入船亭扇辰師匠の総領弟子、小辰さんの横浜にぎわい座、のげシャーレの独演会に、先週の日曜日20日に行きました。
根多出しが『鰍沢』と言うのでね。ちょうど、講釈に『鰍沢』を直してみるのに挑戦したばかりで、少し気合いを入れて聴いて来ました。
そんな、入船亭小辰さんの、第五回ハマコタ!こんな女郎特集?な、三席でした。
1.五人廻し
マクラでは、女房が怖い!!と、少しお茶目なエピソードを語る小辰さん。兎に角、酒飲んで帰ると、だらしなく素ッ裸で寝てしまうと言う。
まだ、それでも、自分のベッドへ辿り着いて寝ていたら、それ程小言は喰らわないそうですが、リビングや台所で、寝たりするらしい。
ある日、リビングで、素ッ裸で体育座りの状態で寝ていたら、奥さんに『あら?!ターミネーター?』って冷静に突っ込まれたそうです。
だから、奥さんがカレーを作る日は、怖い!と、言う小辰さんでした。そんな話題から、東西の郭遊びの違いを振って、江戸の郭は、中店以下は基本廻しだったと説明してから、『五人廻し』へ。
最初の花魁は「喜瀬川」。性格がネジ曲がった花魁で、わがままです。そして、この話には、廻しで振られた四人と、間夫の五人が登場するのだが、
小辰さんの『五人廻し』も、当然五人が登場し、振られた四人は、チャキチャキの江戸っ子、田舎っぺ大将、奥さんが病弱な軍人風紳士、そしてカマっぽい若旦那。
この四人を上手く特徴を掴んで演じ分ける、小辰さん!!本当に上手い。
江戸っ子は、牛の喜助に、愚痴を溢しているうちに徐々に怒りが増長されて、最後は啖呵を切る。実に自然で流暢、かつ聞き取り易く高速な啖呵である。
次が、陽気なだけが取り柄の、自身を田舎っぺとは全く自覚していない田舎者。
三人目は、最初は威勢がいいが、後半は実に女々しい紳士、感情が昂ぶると訛りが出る実直派である。最後の方は兎に角、女々しい。
最後のオカマっぽい若旦那は、臭くなりガチなキャラクターだが、上手く節度を持って演じているのがいい。四人の対比の、強さのバランスがいいから、振り回される喜助で笑いが起きる。
最後は、間夫の杢兵衛大尽が、喜助に四円払って振られた四人を追い返すが、杢兵衛大尽自身も、自分が渡した一円を喜瀬川から渡されて、お前も帰れ!と、やられます。
ちょうど、マクラ入れて三十分。本編は22〜23分で、実に良いテンポで素晴らしい!と、思いました。
2.明烏
二席目の女郎と言うか、花魁は「浦里」。傾城傾国、当時全盛の花魁です。
父親の日向屋半兵衛が、息子の時次郎を、町内の札付き、源兵衛と多助に託して、吉原へ送り出すまでが、実に簡潔で、無駄が削がれていて、まず、高感度UP!!
時次郎と、源兵衛、多助のキャラクターの作り方は、小辰さん独自と言うよりは、お客様が、頭に思い描くキャラクターを、最大公約数的に描いてくれます。
割と、トントン、トーンとサゲ近くまでテンポ良く展開して、源兵衛と多助が、男に成った時次郎を、次の間の、寝間で発見する。
ここの時次郎の様子は、やっぱり、羞恥心半分と、喜び半分ですよね。そして、二人が振られたと知ると、喜びは優越感へと変わる。
そんな感じが、私は好きなのですが、小辰さんの演出は、終始、時次郎は羞恥心強めに照れてばかりな感じでした。小辰さん、真面目過ぎ。
もう少し遊びが入ると、いいのにと、思いました。欲でしょうか?
3.鰍沢
最後は、熊蔵丸屋の「月乃兎」花魁です。心中のやりそこないで、男と手に手を取り、信州の山奥まで足抜けして来た、情念の女。
絵草紙屋の大川屋伸介と旅人が名乗るので、小満ん師匠が元なのか?兎に角、丁寧には演じてくれましたが、味付けが薄目です。
淡々と展開するけど、お熊のキャラクターがまだ完成していないのか?キャラクターが全面に出て来ません。
お熊の旦那、伝三郎が死ぬ場面から、お熊が鉄砲を持って伸介を追い掛ける急流の筏下りまでも、手に汗握る感じが致しません。
何かキッカケを掴むと、小辰さんは勘がいいから、ガラりと変わる予感、期待はありますが、まだ、演じていて、楽しそうじゃない。楽しくできるようでないと、やっぱり駄目ですね。
次回第六回は、来年四月十九日・日曜日です。