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マーロールのブログ

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リゲリオンの召喚獣が、水龍神の間を水浸しにする。その水は、リタ達を飲み込もうとしているかのように、彼女達を追い詰めていく。


「もう。何なのよ、この化け物は! まるで、体が溶けてるみたいじゃないの!」


「まあまあ、落ち着けよ。戦うのは、君一人じゃないんだからさ」


リタは、ナンシーを宥めるように言った。


とうとう彼女達は、噴水状の彫刻の近くまで追い詰められてしまった。ナンシーが言った通り、水属性の召喚獣はまるで体が溶けているかのように、三人を水に浸し始める。


「ヒャッカンタフ(砂の爪)!」


「アックス・ブーメラン(斧のブーメラン)!」


リタは、爪で敵を引っ掻くように右腕を振り、攻撃した。ナンシーは、炎を纏った斧を敵に向かって投げた。一方でヨゼフは、怯んでいるせいか、槍を持つ手が震えている。それを気にして、リタが訪ねた。


「どうした、ヨゼフ。君も、何か魔法を繰り出すんだ」


「わかってるよ。だけど……」


「ここは、君の故郷にある神殿だ。守らなくてどうする?」


リタの言葉を聞き、ヨゼフははっとした。


(リタの言う通りだ。ここは僕の故郷、アヌテラにある水龍神の神殿だ。僕が、この神殿を守るんだ。そして、リタやナンシーも)


(僕は家族を全員、キアに殺されてる。これ以上、大切な魔族を失いたくない!)


(偉大なる水龍神アークレイよ。どうかこの僕、水龍族のヨゼフに力をお貸しください! 大切な魔族達を守るための力をお貸しください!)


ヨゼフが願っている間にも、召喚獣が放つ水の魔力は、徐々にリタやナンシーを飲み込んでいく。そして遂にはヨゼフをも飲み込んでいき、息をするのも限界になってきた。


(駄目だ。天井の近くにまで水が来てる。おまけに、眩暈までしてきた。私達は、ここで死んでしまうのか……)


リタ達は、必死にもがいている一方で、半ば諦めかけていた。二人の仕種を見て、ヨゼフは諦めないで頑張ってくれと言いたげに、彼女達の方へ泳いでいく。


その時だった。――


突然、ヨゼフの体が青色の光に包まれる。これは、リタが実際に砂龍城で経験した現象と同じものである。リタは少しだけしか目が開かなかったが、ヨゼフの体の変化だけはしっかりと捉えることができた。


(え? ヨゼフが、青い光に包まれてる? もしかして、私が経験したあの現象で、彼も元に戻ろうとしてるのか?)


リタは思った。やがて光は消え、ヨゼフは息継ぎもせず、リタとナンシーを両脇に抱え、そのまま召喚獣に突進した。彼の攻撃に驚いたのか、召喚獣は魔力を弱める。そのおかげで、リタ達は神殿内で起こった大洪水から脱出することができた。


ふと、リタはヨゼフの顔が、元の龍魔族らしい顔に戻っていることに気づく。


「ヨゼフ、顔が元に戻ってる」


「え?」


ヨゼフは慌ててリタの手鏡を借り、自分の顔を見た。その手鏡に映っていたのは、水色の角や少しだけはねている赤紫色の鬣、真っ青な全身に薄紫色の目が揃った姿だった。急に自分の姿が元に戻っていたので、ヨゼフは驚いた。


「どうして、僕の姿が……」


ヨゼフは首を傾げて言った。


(ヨゼフが……彼が、二人目の龍戦士?)


リタは、半信半疑だった。が、ヨゼフが手にしている武器は、魔道族の職人が創った槍ではないのは確かである。彼が手にしている槍は、先程私が七メートル斜め下から眺めていた物だ、とリタは感じた。


ヨゼフは自分の姿を確認した後、もう一度水系魔道師と召喚獣の方を向く。


「水系魔道師リゲリオン。今、僕は猛烈に怒ってる。お前はこの神殿を荒らし、僕の親しい友二人を――そして僕自身を、何の理由もなしに襲った。そんなお前を、僕は許さない!」


ヨゼフは、水系魔道師に怒りをぶつけるかのように、槍先を召喚獣に向ける。そして彼は高く跳び上がり、空中で一回転し、召喚獣を裂いた。その時既にリゲリオンは、三人の前から去っていた。


(リゲリオン。仲間を置いて逃げていくなんて、相当な意気地なしだな)


ヨゼフは思った。少しふらふらしながら、リタ達が彼の近くに来る。


「助けてくれてありがとう、ヨゼフ。君には借りができたね」


四枚の翼を上下に動かしながら、リタは礼を言った。ナンシーも似たようなことを言い、「この借りは必ず返すからね」と付け加える。三人は微笑んだ。


その時、ヨゼフが右手に持っている槍が、青く光った。やがてその光は大きくなり、ヨゼフと同じ体が青い龍の姿に変わる。ヨゼフは、その光の正体が《水龍神アークレイ》であることに気づく。


「あ……あんたは、水龍神アークレイか?」


ヨゼフは確認するように言った。水龍神は頷く。


『ああ、そうさ。ヨゼフ、俺はずっと君を見守っていたよ』


「え? それはどういう……」


『君が伝説の冒険家ラルフの長男として生まれ、過酷な奴隷生活を経てどのように成長してきたかを、十三年間見守ってきたということだよ』


「そしてそのうえで、僕が水龍戦士にふさわしいかどうかを確かめるために、試練を与えたのか?」


『そうさ』


水龍神は頷いた。それは彼にとって、ヨゼフが新たな水龍戦士にふさわしい、と判断しているようでもある。


『ヨゼフ、君にガルドラを守るための力を与える。俺が千五百年前に、闇龍を封印した時に使った槍だ。俺はこれからも、君を見守っていく』


「ありがとう、水龍神」


ヨゼフは、水龍神から槍を授かった。同時にそれは、彼が水龍戦士として目覚めた証でもある。――



リタ達は神殿の門を出て、一息ついた。


「あの召喚獣に襲われた時は、どうなることかと思ったよ。ヨゼフが助けてくれなかったら、確実に溺死してた」


「まあ、これはランディー陛下との約束だからね。当然さ」


ヨゼフは、顔を赤らめて言った。


三人は、乗船場に向かって走った。船の出港時間が、残り六分しかなかったからだ。三人が乗船場に着いた時、彼女達の前に、ラノア族長とスーラルがいた。


「やあ、ヨゼフ。見送りに来たよ」


スーラルは陽気そうに言った。ヨゼフはありがとう、と言いたげに、指を二本出して合図する。


「ヨゼフ、やっぱりリタさん達と一緒に行くのですね?」


「ええ。ランディー陛下と約束したのです。リタを守ると」


「でしたら、これを」


そう言いながら族長は、ヨゼフにお守りのような物を渡す。それは、雫の形をしたペンダントだった。


「ありがとうございます、族長」


ヨゼフは、族長に一礼をして船に乗った。船長が出港を告げる。彼は、族長達に手を振り、声をかけた。


「用が済んだら、また戻ってきますから」


と。――