金井民五郎と別れた正雪、中国を通り播磨路を抜けて四国へと渡った。更に四国から九州へと渡り、ここは肥前国唐津。

ここ唐津藩領主・寺澤兵庫頭は、飛地の領地天草を加えた十二万石の大名だった。唐津から長崎を抜け天草にやって来た正雪は、不思議な老子、翁と巡り合う。


その翁は、由井正雪を見るなり、その人相が大将の器であると言う。更に、正雪が諸国六十予州を巡る武者修行だと言うと、

翁は、諸国何州を廻ったか?問うので、正雪が既に四十六州を廻ったと伝えると、その間に、大将としての心得を説く者は有ったか?と問い返されたが、正雪、否!と答える。


翁曰く、大将として必要なモノが三つあると言う。一つは、天文運気を読む力、次に、孫檳と孔明の兵法、そして最後に幻術だと言う。

幻術とは?と、正雪が翁に問うと、翁は、それに答えて孫檳の故事を話し始めた。


唐土に首領二人が率いる盗賊一味を幻術を使い退治して、最後は盗賊一味が改心し、孫檳に従うようになる。

この際の幻術は、辺りの樹木が一斉に葉が抜け落ちて、その後、樹々は人間化して、盗賊一味に襲いかかり、これを成敗する。

更に翁は、将としての大望を正雪に説く。人生五十年、大望を抱いて志を高く持って生きるも、道半ばで寿命が尽きるのは、織田信長を例にするまでもなく、常である。


人は一代、名は末代。


如何に名を残すか?そして、一代では成えぬ大望を、子孫に夢を託し生きるのも人の道。そう翁は道を説き、幻術をお前に見せてやると、

釣竿を川へ放り投げると、川の中から、ここの主と思しき大きな魚が現れ、翁はこれに乗り、水上を陸のように移動して見せた。そして翁が言う。


我は、小西行長の近習で「森宗意軒」。秀吉公の時代にオランダへも留学。異邦の達人よりこの幻術を授かる者なり。

主君小西行長が切腹となる時に、必やこの無念を晴らしてくれ!志を同じくする者を集めて謀反を起こせ!と、宗意軒に遺言します。これを受けて宗意軒、

志を同じくする者を求めておりましたが、なかなか見付けられないでいたが、ここに、由井正雪が、謀反の志を持つと見抜き、彼に天文運気、兵法、そして幻術までも授けるのでした。

勿論、聡明にして器量優れた正雪なれば、乾いたスポンジが水を吸収するが如く、これらの技と知識を吸い尽くすのでした。



つづく