に尋ねた。
すると、関口。武者修行の者には、武者修行なりの定めがある。その範疇ならば、門弟が可愛がってやるのも一向に構わん!と、この申し出を半ば容認した。
建屋の中から、戻った兵庫は、正雪を油断させようと、まずはゆっくり茶などを薦め、玄関近くの待機所にてもてなす。
正雪も、「かたじけない!」と、茶を啜り、中の様子を伺うと、兵庫が先頭に、中へと案内する。流石、七百石取りの兵法指南の関口邸、中は広く、
渡り廊下から見える庭の様子も、実に見事で、ここまで、豪華な邸宅を見るのは、正雪は初めてだった。そして。。。
邸宅と、道場を結ぶ廊下を、兵庫に連れられて、進む正雪を、関口の門弟二人が、廊下の床下から不意に現れて正雪を襲った!!
しかし!素早く両名を交わした正雪、二人の襟首を掴むと、両腕を広げこれを回して、庭の外へと放り投げてしまった。
流石の兵庫もこれには、些か驚いた様子であったが、表向きは意に介さず、正雪は悠然と道場へと入った。
幅五間、長さは十二、三間はあろうかと言う立派な道場には、神棚を背に、主人関口隼人が座り、その門弟が、脇に二列、七十人以上が左右並んで立っていた。
隼人が、粗忽の門弟の非礼をと、その二人の襲撃を詫びてから、門弟たちは、武者修行など他流の相手が珍しく、無礼を働いたと、重ねて詫びるのだった。
これは、明らかに、関口一門が、正雪の実力を値踏みする為の襲撃で、結果、あまりにあっさり二人の粗忽を打ちのめしたので、
正雪には、道場一の剣客・佐藤八郎兵衛という、上級師範代が相手をする事になり、武器は、礫(つぶて)、槍、太刀、長刀、小太刀の中から、八郎兵衛は長刀を選択した。
これに対して、正雪も初めは長刀を選んだが、それを持つと、貫目を測り、結局、軽い竹刀に武器を選び直した。
最初(ハナ)は、パンパンと、互いの刀が当たる音が響いたが、正雪が踏み込み、変則的に、下段より中段へと剣を射貫くと、八郎兵衛の長刀は、遥か後ろに四、五間飛ばされ、すかさず、参った!!の声が。。。
二番手は、技は、佐藤八郎兵衛よりやや劣るが、力に勝る怪力の持ち主、小松正蔵が、二尺八寸の棒を持ち、正雪に挑んだ!!
これに、正雪も竹刀を捨てて棒にて相対し、佐藤八郎兵衛同様に、パンパンと、二回、三回は、得物が当たる音がしたが、実力は天地の差、小松も簡単に、正雪に負かされた。
いよいよ、大将の関口隼人の登場となるのだが、隼人は居合の達人。居合用の抜き身、二尺八寸の段平が、用意された。
居合抜きでの対戦を、受けぬ!と、隼人は踏んでいたのか?それを提案された正雪が、まさか?!これを素直に受けて立ったので、もう一竿、二尺八寸の段平が用意される。
相対す二人
電光石火!先に仕掛けた関口隼人の鋒を、正雪は完全に見切り、間合いを詰めて突きで返した!『参った!』と、隼人が言うと同時に、斬り掛かろうとする門弟70人!!しかし、
「皆ぁ!!刀を引け。」と、関口隼人が叫ぶ。
つづく